表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
84/572

第83話「奇襲攻撃」

「あれ? ミナトじゃん」


 見回りから戻ってきたハルはあっけらかんとした口調で言った。あまり緊張感がない。


「ハル、向こうの様子はどうだった?」

「マズいぜ……連中、今晩辺り村に攻めてくる気だ」


 元々目つきが悪いハルの目が更に鋭くなった。いい加減な情報ではないようだ。


「夜中に村を掻き回されてはかなわぬ」

「ですね。明るいうちに奇襲した方がいいと思います」


 俺たちが王都を出たのは昼頃だ。日が沈みだすまでにはまだ時間がある。

 サキさんが言うように、日が沈んでから村のあちこちでゴブリンが暴れ回るようなことになれば、村人を守りながら六人で対応するのは難しくなるだろう。


「二人とも以前話していたと思うが、こっちの全身鎧がサキさんで、こっちはハルと同じ弓使いのユナだ」

「よろしく頼む」

「初めまして」

「二人ともよろしく。僕はシオンで、今日は特に目つきの悪いこいつがハルだ」

「よろしくだ。ヘタレのシオンよりは役に立つぜ」


 シオンとハルは互いに肘打ちをしながら自己紹介した。サキさんはその光景を羨ましそうに眺めている。



「時間がないので手短に話す。俺たちはこれからゴブリンの集落に乗り込むので、村長は村人全員をここに集めて、その周りを村の男たちで囲んでください」

「すぐにそうしますじゃ」


 村長は俺たちをここまで案内した若い男に指示を出した。


「僕たちはどうするんだい?」

「ここで村人たちを護衛するか、一緒に集落に乗り込むか、好きな方を選んでくれ」

「シオン、俺たちも行こうぜ」

「……いや、六人の網を抜けたゴブリンがこっちに来るかもしれない。ミナトたちのパーティーはゴブリンの数を減らすことに専念してくれないか? 多少ならこちらに来ても僕とハルで対応できる」

「俺たちは留守番かよー……」

「ゴブリンの集落まではハルに案内してもらうから、途中までは来てもらうぞ」

「良し任せろ!」






 俺たちはハルの案内で村を横断している。リトナ村の左側は山になっていて、右側は緩やかな傾斜の畑が広がっていた。

 村の中央付近には山から流れてきた幅1メートルくらいの小さな川があって、細い木の幹を適度に束ねた橋が架かっている。


「普段はのどかな村なんでしょうね」

「そのようだの」


 村の端まで行くと細い獣道が続いていて、その奥が小さな丘になっている。

 先頭のハルが身を伏せたので、俺たちもそれに習った。


「あの丘の先だ。くそう……見張りを付け始めたようだぜ……」

「どこだ?」

「一番奥の茂みの所ですよ。ミナトさんの位置からだと見えないかも」

「ここで見つかったら奇襲の意味がないわね」

「私がやってみます」


 ユナは矢筒から氷の矢を取り出して、真新しい弓につがえた。



 俺はこっそりとユナの後ろに移動したが、見張りまでの距離はそこそこある。周りに生えている木の合間を縫って射貫く感じなので、なかなか難しい狙撃だ。


「これと同じ状況は裏の森で散々練習したんです」


 すっと立って狙いを付けると、ユナは見張りのゴブリンに矢を放つ。

 その矢は木々の間を縫うように飛んで、ゴブリンの胴体付近に突き刺さった。

 刺さった瞬間ゴブリンのいる周りが白い霧のようなもので包まれたが、それはすぐ風に掻き消されて、白い霧に包まれていた範囲はゴブリンもろとも凍結していた。


「おいミナト、今の何だよ?」

「魔法の矢だ。ここで声を出されて敵が押し寄せてきたら村人の命が危ない」

「やべえ……撃ってみてえ。なあ俺にも1本くれ!」


 ハルがゴネ出しても面倒なので、俺は炎の矢を1本渡した。






 小さな丘に登ってその奥を見渡すと、丘の向こう側は空き地のようになっていた。

 辺りには朽ち果てた納屋も見えるがいくつも土砂崩れの後があり、なるほど危険なので普段は寄り付かない場所になったのだなと容易に想像ができる。


 問題のゴブリンたちは、朽ち果てた納屋の前に大柄なゴブリン……ホブゴブリンだと思う……が王様のようにふんぞり返り、ホブゴブリンの目の前には普通のゴブリンと犬のような頭をした物が座り込んで何やら話をしているようだ。


「あの犬っころみたいな頭がコボルドだ」

「へえ、あれがそうか……」


 ざっと数えてみたが、ホブゴブリン一体、ゴブリン十六体、コボルド四体だ。斥候と見張りで二体倒したので数は合っている。


「言語があるのかしらね?」

「あるらしい。昔長老が言ってた。俺じゃわかんねえけど」

「微妙にばらけてるのが面倒だな……」

「どうするのだ?」


 俺はゴブリンの一団の配置を頭の中で整理しながら考えた。空き地の奥は土砂崩れで道がないので、逃げるにしても俺たちがいる丘を下る必要があるだろう。

 山の奥に逃げられると困るが、こちらの人数が少ないのを見れば舐めて掛かって来るかも知れない。



「……ここはハルにも手伝ってもらう」

「おうよ」

「ユナとハルは丘の左右に展開して、炎の矢を構えてくれ。サキさんを先頭にして、俺とティナがその後ろに続く感じだ」

「うむ」

「サキさんは一人で先行してゴブリンを挑発しろ。やつらが襲ってきたらユナとハルの二人で一番敵が固まっている所に矢を撃ってくれ」

「わかりました」

「さっきの矢撃っていいのか? へへ……楽しみだ」

「俺とティナが魔法で敵を減らして行くから、抜けてきたやつは必ずサキさんが仕留めろ」

「任せておけ。必ずやる」


「山の方に逃げ出す奴がいるかもしれん。それは優先的に弓で仕留めてくれ。仮に挑発が失敗してみんな山に逃げ始めたら、倒せるとこまでやって深追いはしない」

「その時はホブゴブリンを優先して仕留めましょう」

「そうだな。それじゃあ配置に付いてくれ。始めるタイミングはサキさんの判断でいい」


 全員それぞれの配置に付いて互いに確認を取り合うと、サキさんが丘の上に立った。






 サキさんが魔槍グレアフォルツを自分の籠手に打ち付けて音を鳴らすと、それに気付いたゴブリンたちが一斉にサキさんに注目して、笑い出した……んだと思う。

 一番奥のホブゴブリンもひとしきり膝を叩いて笑ったあと、立ち上がったゴブリンの群れが一斉にサキさん目掛けて走り始めた。


 俺たちがいる丘から朽ち果てた納屋までは若干の距離がある。

 俺とティナはゴブリンたちが襲い掛かってくるのを確認すると、サキさんの後ろで左右に陣取ってから魔法のタイミングを見計らっている。

 増援で出てきたのが女二人なので油断しているのか、ゴブリンたちが立ち止まる様子はない。むしろ俺とティナを襲おうと二列に分裂してしまった。


 ゴブリンの群れが左右に別れたタイミングで、それぞれの群れの中央に直径5メートル程度の火の玉が二つ燃え上がった。

 群れの先頭にいる敵は難を逃れたが、俺は雷の精霊石を握りしめて、そのうちの一体に電撃を放つ。電撃の魔法を浴びたコボルドはそのままの勢いで崩れるように倒れた。

 俺はその隣にいるもう一体のコボルドにも電撃を放ち、それが崩れ落ちたところで後続のゴブリンに接敵される距離になった。


「せいやーっ!」


 突然俺の前に飛び出してきたサキさんが、気合の掛け声と共に接敵して来たゴブリンを槍で貫く。

 胸を貫かれたゴブリンは、槍に刺さったままの状態で一度宙に持ち上げられて、槍を払うように振るった動作で地面に投げ捨てられた。


 サキさんはそのままゴブリンの群れに突っ込んで行き、炎の矢で竦み上がった後続のゴブリンをグレアフォルツで二体を同時に串刺しにして槍を手放し、一番奥のホブゴブリンに向かって走り始める。


 俺の方に向かっていたゴブリンは、ハルが通常の矢で最後の一体を倒して終了した。



 ティナの方は衝撃の魔法でゴブリンを吹き飛ばすと、それだけでゴブリンは動かなくなる状態だ。やはり古代竜の角の杖の威力は凄まじく、既に五体は倒したようだ。

 ティナが六体目のゴブリンに魔法を放とうとした時、ユナの放った矢がそれを仕留めた。


 ユナがこっちを向いて手を振っているのを見て、ティナも軽く手を振っている。

 ユナの位置ならサキさんがホブゴブリンに向かって走っているのは確認できるはずだが、それに手を出す気はないらしい。

 ユナは注意深く辺りを見渡したあと、こちらに向かって走ってきた。


 俺はティナに隣接してから周りの状況を確認した。

 奥の方では逃げ出そうと後ろを向いたホブゴブリンの背中にロングソードを突き立てたサキさんが、それを引き抜いて確実な止めを入れる場面だった。

 毎回俺が油断するなと言っているので、その辺は徹底しているようだ。



「終わったか? サキさん! ちゃんと全部仕留めたか確認して回れ!!」


 俺が奥の方にいるサキさんに向かって叫ぶと、サキさんはロングソードで一体一体確実に止めを刺して回った。






 ここには二十一体の敵がいたはずだが、サキさんの挑発も含めて三分も掛からなかったと思う……。


 俺は斥候のゴブリン一体とコボルド二体、サキさんはゴブリン三体とホブゴブリン、ティナがゴブリン五体、ユナは見張りのゴブリン一体とこの場でゴブリン五体、ハルはコボルド二体とゴブリン三体を倒した。


 全て合わせて目撃数と同じ二十三体。


「ハル、斥候と見張りを含めて全部で二十三体だが間違いないか?」

「ああ、ああ……俺が数えたから間違いない……やっべー震えが止まらん……」

「そうかあ……怖かったんだな……」


 俺は自分が初めてゴブリンと戦ったときのことを思い出し、腕を組んでうんうん頷いていると、ハルはそんなんじゃないと言ってプイと膨れてしまった。


「全く、これだから女は……」

「やはりミナトではわからぬか……」


 膨れるハルを横目に、サキさんは俺の肩を叩いて首を横に振った。


 俺はハルに村長と村の男衆を呼んでくるように頼むと、みんなを連れて崩れた納屋の中を調べることにした。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ