第564話「解体」
全速力のサキさんには追いつけないが、現地で戦闘になっていても大きく遅れを取る事はないだろう。
心なしかレレの足も速い……。いや、今は偽名のロロだったな。
ランタンの明かりは全方位ではないので、すでにサキさんのランタンの明かりは見えない状態だが、ウィル・オー・ウィスプの明かりを目印に、俺たちも後を追った。
「……やっと追い付いた」
息も切れ切れになった所でようやくサキさんに追い付く。
「お連れさん? 悪いわね。一足お先に狩らせて頂いたわ」
正体不明の化け物を背にして、露出狂のアマゾネスが仁王立ちしている。
「ああ、いや、一人でも余裕ならそれでいいんだ。しかし……」
俺はアマゾネスのバインバインには目もくれず、その後ろに横たわる化け物、これがまた異様な造形をしていて、俺の興味を誘う。
化け物はすでに横たわっているが、起き上がった時の身長は2メートル以上ありそうだ。
横幅に関しては、胴体と長い足を広げたら余裕で3メートルを超えるだろう。
もしもこの場にエミリアがいたら、家に持って帰ると駄々をこねたに違いない。
「古代の魔術師に作られた魔法生物が野生化したもの? いや、違うね。学院の記録にある悪魔とも根本的に違う気がする。なんだろう? 独特だね」
隣にいるロロも、指で顎を撫でながら考察しているが、答えは見つからない。
異形の化け物には体毛が無く、全身が白色で蜘蛛のような胴体を持っている。
頭部に当たる部分からは人間の上半身が生えていて、その上半身の左右側面からは、ムカデを思わせるような腕が何本も生えていた。
例えるなら、肋骨の数だけムカデの腕が生えているような、異様な造形だ。
そして、人間の上半身にはあるはずの腕や首は付いていない。
目や口などの器官に関しては、人間でいう鎖骨の辺りに目らしき器官が付いているくらいで、鼻や口に該当する器官は見当たらない状態だ。
「古代の魔術師が作った魔法生物なら、もっと生き物のパーツが自己主張しているからな。これも一見寄せ集めに見えるけど、不気味なほど洗練されていて気分が悪い」
「まさに正体不明ね。例えようのない形だわ」
「ここに来て新種の悪魔が発見されるなんてことはないと思うけど……」
「あんたたち、その光の浮遊物といい、学のない冒険者とは少し違うみたいね」
俺たちが正体不明を遠巻きに観察していると、アマゾネスは一人で感心したように頷く。
この場から立ち去れといった感じのオーラも出ていないので、このアマゾネスがこれから何をするのか見ていると、今倒したばかりの魔物を解体し始めた。
「首なしの魔物は困るのよね。見た目の腕も左右対称だし、倒した証拠に目玉でもくりぬいて帰ろうかしら……」
仮にこれと同じ奴を討伐したら、俺たちも彼女と同じ苦悩をするハメになりそうだ。
「さっき学院とか言ったね? やっぱり魔法使いかな?」
「……んー、まあ、そうなるね」
アマゾネスの独り言のようなつぶやきに、ロロが答えた。
「私は通わなかったけど、うちのジジイが学院の出でねえ……昔は随分仕込まれたわよ」
馬鹿みたいに良く切れる片刃のナイフで、正体不明の胴体を手際よく解体していくアマゾネス。
素材の回収……というよりは、明らかに何かを探しているように見える。
「生前、うちのジジイが口癖のように言ってた話でね。元々この世界に存在しなかった生き物の体内には、魔力を循環する特別な器官が備わっていたらしいの。古代の魔術師たちはその器官を取り込むことで魔法の力を得ていたけど、取り込んだ器官をそのまま子孫に受け継がせることは難しかったみたい」
始めて聞く情報だな。
アマゾネスのお爺さんが若いころに、魔術学院で研究していたテーマらしい。
残念ながら証拠になる発見が無かったため、仮説のまま学院を去ったようだが。
そんな思い出もあって、珍しい魔物を討伐したときには、こうして解体しているそうだ。
「ロロ、知ってた?」
「似たような仮説を唱えている魔術師はいるけど、結果を出した魔術師はいないね」
このテーマに限らず、結果を出せる魔術師の方が圧倒的に少ないのが現実らしい。
むしろ、何かの拍子に偶然発見された「本来のテーマとは違う何か」の方が多いそうだ。
こういうのはどこの世界でも似たようなものなんだろうな。
俺たちは遠巻きに、しばらく魔物の解体を見ていたが、ティナとロロがもう先に進もうと言い出したので、アマゾネスとは別れることにした。
「俺たちはもう少し奥まで進んでみるから、お姉さんも気を付けて」
「ありがとう。あなたたちもね」
結局名前はわからないままだったが、露出狂でバインバインのアマゾネスのお姉さんと別れた俺たちは、丸太に乗ってさらに街道の奥へと進んだ。




