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第86話「おかわり」

 ユナが先に離れるまでティナのおっぱいにしがみ付いていた俺は、甘えん坊勝負には勝ったが軽く湯疲れを起こしていた。


「冷蔵庫に冷やしてあるの飲んでくる……」


 俺は素っ裸で調理場に行き、冷えたお茶を飲んで一息ついた。ティナとユナも素っ裸のまま頭にバスタオルを巻いた状態で自分の部屋に戻って行ったみたいだ。


 俺も頭にバスタオルを巻いて自分の部屋に戻ろうとしたが、玄関の扉を叩く音がしたので体にバスタオルを巻き直して玄関の扉を開けた。



「はいはいはい。今開けますよ!」


 執拗に扉を叩くので俺が慌てて玄関の扉を開けると、扉の向こうで鈍い音が聞こえる。


「いってえぇーーっ!」


 玄関の前にはシオンと地面にしゃがみ込んだハルがいた。ハルは暫くしゃがみ込んで顔を押さえていたが、シオンは急に赤い顔をしてくるりと後ろを向いてしまう。


「無事に帰ってきたんだな。てか、良くこの場所がわかったな」

「ああ……強面の親父さんに聞いたんだ。リトナ村の村長さんからお礼の土産物を持たされたので、昨日のお礼も兼ねてミナトに届けに来たんだ……が……」

「そうか。わざわざ悪いな。後ろ向いてないで中に入れよ」


 シオンは後ろを向いたまま振り向こうともしない。重そうな木箱を脇に抱えてるし、パンパンの背負い袋も背負ったままで重たいだろうに……。



 俺がどうしたものかと考えていると、顔を押さえて半泣きになっていたハルが復活して立ち上がった。


「うわ! なんて恰好してんだよ! 服着ろ! 服っ!」

「風呂上がりだったんだよ! 仕方ないだろ!」


 ハルはプイと頭だけ横に向けて叫んだ。なんだこいつら。面倒くせえなあ……。

 そう思いながら俺は自分の格好を見たが、紙一重で股が隠れる長さのバスタオル一枚で胸に谷間が出来ている自分の体はちょっとエロいなと思った。


「……お前ら、ミナトちゃんの体でエロいこと考えてないだろうな?」

「バカか。考えてねーよ!」

「くっそ。女扱いされてないのかよ。ちょっと時間掛かるから家の中で待っててくれ」


 俺は急いで階段を上って自分の部屋に入った。






「誰か来てるの?」


 俺が急いで部屋に入ると、髪を乾かしながらティナが聞いてきたので、俺は手短に状況を説明した。


「ミナトも女の子なんだから、気を付けないとだめよ?」

「はいすみません」


 俺は自前の魔法で一気に髪を乾かすと、絡んだ髪を魔法の櫛で一撫でしてから下着を付けた。ティナはまだ髪を乾かしている途中だったが、俺に浴衣を着せてくれる。


「私たちはまだ掛かるから、先に相手しててちょうだい」

「わかった」


 俺は部屋を出て、広間で待たせているシオンとハルの相手をすることにした。



「待たせたな……装備とか外して楽にすればいいのに。あと、家の中では靴を脱いでくれ」


 俺は外国人に言うお約束のセリフを言って、二人に靴を脱がせた。すっかり忘れていたが、ここでは靴を脱ぐ習慣が無かったんだよな。


「突然押しかけてしまってすまない。先に村長さんから預かった土産物を渡しておこう」

「重そうなのに悪いな……なんだこれ? 酒かな?」

「村で毎年作ってる地酒らしいぜ。俺らも昨日飲んだけどうまかった」


 栓を開けて匂いを嗅いでみたら濃厚な酒の匂いがした。これはサキさんが喜びそうだ。


「ミナトは面白い服を着てるな。その、似合っていると思うが……」

「浴衣だよ。今日の夜は花火をやるからな」

「……なんだいそれは?」

「夜空に光の花を咲かせる遊びだ。乗合馬車のキャンプ場でもやったんだが、見てなかったのか?」

「あの日は夜中の見張りに備えてすぐに寝てしまった。随分騒がしかったのはそのせいか」


 真面目なシオンらしい答えが返ってきた。


「ほんとは夏の風物詩なんだけどな。二人も見ていくか? 食い物も用意してあるし楽しいぞ」

「食い物があるのか? じゃあ俺参加」


 ハルは花火ではなく食い物に乗せられた。食い物の方はおまけなんだがなあ。



「それなら冒険者の宿で部屋を取ってから出直して来よう。今日から僕たちは強面の親父さんの宿に泊まることにしたよ」

「駆け出し専門の宿はダメだったか?」

「あそこはメンバーも集まらないし、討伐依頼は殆どがゴブリンばかりだからね」


 なるほどな。メンバーが集まらないのはパーティー名のせいだと思うが、いつまでもゴブリン討伐だけでは食っていけないだろう。

 昨日みたいな依頼なら報酬も良いのだが、数が多いと二人では難しいだろうからな。


「そろそろ他の参加者も集まってくるだろうから、急いだ方がいいな」

「わかった。荷物を置いて着替えたらすぐに戻って来るよ」


 シオンとハルは重そうな背負い袋を担いで家を後にした。俺は二人が靴で歩いた場所を箒で掃いてから部屋に戻る。






 部屋に戻ると、着付けを終えた二人が髪を結っている途中だった。俺は二人の作業を見守りながら、広間での話を報告する。


「ゴブリンばかりですか……昨日みたいな不確かな情報で銀貨数百枚の報酬を考えると危険に釣り合わないですよね」

「そうだなあ。俺たちなら数が多いほど楽でうまい依頼なんだが、魔法も無くて二人パーティーだとあの数は脅威でしかないからなあ……」

「そうですよね。四人で弓が使える状態ならあの倍の数がいても平気ですよね……」


 ユナは恐ろしいことを言ったが、たとえゴブリンが五十体攻めてきても、四人で魔法の矢を2本も撃てば相手を壊滅状態にできるだろう。

 まあ、実際にそういう依頼があっても受けないけど。昨日のようにパーティー全員で弓を使えない事態になったら、それこそエミリアの心配が的中してしまうからな。



 俺が木窓に頬杖を突いて家の前を眺めていると、白髪天狗にサーラを乗せて手綱を引いているサキさんとナカミチの姿が見えた。


「サキさんがナカミチ連れて帰って来たな。途中で合流したんだろう」


 髪を結い終わった二人と一緒に、俺は一階の広間へ下りた。






 広間に行くと食材を集め終わったエミリアが一人放置プレイを楽しんでいた。テーブルにはシオンが置いて行ったリトナ村の地酒の他に、三段重ねの木箱がある。


「いつの間に来たのかホントわからんよな」

「沢山買ってきましたよ。保存の魔法を掛けてあるので鮮度も大丈夫です」

「お疲れさま。後でサキさんに調理場まで運んでもらいましょう」


 そのサキさんも玄関からナカミチとサーラを連れて入ってくる。

 ナカミチはサーラの靴を脱がして来客用のスリッパを履かせているが、自分は裸足のままだ。確か来客用を含めて六足しかスリッパが無かったんだよな。今度買い足そう。


 ナカミチは部屋の中でもサーラと手を繋いでデレデレの顔をしている。俺はホントに大丈夫なのか心配になりながらサーラを見た。


「ちゃんとした服買って貰えたんだな。必要な物はハッキリ言った方がいいぞ」

「はい、大丈夫です。それから、水の魔法ありがとうございました」


 サーラは真新しいスカートの裾を摘まんで丁寧に礼をした。ちゃんとした子だなあ。ティナが言ったように、案外尻に敷かれる日もそう遠くないような気がするぞ。


「お。良く見たら浴衣じゃねーか。良くできてんな。やっぱティナちゃんは似合うな」

「そう? ありがとう」


 真正ロリコンのナカミチは俺とユナには目もくれず、ティナの体を下から上へと舐め回すように観察した。



 サキさんが三段重ねの木箱を調理場に運んだので、ティナも仕込みの準備をするため調理場へ向かう。


「ティナがプリン作っておった」


 木箱を運んだサキさんは、自分だけプリンを持って調理場から戻って来た。プリンが何なのかわからないエミリアとサーラが不思議そうにそれを眺めている。


「てめえ一人だけかよ」

「全員分はないから今食って良いと言われたのだ。まだあるわい」


 俺とユナは調理場に行って木箱の冷蔵庫からプリンを七つ広間に運んだ。当初の予定では八人だったが、シオンとハルが加わったので足りなくなってしまったらしい。

 サキさんがミシンの椅子に座って一人で勝手に食い始めたので、ティナも一端仕込みの準備をやめて、広間のテーブルを囲いながらみんなとプリンを食っている。



「まだこんな隠し玉があったなんて驚きました。これは美味しいですね」


 エミリアは上機嫌でプリンを頬張っている。まあ隠してたんだけど。プリンは先月、対エミリア用の切り札として取っておこうと言った物だ。

 今ではもう我が家にズブズブの関係なので、今更隠しておくこともないだろう……。

 サーラの方は、初めてエミリアがうちで夕食を食べた時のような反応をしている。


「これもまた懐かしーな。こういうのも魔法で作ったのか?」

「材料は王都で普通に手に入るわよ。最後に冷やすのだけは魔法だけど、冬場なら魔法はいらないと思うわね」

「へえぇ……」



「……一個余ってるな?」


 この場にいるのは、俺とティナとユナとサキさん、ナカミチとサーラ、そしてエミリアの七人だ。

 本来ならジャックの胃袋に収まるはずだった残りの一個だが、涙目でおかわりを要求するエミリアが満場一致の同情票で残りのプリンを勝ち取った。


「サーラは我慢して偉いな。エミリアみたいなみっともない大人にならないようにな」

「はい、気を付けます」


 俺がサーラに悪い見本を説明すると、サーラは素直に俺の言葉を受け入れた。






 ティナが食材の仕込みをしている隣で、俺とユナはプリンの容器を洗っている。

 日もだんだんと落ちてきた。サキさんは仕込みが終わった食材と調理台を担いで河原まで運び、エミリアは魔法でかまどの薪を燃やし、ナカミチはサーラの手を引いて川のほとりを歩いている。


「そろそろ始めるか。花火やり始めたら焼けなくなるし」

「そうね」


 俺たち三人は、色んなタレの入った小鍋を持って河原まで移動した。


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