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第68話「秘密基地とゴミ車(ぐるま)」

「エミリア、あれが何だかわかるか?」

「ちょっと遠すぎて断言できませんが、ハーピィではないでしょうか?」

「襲ってくるの?」

「必ず襲って来ます。頭と体は人間ですが、それ以外は鳥の姿ですよ。かなり醜いのでショックを受けるかも知れませんが倒してください。あれは魔物です」

「ミナト、どうするのだ?」


 サキさんはいつものように俺の指示を仰いだ。


「サキさん、ハヤウマテイオウのリヤカーを外してジャックの荷馬車に収めてくれ」

「よかろう」

「俺が先行してあいつらを脅かして逃げ回るから、サキさんとユナは弓で撃ち落として欲しい。ティナは弓と魔法を上手く使い分けてくれ」

「わかりました」

「やってみるわね」

「俺たちの攻撃を抜けて荷馬車の方に来るかも知れん。もしもの時はエミリアも頼む」

「任せてください」


「俺はハヤウマテイオウで先行する。サキさんは白髪天狗で自由に動け。ティナとジャック、エミリアとユナに別れて荷馬車を並走させろ。縦一列では視界が悪い」

「待ってくれたまえ。私は戦えるほど魔法の腕は良くない」

「安心しろ。ティナは剣も弓も魔法も使える。そこらの冒険者と一緒にされては困る」

「むむ? この子も魔術師だったのかね? いや、魔法戦士とでも言うべきか……」


 ジャックは中腰のまま驚いていたが、レイピアとロングボウと魔法の杖を見て納得した様子だった。こうして見ると、ティナもサキさんと同じくらい頼もしい。






 ハーピィに気付かれないうちに隊列を整えた俺たちは、少しでも弓の射程に近付けるようになるべく静かに歩を進めた。

 俺は魔法の矢を1本取り出して、それに風の精霊力を込める。どんな効果が出るのかは撃ってからのお楽しみだが、恐らく強風が吹いて脅かすくらいは出来るはずだ。


 先行した俺は弓の射程に入ったので、風の矢をつがえてハーピィが群れている大きな岩めがけて矢を放った。本当に大きな岩の塊なので、あれなら俺でも外しようがない。


 矢を放った瞬間、俺は結果などは気にせず手綱を取って一目散に走り始める。


 岩の方からボフンッ! という鈍い音が聞こえて、その後から強い風圧を感じた。恐らく良い感じに風が吹いたに違いない。

 俺は後ろも確認しないで、ハヤウマテイオウを最高速で乗り回した。時折、荷馬車の方をチラ見しているが、向こうの方は特に動きがないようだ。


 ……誰も弓を撃たないし、サキさんも動かないので俺は不安になって上空や後ろを振り返ったりしてみる。


「どーーっ! どう! どう!」


 いくらなんでもおかしい……俺はハヤウマテイオウを止めた。

 みんなの方を見ると、サキさんは弓をしまい、ユナとティナは両手で何かを伝えようとしている様子だった。

 俺は意味が良くわからなかったので、とりあえずみんなの所へ駆け寄る。


「どうした? 攻撃してくれよ!」

「まあ待てミナトよ、最初の攻撃で全部終わったのだ」

「凄かったですよ。全部吹き飛んでしまいました」


 俺が大岩の方を見ると、そこにハーピィの群れはいなかった。岩の奥の方に吹き飛ばされたハーピィたちが転がっているだけだ。


「どういう事かね? 数が多いとはいえ、ハーピィの群れなどに魔法の矢を放っていては、私にも予算の限度があるというものだよ!」

「魔法の矢はサービスだから気にしないでくれ。それよりちゃんと仕留めたかわからん。サキさん、しっかり止めを刺して来てくれ」

「うむ」


 サキさんはグレアフォルツを脇に抱えて大岩の方へ走っていった。

 俺はハーピィの群れが追って来る想像をしながら、みんなが見ている前でアホみたいに一人で走り回っていたのか……とんだ大恥をかいた。何とかして誤魔化したい。


「まあ……用心するに越したことはないというか……そのー、常に最悪の事態を想定してだな……」






 大岩の回りでハーピィを突き刺していたサキさんがグレアフォルツを大きく振って合図したので、俺たちは大岩の所まで移動した。


「デカい岩だな……それにしてもハーピィは見るに耐えん。子供くらいの体格なのにボインだし、人間の顔なのに獣みたいにブサイクだし、ユナはあまり見ない方がいいぞ」

「一瞬目に入りましたが夢に出てきそうなので、もう見たくないです」

「サキさんちょっと一カ所に集めてくれよ。エミリア、魔法で焼き尽くせんか? 変な動物が寄ってきても困る」

「はい。消し炭にしてやります」


「遺跡はこの辺りなんだよな?」

「そのはずだ……ちょっとこの岩に登ってみよう」


 ジャックは大岩の一番低い部分からよじ登って、手帳のような物を開いて360度を見渡しながら何かを探し始めた。



「諸君見てくれたまえ……下からでは見えないかも知れないが、この先に四角い岩が二つ並んでいるだろう? そこが入り口に違いない!」


 大岩の下からでは良く見えなかったが、ジャックは大岩から飛び降りると荷馬車に乗り込んで勝手にその方向へ向かってしまった。


「サキさんすまんがジャックを追ってくれ。何か潜んでいたら困る」

「うむ」


 サキさんは白髪天狗でジャックの後を追った。大岩の下に残された俺たちもジャックの荷馬車を追いかけて出発した。






 俺たち四人が先行したジャックとサキさんに追い付いたとき、すでにジャックは遺跡の入り口を見付けた後のようだった。

 遺跡の入り口は不自然に四角い岩が二つ並んでいて、明らかに人工物のように見える。

 土に隠れているようだが、雨混じりの泥を靴のつま先でほじると確かにコンクリートの板のような素材が姿を現す。


「ここが入り口で間違いない。私の推測は正しかった! 確かな魔力も感じる……問題はこの入り口をどうやって開けるかだが……」


 ジャックは一人で唸っているが、俺たちは遺跡の開け方なんて知らんので、全員でエミリアの荷馬車に退避して事の成り行きを見守っている。



「随分長く悩んでいるな。このままだと日が暮れるぞ」

「そろそろ晩ご飯の用意をしたいんだけど……」

「この雨だと外での料理は無理そうですね」

「二台の荷馬車に予備の幌を橋渡して屋根のある空間を作ろう。俺とサキさんが幌を張るから、残りの三人は手頃な石で車止めをして馬を外してくれ」


 遺跡の開け方はジャックに任せて、俺たちは雨避けの空間を作った。荷馬車、予備の幌、荷馬車というように配置して、荷馬車一台分の作業空間を確保した。


「妙案ですね。こういう使い方をした人はミナトさんが初めてかも知れませんよ?」


 感心するエミリアを置いて、俺とサキさんはエミリアの荷馬車から料理道具を降ろしている。飯は何とかなりそうだが、問題はジャックの方だ。



「ジャック、調子はどうなんだ?」

「君か。入り口に積もった土を洗い流しているんだがね。彫り込まれた文字に詰まった土が固まっていて苦労しているよ」

「土の魔法でサラサラの砂に変えてやるとかでは駄目なのか?」

「……その手があったか!」


 俺はジャックの魔法を観察していたが、魔法の精度というか、細かい制御が凄まじく正確だと感じた。他人の魔法を見るのはかなり参考になることがわかった。


 畳一畳分くらいの、コンクリートのような床に刻まれたエスタモル時代の文字……俺には読めなかったが、ジャックは自分の手帳とその文字を交互に見ながら難しそうな作業を続けている。

 ジャックの話では、この入り口は合言葉で開くらしい。中には鍵となる物を嵌め込んだり、複雑なパズルを解くような入り口もあるが、割合としては合言葉が多いみたいだ。


「いつの時代も流行りというものはある。大昔から人の心理は変わらないものだよ。君も覚えておきたまえ」

「はあ……」


 ジャックの邪魔をしては悪いので、俺はエミリアの荷馬車に干してある服と外套を風の魔法で乾かすことにした。






 服を乾かしている俺の隣には、パンツマンになったサキさんが自分の鎧を拭いてオイルで磨いている。


「狭苦しいがガキの頃に作った秘密基地みたいでワクワクするな」

「その心理がわからぬ自分が悔しいのう……わしも少年時代を過ごしたかったわい」

「ティナはわかるか?」

「良くわかるわ」

「私もわかりますよ」


 俺は荷馬車の横で夕食を作っているティナに聞いたが、それを手伝っているユナにもわかるみたいだった。


「サキさんはそういう遊びに恵まれなかっただけかも知れんな」

「そうかの?」

「例えば今も雨が降っているな? 外は大変だがこの空間は安全だろう?」

「大雨の時に車に乗ると感じる妙な安心感のようなものであるか?」

「俺は車を持ってなかったが、たぶん似たような感覚だろう。それの凄いやつだ」

「なるほどのう……」


 それきりサキさんは喋らなかった。ただ、鎧を磨く腕にいっそう力を込めた気がする。






 程なくして今日の夕食が完成した。今日は肉と野菜のシチューと、カナンの町で買ってきたパンだ。


「ユナはどこ行ったんだ?」

「便所だと言って出て行ったが。すぐ戻ってくるであろう」

「そいやエミリアもずっと姿が見えんな」

「ジャックの荷馬車をゴミぐるまにしてやると言ってずっとあそこに籠ってるわ」


 ティナが指さしたジャックの荷馬車から、飯の匂いを嗅ぎ付けたエミリアが顔だけを出した。朝の一件を根に持っているようだ。


「あーもー! 今日はエミリアの飯はないわー!」

「いただきますよ!」

「サキさん、ジャック呼んで来いよ」

「うむ」



 俺がパンをぽんぽんと皿に当てていると、ようやく全員揃っての食事となった。

 ジャックはパンを胸ポケットに突っ込んで、遺跡の入り口でシチューをかき込んでいる。雨が降ろうがお構いなしという感じだ。


 もう辺りは真っ暗だ。魔法の明かりで夜間の工事現場並みの明るさを保ててはいるが、夏の終わりの山岳は肌寒い。雨が降っているので余計だろう。


「荷馬車の陰に簡易テント張ろうか。洗い場も欲しいが雨の中で体を拭くのはキツい」

「そうですね……」


 俺とサキさんは簡易テントを張って、そこにたらいを運んだ。

 調理道具もそうだが、今日はたらいも外に出しっ放しで良いだろう。これでエミリアの荷馬車が随分広くなるから、今日の寝床は確保できた。


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