第558話「戦いの予感」
サキさんとレレが帰ってきた後、俺たちは百数十個もある白い箱を元あった場所に戻してきた。
数だけ聞くと物凄い量だが、重量が軽いこともあって日暮れ前には完了した。
「やれやれ、とんだ骨折り損だったわい!」
「何でもかんでも都合よくお宝が手に入るわけじゃないが、数が数だけにな……」
こんな時に一番働く役回りになるサキさんからは不満が漏れる。
「今のパーティーなら結構ヤバい場所まで簡単に潜れてしまうから、まだまだ手付かずのお宝はあると思うぞ。次に期待しよう」
「そろそろエミリアが一度こっちに戻ってくる時間じゃないかしら?」
そういえばそうか。
エミリアがテレポートで戻って来たら、そのまま全員でマシン村にテレポートして、現地の料理と酒を買うんだったな。
もちろんこれは今朝俺たちが勝手に決めた計画なので、エミリア達には伝わってないことだが。
「こんな時こそ、テレパシーの魔法は使えんのかの?」
「テレパシーの魔法は相手が見えないと会話が難しいんだ。一方的に行うテレポートと違って、相互に波長を合わせる必要があるからね」
そうなのか?
「自作の護符なら、自分の魔力と繋がるだけだから距離も関係ないよ」
なるほど。
それでエミリアは、俺たちがエルレトラの山岳地帯に入る時にテレパシーの護符を持たせてくれたのか。
その時の経験を踏まえて、今度はティナがテレパシーの護符を作っている最中なのだが。
なるほど、そういうことだったのか。
「ただ護符の場合は、護符に込められた魔力の分しか効果時間がないからね」
護符に魔力を定着させるのは、魔道具の作成ほどではないにしろ難しいらしい。
結構大変なんだな……。
早めの風呂を済ませた俺たちは、エミリアが戻ってくるのを待っていた。
すっかり陽も落ちて、大広間には夜の静寂が訪れる。
時折、サキさんが酒を注ぐ音が聞こえる。
いつ来るかもわからない人を待つ退屈な時間は、得てしてこういうものだろう。
俺がよそを向いて三度目の大あくびをした頃になって、ようやくエミリアが現れた。
「ふあー……」
今、初めてエミリアが大広間にテレポートしてくる場面を目撃する事ができたが、代わりに自分が大あくびをしている間抜け顔をエミリアに見られてしまった。
どうせ誰も見ていないからと、口も隠さず大あくびをしたのは失敗だ。
「……だいぶ遅かったな」
俺は努めて気にしていないフリをする。
「………………」
エミリアは下を向いて、小刻みに震えている。
くそう。やはり笑っておられるのか?
「……大変な事になっています」
ああ、笑っている訳ではなかったのか。それならまあ良いか。
「マシン村の締め出しでしょ? 運が悪かったね」
諦めの表情を浮かべるエミリアの顔を見て察したのか、レレはやれやれと言った態度で頭を横に振った。
「どういうことなの?」
何となく察しがついた俺は事の成り行きを見守っているが、代わりにティナが説明を促す。
「マシン村にモンスターの群れが近付いているみたいで、まだ余裕があるうちに商人や旅行者は全員村から追い出されてしまったんです」
なるほど。
マシン村は街道を横断する者が必ず羽根を休める場所だから、家なしのよそ者が多い。
そんな連中は村の中をかき回すのがオチだから、さっさと締め出したのだろうな。
レレがすぐに察したところを見ると、それなりの頻度で起こる事件なのかもしれない。
「マシン村に入った後なら東側に抜けられたのですが一足遅かったようです」
エミリアたちが乗ってきた乗合馬車も村の中には入れず、門前払いで引き返す所らしい。
ここまで来て引き返してたまるかと、何とか無理やり誤魔化して乗合馬車を降りたエミリア達だったが、結構ガチ目のモンスターがいるようだから応援要請に戻ってきたようだ。
「なに、化け物の群れを全部叩っ切れば解決するんであろう?」
またまたサキさんが身も蓋もないことを言う。
まあ、確かにそうなんだけど。
「どうするんだい?」
レレが俺の方に振ってきた。名目上リーダーなので、俺が決断するしかない。
知らん顔して村の東側にテレポートする手もあるにはあるが、化け物の襲来で王都への物流が滞っては普段の生活に支障が出る。
仕方がない。戦ってみようか。
「エミリア達は商人の体だから、俺たちはその護衛の冒険者という設定にする。この状況なら冒険者は歓迎されるだろうから、上手いこと言って護衛対象も一緒に入村させてもらおう。村に入った後だが、エミリア達はオルトーの町へ向かう一団に便乗して先に進めばいいだろう。一緒に戦っていたら商人の設定が水の泡だからな」
「では、わしらだけ武装して行くかの?」
「仕方ないね。私もちょっと着替えてくるよ。村の中に騎士団が居て顔バレしたら面倒くさいし」
そういうと、レレはテレポートで消えて行った。
「私も今回は魔術師の恰好はやめておくわ」
その方が無難だな。下手に戦力があるように見られてしまうと本隊に組み込まれる可能性がある。
流れの冒険者として個別に遊撃を任される方が自由に戦えるだろう。




