第550話「斜塔」
シースライムを遠ざける事に成功した俺たちは、レレの薬草採取を手伝った。
「根元から倒れていたり、潰れているようなものはダメだよ。そういうのはシースライムが這った可能性があるからね」
最初にレレが言っていた通り、砂浜には海藻みたいな植物がそのままの姿で生えている。
海藻と言えば地上で自立できるような芯の通った種は存在しないと思うのだが、砂浜に生えている種はみな自立していた。
「そのまま引き抜いてもええんかの?」
「いいよ。どうせここ以外の場所では根付かないからね」
過去に何度も砂ごとほじくって持ち帰ったりもしてみたが、魔術学院の施設では育たなかったらしい。
なのでここは、ほどほどに採取するだけ。
結局、シースライムに妨害されなかったことが幸いして、薬草の採取はすぐに終わった。
「持ちが悪い薬草だからね。ちょっと学院に置いてくるよ」
レレは誰の返事を待つこともなく、学院にテレポートする。
「せっかちだな。最初にテレポートした場所まで引き返しておくか……」
「だの……」
俺はウンディーネたちを海に戻してから、元来た道を引き返した。
俺とサキさんが最初の場所に戻る途中、やはり気になるのは奥の方に見える斜塔だ。
中は空洞らしいが、何せこんな場所に建っていること自体がおかしい遺物だから、是非とも自分の目で確かめてみたい。
「まだ十分時間もあるしの。今日中に行けんことはなかろう」
暫く歩いて最初の場所に戻ってから待つ事しばし、ようやくレレがテレポートで戻ってきた。
「待たせてしまって済まないね。薬草に保護の魔法を掛けていたら遅くなってしまった」
「薬草採取はもういいのかな?」
「ああ、うん。二人は一旦家に戻ってくれるかい? 塔だよね? 私がテレポーターを持って塔の近くまで飛べば、今日中に見学できると思うからさ」
覚えていてくれたのか。
それならさっそく家に帰ろう──。
家に帰ると、広間のテーブルではティナがテレパシーの護符を作っている最中だった。
「もう終わったの? 早かったわね」
「うむ」
「薬草の採取は終わったけど、変な斜塔があるから見学に行くぞ。ティナも来る?」
「なにそれ? 面白そうね」
ティナはペンを置いて、冒険の支度を始めた。
ちょっとした気晴らしのつもりらしい。
「お待たせ」
ティナの支度が終わるよりも早く、レレがテレポーターから現れた。
「今日はもう魔力が底をついたから。暫く休ませて……」
レレは暖炉の前のソファーに寄り掛かると同時に、そのまま横になってしまった。
「電池切れは仕方がない。今回は久々に三人で行くかな」
「うむ」
いつ振りだろうな?
最近は単独行動も増えてきたが、ティナとサキさんの三人で行動するのは随分と久しぶりのような気がする。
「まずはわしが先行するわい」
今し方レレが居た場所に危険などある訳もなかろうが、サキさんは魔剣を抜いてからテレポーターの上に乗る。
「準備出来たわよ……って、レレは寝てるの?」
「魔力が切れたらしい。今回は三人で行こう」
俺もサキさんの後を追ってテレポーターの上に乗った。
テレポーターで移動した先には、例の斜塔がある。
わりと目の前にあったので最初は壁かと思ったが、見上げると斜塔だった。
この周辺には、塔の他にめぼしいものは見当たらない。
ここも相変わらず、岩だらけの場所だ。
精霊感知を使っても、近くに生き物が潜んでいる様子はない。
とりあえずは安全だと思う。
「結構大きいわね。高さも横幅も」
「円形の塔に見えておったが、どうも四角い建物だわい」
キッチリ正方形ではないが、サキさんの言うように四角形に近い感じの塔だな。
一辺の横幅は20メートルか、25メートルはありそうだぞ。
少なくとも見張り台や灯台として使うようなサイズじゃないな。
高さも結構あると思う。
いわゆるタワーマンションくらいの高さはあるんじゃないかな?
「中は空洞なの?」
「らしい」
「何処かに入り口はないんかの?」
俺たちは塔の周りをぐるりと一周してみた。
「古代の遺跡よね? 不思議なくらい魔力の高い場所が見当たらないわ」
「窓も扉も、なにも無しか……」
「いつものように出入り口を作ってやるわい」
「待て待て。耐久性が落ちると不味いから、素直に頂上から潜入しよう」
俺たちはティナの浮遊魔法で斜塔の頂上を目指すことにした。




