第554話「テオ=キラの社(やしろ)」
明けて翌朝、今朝もユナとエミリアの姿はなかった。
「マシン村に到着するのは、今日の日暮れ辺りかな?」
「順調ならそのくらいだろうね。乗合馬車は集団行動だから、流石のエミリアも抜け駆けして食事を取りに来るような真似はできないみたいだ」
あのエミリアでも自重はするのか。
まあ、そうだよな。
好き勝手に魔法を使っていたら、わざわざ商人風の変装をしている意味がない。
おかしな真似をしそうになったら、ユナとジャックが止めるだろう。
「今晩はエミリアのために、少し豪華な夕飯にしようかしら?」
「いや待て、エミリアがテレポートで戻って来たら、そのままマシン村に乗り込んで地元の料理を食べに行こう」
「それは良い。ついでに地酒も買いたいわい」
「そう? なら夕飯の支度はしないわよ」
さて……。
今日やることだが、レレとサキさんは白の入り江で小屋作りの続きをやるらしい。
ティナはテレパシーの護符以外にも、色々な護符作りに挑戦するみたいだ。
それなら俺は、サキさんたちに付いて行こうかな。
グレンやテオ=キラの事も気になるし。
白の入り江──。
ダレンシア王国の首都シアンフィから、だいぶ東に進んだ場所にある白い砂浜だ。
ここは入り江になっているので高潮の心配が殆ど無く、背後は精霊魔法で作った植物のバリケードを張り巡らせているから、それなりに安全性の高い場所だと言える。
ダレンシア王国は国土の半分以上が未開の土地であって、この入り江にも人が踏み込んだ形跡はなかった。
いわば俺たちだけの秘密のスポットってことだな。
最初は単なるプライベートビーチだったこの場所だが、今ではグレンの隠れ家になりつつある……。
「で、テオ=キラは祀られているのか?」
「待遇良うせえとやかましかったんでの。端材で作った鳥居の後ろに木箱を置いて、そこに祀ってやっとるのだ」
前回見たときは直射日光が降り注ぐ砂山の上に鎮座していたテオ=キラの銅像だが、今回は日陰の下に設置されたミニ社に鎮座していた。
銅像の顔が不出来なせいで、祟り神を彷彿とさせる程の貫禄がある。
「どうじゃ? ぬしらの国の神々は、こげな風に祀られとるらしいじゃにゃーか。石造りの神殿じゃにゃあが、不思議と心が落ち着くばいばいばい」
端材とはいえバランスよく作られた鳥居、立てて置いた木箱にロープと布でそれっぽく飾られた社は、俺の良く知る神社のそれだ。
小さな社にご満悦のテオ=キラ。
そりゃあ、語尾が残響音のようにもなるわな……。
「くるしゅうないぞよ。わらわの前に跪いて祈りを捧げるがよいよいよい」
ずっとこんな感じだとかなりウザイ。
とりあえず俺は、グレンの方に目をやった。
「二度ト、オルステイン王国ニハ、帰ラネーゾ」
「わかってる。暫くはここで生活してくれ」
ここはグレンが快適に過ごせて尚且つ安全な場所だが、ずっと一人でここにいるのは気が滅入らないだろうか?
元々エミリアに無理やり召喚されて来たのだから、できれば元の世界に戻してやりたい。
せめて同種の悪魔を見付けて、そこのコミュニティに入れて貰うとか……。
何とかならんものかな。
俺が色々考えている間にも、レレはテレポートと飛行魔法で材料の運搬を続けている。
サキさんの方は、白の入り江から少し離れた日陰で作業中だ。
グレンが快適に寝泊まり出来るような小屋を作っているのだが、床面積は二畳ほどしかない。
イメージとしては子供用の遊び小屋といった感じか。
「結構頑丈に作ってるんだな」
「暴風や嵐で潰れたらいかんからの」
サキさんは木の板を何枚も切り続けている。
床も屋根も壁も、基本的には板張りの小屋みたいだから、その量は半端ない。
これは今日一日、板を切り分ける作業で終わってしまうかもな。
ちなみに進捗具合の方は、小屋の土台と骨組みが出来た所だ。
「最初は適当な小屋で終わらせるつもりだったがの。ドアや窓も作ろうとしたら、簡単ではなかった。電動工具もなしに手間がかかるわい」
既に汗だくで作業しているサキさんだが、本人は楽しそうだ。
ちなみにメモらしき走り書きの用紙を見ると、一応設計図らしき物は書いてあった。
現物合わせの行き当たりばったりで作っている訳ではないらしい。
「ここは大丈夫そうだし、テオ=キラを連れて家に戻るわ」
「む!? わらわを神殿から引き剥がすとは罰当たりめがががっ!!」
本人の抗議をよそに、俺はテオ=キラの銅像を鷲づかみにして家に帰った。




