第562話「出発」
旧街道を魔法で移動するにあたり、まず必要なのは木の丸太だ。
幸い、そういう物資は「北側の資材置き場」で腐るほど見た。
魔物討伐の協力に必要な物だ。
一本くらい貰っても怒られはしないだろう。
「丸太で何をするのだ?」
「魔法で丸太を浮かせて、その上に乗る。バナナボートみたいな感じで移動したい」
「エルレトラで使った魔法のシートで移動じゃだめなの?」
「今回あれを使うのはやめよう」
魔法の障壁を水平に作り出し、適当なシートを被せて移動に使う方法だが、あれは山林地帯のアクシデントでうやむやになったまま、何も検証が進んでいない状態だ。
今回の相手は「正体不明」の魔物だからな。
正体不明の不意打ちを食らって、魔法の障壁が壊されたら大惨事になる。
だから今回は使わない。
用心するに越したことはないからな。
そんなわけで、俺たちは先ほどまでいた「北側の資材置き場」に戻ってきた。
周囲には篝火が燃えていて、軍用のテントがいくつか張られている。
旧街道の出入り口には、二人一組の兵士が警備に当たっている様子だ。
「丸太を一本貰うだけなら簡単だけど、この状況で魔法を使うのは難しくないかい?」
確かに。
その場で浮かせて飛んで行ったでは、色んな意味で騒ぎになりそうだ。
「どうしたものかなあ……」
そんな事を思っていると、暗い通りの陰から松明を持った男がやってきた。
確か借金返済のために討伐に参加すると公言していた男だ。
「こんな時間から討伐に出るのですか?」
「あたぼうよ。手柄は独り占めする。それが俺の流儀なんでね」
「ご苦労さんです。でも独り占めしたいなら急いだ方がいい。先ほど女性の冒険者が出ていきましたよ」
「なに?! 俺は自分が抜け駆けをしても、他人に抜け駆けされるのだけは勘弁できない性分なんだ!」
村の出入り口で兵士と話していた借金男は、尻に火が付いた勢いで旧街道の闇に消えた。
そんなやり取りがあったかと思えば、さらに五人組のパーティーが村を出ていく。
「息も凍るような深夜に出発するなんて、完全に頭のネジが飛んでいるな」
俺たちも抜け駆けしようとした側の一味だが──。
しかし困ったな。
夜中なら気兼ねなく魔法で移動できると思ったのに、これ以上時間を空けては人目を忍んで魔法を使うのが難しくなる。
「ここは普通に村を出た振りをして、丸太は現地調達にする方が早そうね」
「その手で行こう」
俺たちも他のパーティーと同様、夜のうちに抜け駆けする体で村を出た。
マシン村の境界線から一歩外に出ると、北西から東へと抜ける一本の街道がある。
全く手入れされていない街道は、荷車の往来で出来た深いわだちと、無数の草で荒れ放題だ。
雪の深さは足首が埋まる程度。
王都の事を思えば取るに足らない積雪だが、長時間歩けば相応に堪えそうだな。
「先に出た冒険者パーティーの明かりは、もう見えないね」
「街道を逸れたのかしら?」
陽の当たる街道は草木が伸び放題だが、間伐されていない森林では背の低い植物は育ちが悪い。
ここを拠点に活動している冒険者なら、定番の獣道を知っているのかもな。
「こんな時間に村を出るようなバカはもう居ないと思うが……。その辺の木を一本切り倒して、さっさと移動しよう」
「そうだの」
サキさんは魔法で強化したロングソードで手頃な一本を切り倒し、さくさくと丸太を作った。
「この木であれば樹液が垂れる事もなかろう? どうだったかの?」
「どうだろうね?」
「考えたこともないわ」
残念だが、この場にいる四人全員が知識不足だった。
この木に座って移動するから、枝の切り口から松脂のような樹液が染みてきたら最悪だぞ。
だが今は先を急ごう。
「この丸太を浮遊の魔法で浮かせればいいのね?」
「うん。全員この丸太に乗るから、ティナ自身は飛行の魔法で丸太を牽引するイメージで飛んでくれ」
「それなら、浮遊の魔法は私が担当しようか?」
「ロロには偵察を担当してもらう。俺が索敵をするから、怪しそうな場所を見つけたらロロが飛行の魔法で確認してきてくれ」
「なるほどね」
「みんな乗ったら出発するわよ」
俺たちを乗せた丸太は半分草むらと化した街道の上に浮かび、北西の方角へ加速した。




