表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
93/572

第92話「俺のセーラー服②」

「おいサキさん、俺までセーラー服にしたら意味がないぞ!」


 俺は二階の廊下の手摺りに乗り出して、一階の広間にいるサキさんに抗議した。


「何を言う! 良い感じではないか?」

「いや、二人ともコレだと淡い恋の一ページが始まらんじゃないか!」

「ミナトの体型で学ラン着ても微塵も男に見えぬ。わしが経験済みである。それから、そこに立っておると恥ずかしいビラビラのパンティーが丸見えだわい」

「何を言う! このヒラヒラが可愛いのに!?」


 俺はスカートの裾を押さえて一歩飛び退いた。しかしそうか、サキさんは経験済みか。

 確かに今の俺が学ランを着ても仮装にすらならんだろうな……。


 俺の抗議をよそにすたすたと一階に駆け下りて行ったティナは、サキさんにセーラー服姿を見せて喜んでいる。

 ティナは肩に手をやったり腰に手をあてたりして色々とサキさんに説明しているようだ。

 それを聞いているサキさんは、うんうんと頷きながら、今度はサキさんの方が自分の体を指さしながら説明を始めて、ティナと二人で笑っていた。

 どうやら体型の違いを互いに説明しながら、今の状況を楽しんでいるらしい。


 楽しそうで何よりです。



「わしも自分の学生服縫おうかの。今の自分に着せてみたい。元の世界で着たときはちんちくりんだったしのう……」

「いいんじゃないか? サキさん黒髪だし、学生服も似合いそうだ」

「そうか? では今から生地でも買ってくるかの」

「部屋に置く姿見も買って来いよ。せっかくの晴れ姿が自分で見れんのはつまらんだろ?」

「うむ。では行ってくる!」

「待ってサキさん! 姿見も買うならお金が足りないわよ!」

「あ、そうか。いくらするかな? 手鏡でも銀貨100枚以上だからな……とりあえず金貨100枚持って行け。足りんかったら恥かくぞ」

「すまん。助かる!」


 すっかりやる気になったサキさんは、俺から金を受け取ると駆け足で家を飛び出した。


「相変わらず慌ただしいやつだなあ」

「サキさんらしいわね」


 俺とティナも戸締りをしてから家を出た。馬は出払っているので、今日は歩いて街まで行くことになる。

 家を出てからずっと、ティナは俺の希望通りに手を繋いでくれていたが、二人ともセーラー服なので仲のいい女友達にしか見えない感じだ。


 俺が期待していた淡い恋の一ページが始まる気配は、今のところはなさそうだ……。






 さて、ティナを連れて街の中までやってきた俺だったが、完全に思い付きで家を出てきたせいもあって、一体これからどうすれば良いのかわからないでいる。


「ティナはどっか行きたい場所ある?」

「ミナトに付いて行くわ。ちゃんとエスコートしてちょうだい」

「あーうー」


 まあ、そうですよね。どちらかと言えば、俺の方がエスコートされたい……。

 ユナならともかく、俺とティナでは遊べるような場所に詳しくないので、適当に落ち着ける場所まで行くことにした。


「とりあえず近くの公園に行ってみないか?」

「いいわね」


 俺とティナは、大通りにある一番近い公園の隅っこまで移動してから、木陰のベンチに腰を下す。

 人々が行き交う通りと、荷馬車などが往来する通りに挟まれた位置なので、人々の様子を眺めているだけでも退屈しない場所だ。



「見て、あの子が着てる服可愛いわよ」

「ファッション雑誌なんかないし、こうやって観察しながら参考にするのもアリだな」


 ティナが指さした方を見ると、確かに服のセンスがいい女の子が歩いていた。

 よくよく観察すると、冒険者風のパーティーもちょくちょく歩いていて、装備品の組み合わせなども参考になる。


 俺とティナは、道行く人々の服装や髪型で盛り上がりながら、今後の参考にしようと二人でメモを取っていた。


「こうやって街の人を観察したことってなかったな」

「そうね。いつも自分たちの気分で服を選んでいたけど、この世界の人たちを直接参考にしたことはなかったのよね」

「だなあ。そう言えば、こっちの世界の男は服がカッコいいと思わんか?」

「カッコいいと思うわ」


 俺はカッコいい服を着た男の人が通るたびに、サキさんに似合うかをイメージしてみた。

 あいつは大雑把なだけなので、ちゃんと選んで買ってきたカッコいい服なら喜んで着るだろう。赤マントの時もかなり喜んでいたし……。






 俺とティナは服の観察に飽きてしまい、今度は反対側の通りに目を向けていた。


「荷馬車も色んな種類があるな」

「同じ荷台を探す方が難しいわね」


 規制も規格もないのだろうか? 明らかに同じ一団ならともかく、道行く荷馬車は作りも大きさも全てバラバラだ。

 暫く荷馬車を眺めていると、何処かで見たような人物が目に入った。


 ひと際目立つ短髪赤毛で小太りのおばさ……ふくよかな女性、行商人のシャリルだ。


「おーい! シャリルーっ!!」


 俺はティナを引っ張って、シャリルに手を振りながら通りの方へ走り寄った。

 シャリルは馬を止めて俺の方を向いたが、少し間を置いてから荷馬車を端に寄せる。



「ようシャリル、久しぶりだな」

「……ミナトかい? 随分雰囲気が変わったから気付かなかったよ。ティナも元気そうじゃない」

「シャリルも元気そうね」

「ああ、ちょっと太っちまったけどね」


 本人の言う通り、以前会ったときよりもシャリルは太っていた。縦横の比率が同じになった腹をパンパンと叩いている。

 あれから料理の練習を欠かさずにやっているらしい。仕損じた料理も律儀に食っていたら太ってしまったと、面白そうにシャリルは笑った。


「また何処かに行くのか?」

「そうさね。今からエルレトラ行きだよ。冬になると動き辛いから、今のうちに走り回っているのさ!」


 シャリルの後ろに見える荷台は、謎の木箱や麻袋で満載になっている。専門は宝石や貴金属だったはずだが、それ以外にも便乗できる品物を運んでいるのだろう。



「おっと、こうしちゃいられない。悪いけど私は行くよ。冬の間は王都に居ることが多いから、実家の店まで遊びに来てよ。王都の北側、ロラン宝石店って言えばすぐにわかるからさ」

「必ず遊びに行く。それじゃあ元気でな!」

「あ……シャリル! 王都にない調味料を見掛けたら適当に買って来てくれないかしら?」

「あいよ。私も欲しいから、暇を見て集めとくよ。それじゃあまたね!」


 シャリルは俺たちに手を振ると、街の正門目掛けて一目散に駆け出した。


「冬になったらみんなで遊びに行こうか……」

「ロラン宝石店だったわね。忘れないようにメモしておきましょう」


 シャリルと別れた俺とティナは、適当に公園の遊具で遊んでみたりしていたが、ティナの「晩ご飯の支度」という一言で家に帰ることになった。

 思わぬ再会こそあったが今回は失敗した。今度ティナを連れ出すときは、どこで何をするのかきちんと考えてからにしよう……。






 俺とティナが家に帰ると、家の前には人力の荷車が止まっていた。


「屋根の工事でもしてるのかな?」

「一日でできるものなの?」

「どうだろ?」


 俺はティナの手を引いたまま勝手口の方まで回ってみた。


「あ。ミナトさん、ティナさん、おかえりなさい……そこはもう少し右でお願いします」


 家の裏では、ユナと職人のおじさんが作業をしている。今朝の話では離れまでの通路にテラス屋根を追加する事になっていたのだが、それらしいものはない。

 ティナは調理場に移動してしまったが、俺が興味深げに観察しているといつの間にか作業が終わったようだ。



「ほい。いっちょ上がり!」

「お疲れ様でしたー」

「あれ? 完成したん?」

「はい。色々考えたんですけど、テラス屋根はやめてオーニングテントにしたんです」


 完成したらしい屋根を職人のおじさんがテストしている横で、ユナが説明してくれた。

 オーニングテントとは、よく店の正面に張ってある日除けみたいなテントの屋根だ。

 今まで正式名称は知らなかったが、オーニングテントと言うのか……。


「ほら、見てください」

「ほーう……」


 調理場側面の薪置き場の屋根に追加されたオーニングテントは、職人のおじさんがハンドルを回すと見る見るうちにその面積を広げて、トイレ兼馬小屋の位置までを覆った。


「こんなに広がるのか。これなら雨に濡れてもここである程度拭いてから家に入れるな」

「豪雪や暴風の時はテラス屋根だと壊れるみたいですけど、これなら畳んでおけば大丈夫ですし、壊れてもそこまで高くありません」

「そこまでは考えてなかったな。テントだと雨漏りは大丈夫か?」

「重さを考えずに丈夫な生地が使えるので、携帯用のテントとは比べ物にならないですよ」


 なるほど。俺が気付く程度のことならとっくに考えた後なのか。

 俺が面白がってハンドルを回して遊んでいると、職人のおじさんはユナから代金を受け取って、荷車を引きながら速足に帰ったようだ。

 当然か……もう日が傾きかけている。






 オーニングテントに満足した俺は、ユナと一緒に家の中へ入ったが、今日は珍しくサキさんが広間に居なかった。


「サキさんは部屋に籠っているのか?」

「掛け軸の絵を描いたり、自分の服の型を作ったりしてるみたいですよ」

「相変わらずクリエイティブなやつだなあ」

「そのセーラー服もサキさんが作ったんですよね?」

「俺の方は学ランにして欲しかったんだけどな。かなり出来がいいぞ。着てみる?」

「遠慮しておきます」


 ユナが着るとどんな感じになるのか興味があったのだが、笑顔で断られた。

 そういえばユナの年齢だと現役の中学年だったはずだな。俺やティナやサキさんみたいに学生時代を懐かしむような年でもないか……。


「近所のお姉さんが通ってた高校の制服は可愛くて着てみたかったですけどね」

「前に買ってた学生服っぽい組み合わせの感じかな?」

「そうですね。あんな感じで、本当はブレザーが付くんですけど」

「そういうのこそ、サキさんに頼んだら何とかしてくれるんじゃないか?」

「いいんでしょうか?」

「無理そうでもチャレンジだけはする男だ。大丈夫だろ」


 俺はその場の勢いで無責任な発言をしてしまったが、ユナは部屋から制服っぽく組み合わせて買った服を持ち出して、そのままサキさんの部屋に入って行った。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ