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第80話「何もしない一日」

 昨日の夜はユナにおっぱいを揉んで貰っていい気持ちで眠れると思ったのに、サキさんのせいで全部台無しになってしまった。

 俺は昨晩の光景が夢に出てきてしまい、あまり熟睡できなかった。全裸のサキさんの股間にモザイク代わりのジャックの顔が張り付いたまま「勉強したまえ!」と言って終始俺を追いかけ回すというどうしようもない悪夢だ。


 一体俺に何を勉強しろと言うのか、今朝の寝覚めは最悪だった。


 今日もベッドには俺一人だったので一瞬寝坊したかと思ったのだが、サキさんと殆ど同時に部屋から出たので寝坊ではないらしい。


 調理場ではユナがティナの手伝いをしている。

 俺はサキさんと朝の準備をしたあと調理場を手伝おうとしたが、特にかき回すものは無かったのでセルフ放置プレイをしているエミリアの相手をしていた。


「今日はもう一日雨なのかな? 結構頻繁に降るんだな」

「明日の朝には止むと思うのですが……そうですね、この時期は良く降ります」


 今日はゆっくり考える時間が取れそうなので、俺はカナンの宿でエミリアに指摘された事を思い出し、戦力強化の相談をすることにした。






「カナンの宿でエミリアに言われた事と関係あるのだが、うちのパーティーは攻撃力に特化しすぎて、防御面が極端に弱いと思う」

「私もそう思います」

「サキさん以外だと一撃にも耐えられないから、何とかする方法はないだろうか?」


 エミリアは少し考えていたが、こう結論付けた。


「やはり体格の問題があるので難しいですね。防御魔法を使いこなすか、魔法の防具に頼るしかないでしょう。気休めですが、品質の良い防具に変えるのも良いと思います」

「なるほどなあ。でも魔法の防具はやたら高いから四人分は無理そうだな」

「鎧や盾のように無条件で身を守れる物は高価ですが、実体を持たない盾は安いですよ」

「人気が無いのか?」

「防御魔法を展開する盾は、偽りの指輪のように集中しないと効果がないのです。肝心な時に使える保証がないので、すぐに売り払ってしまう冒険者が多いですね」

「難しいな。それだとサキさんは使えないだろうな」

「不確かな物は使えんのう」


 横でミシンを使っているサキさんが口を挟んだ。やっぱり使えないか……。



「ティナは自前で防御魔法を張る方が良いだろうし、俺の方は偽りの指輪と迷いそうだな。保険的な意味でユナに一つ持たせておくかなあ。他には何かないのか?」

「最終的には身に付けているだけで効果がある魔法の防具に頼るしかないと思います」


 俺たちの攻撃力に釣り合うような防具は、もう魔道具しかないみたいだ。


 一撃でやるかやられるかの世界になると、そういつまでも強運が続くとは思えない。

 何か一つでも見落としがあれば即死の冒険ばかりだと、俺の神経が持たなくなる……。






 俺が頭を悩ませているとユナが朝食を運んで来た。今日の朝食は喫茶店に出てくるモーニングセットのようなメニューだ。殆どユナが作ったらしい。


「普通に行けるな。先日カナンの宿で取った朝食よりもいいと思う」

「そうね。無理そうな時はユナに頼んでしまっても良さそうね」

「もっと色々作れるように頑張りますよー」


 俺たちは朝食を食いながら今日の予定を話し合った。


「わしは今日もミシン。あと少しで浴衣ができる。先日の花火でやる気になったわい」

「楽しみだな。今度は浴衣で花火をしよう」

「私は家でゆっくりしてるわ」

「俺も今日はティナの隣でゆっくりしたいと思う」

「私は雨の王都を散策してきます」

「いいけど、風邪ひかないように気を付けてくれよ」


 ユナは俺と食後の後片付けをしたあと、本当に散策に出掛けてしまった。カナンの町でやった雨の日の散策が気に入ったらしい。






 サキさんはずっとミシンをしているし、エミリアは魔術学院に戻って、ティナも自分の部屋に戻ったので、俺もその後を追って部屋に戻った。

 ティナはベッドに寄り掛かって、エミリアが暖炉の横に置きっ放しにしたままの本を読んでいる。俺は暇なのでコロコロをして遊んでいたが、やがて飽きたのでティナに膝枕をしてもらい、ずっと外の風景を眺めていた。


 出先で降られると最悪だが、こうして一日家の中で過ごせる日の雨は心地いい。雨音や濡れた土のような匂いもわりと好きだ。


「そろそろ晩ご飯の支度しないといけないわね」

「あれ? もうそんな時間なのか……」


 俺とティナは調理場に行って夕食の支度を始めた。ティナが魔法を使うようになったので、窯の火も水瓶の水も調理場の明かりも全てが魔法一つで解決している。

 なるほど、魔術師なら精霊石や解放の駒はいらないと言っていたエミリアの言葉が理解できた。ただ、物を冷やすのだけは解放の駒を使う方が便利らしい。



「今日は何作るんだ?」

「食べたい物に書いてあった、すき焼きっぽい感じの鍋にしようかしら?」


 そういえばそういうのもあったな。俺は調理場の入り口に張ってある羊皮紙を確認してみたが、サキさんとユナはまめに書き込んでいるみたいだ。


「紙の存在から忘れてた。俺はティナが料理してくれるだけで満足だったし……」

「しょうがないわねミナトは……」


 ティナはため息を付いて食材を用意し始めたが、妙に機嫌が良い。今日の俺は混ぜるだけじゃなくて昨日の夜ユナから教わった野菜を切る作業もやっている。


 俺とティナが夕食の準備をしていると、ハヤウマテイオウに乗ったユナが帰ってきた。

 換気のために開けている勝手口から見えるのだが、馬の後ろに誰かを乗せているようだ。

 外套を被った二人はそのまま勝手口の屋根まで来て、薪の所へ外套を引っ掛けた。


「街でナカミチさんと会ったので連れてきました。ミナトさんに相談があるそうですよ」

「忙しいときにすまねーな」

「ナカミチから相談なんて珍しいな。ここでは邪魔になるし広間のテーブルで聞こう」






 俺は調理場の手伝いをユナに任せて、ナカミチと一緒に広間へ向かった。

 広間にはミシンをしているサキさんがいるので、ナカミチはサキさんと少し話をしてからテーブルの席に座った。


「何か困ったことがあるのか? 何でも言ってくれ」

「おう。この家で使ってる水がじゃーっと出るやつあるだろ? あれが欲しいんだわ」

「解放の駒の事か?」


 俺はポケットの中にあった解放の駒をテーブルに置いた。


「それそれ、今ウチで預かってるのもあるが、これは何処で買えるんだ?」

「これは魔道具の店で運が良ければ売ってるな。でもこっちの精霊石がないとインテリアにもならんぞ。精霊石が電池だと思ってくれ」

「……その石は高いのか?」

「解放の駒は売ってれば安いが、精霊石は魔術師じゃないと作れないし売ってる店も知らんな。見たことないから非売品かも……」

「そうかー……」


 ナカミチはらしくもなくガックリと肩を落とした。



「必要なら俺が用意してやるけど、急にどうしたんだよ?」

「いつも工房の共有井戸から水汲んで使うんだがよ、やっぱ場所的に水質が良くねーんだ。俺一人の時は別に気にしなかったんだがよ……サーラの事が心配でよ……」

「わかった。今預けてる強駒二つと弱駒二つはそのままナカミチにやる。精霊石はとりあえず水と光を10個ずつ今から作って渡そう。ユナが茶を持って行くときに空になったのと交換してくれればいいだろう」

「いいのか!? いくら払えばいい?」

「いや……解放の駒を買い取りされると一昨日渡した金貨分を取り返すような形になるし、そもそも精霊石は売ってないから相場なんか知らんし、そういう話になるだろ?」

「そりゃあ良くねえ!」


 俺はサーラを気遣うナカミチの心意気に応えたつもりだったが、タダではいかんと言うナカミチを説き伏せられずにいた。


「冷蔵庫のガワが欲しいと言っておったではないか?」

「……忘れてた」


 後ろからサキさんに言われて思い出した。木箱で代用していた暫定冷蔵庫を金属製か何かで作って貰えないかと、随分前に話をしていたことがある。

 俺はナカミチを調理場に連れて行って、冷蔵庫にできる箱が作れないか相談した。



「パッキンの部分はゴムっぽい素材で何とかなるが、断熱材をどうするかなー」

「分厚い鉄の箱で終わりじゃないのか?」

「冷蔵庫は壁の中が空洞になってて、そこに断熱材が詰めてある。最初に箱だけ作って色々詰めて試すしかねーな」

「じゃあ氷の精霊石も何個か渡しておくかあ」


 湯沸かし器の後なので時間は掛かってしまいそうだが、ナカミチなら上手いこと工夫して作ってくれることだろう。


「ナカミチは晩ご飯食べていくの?」

「サーラが待ってるんで今日は遠慮しとくわ」

「それなら小鍋に移すから持って帰るといいわね」


 ティナは蓋と取っ手の付いた鍋に具を移してナカミチに渡していた。

 帰りはユナが送って行き、俺とティナは減った分の具を継ぎ足しながら夕食の続きを作っている。






 俺たちはユナが帰ってきてから夕食をテーブルに並べた。今日はすき焼きのような鍋だが、豆腐が無いのは仕方ない。自分で作らないといけないので結構手間が掛かるのだ。


「あーっ!」

「おいサキさん肉ばっか取るな!!」


 サキさんは肉が固まっている所に箸を刺して、そのまま全部かっさらっていく。


「まだあるではないか」


 信じられない暴挙にエミリアが涙目で声を上げたので、追加の肉を入れていたらすっかり遅くなってしまった。



 エミリアが帰ったあと、サキさんは広間で正座させられてティナからお叱りを受けているので、俺とユナは先に風呂を済ませてから食事の後片付けをすることにした。


「まさかあんな肉の取り方するとは夢にも思わんかったな」

「怒るより感心しました、ほんとに一回できれいに持って行きましたね」


 俺とユナは風呂場で大笑いしながら湯に浸かった。


 風呂から上がるとサキさんは銭湯に行っていたので、ティナが風呂に入っている間に俺とユナはバスタオル一枚のまま調理場を片付けている。


「今日は何もしなかったわりに疲れたな。明日晴れたら街に出掛けたいから今日は早く寝よう」


 俺とティナとユナの三人は寝る準備を整えてから、サキさんの帰りを待たずにベッドへと潜った。


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