第54話「潔い男」
翌朝目が覚めた俺とユナは、いつものように朝の準備を終えて、ユナは調理場で朝食の手伝いを、俺はセルフ放置プレイのエミリアを相手にしている。
「今日もその服なのか?」
「凄く気に入ったんです」
エミリアは昨日買ったフリルとリボンで埋め尽くされた頭のおかしい服を着ていた。聞けばあれからずっと着替えていないらしい。こいつはもうダメかも知れないな。
俺たちは食事ができる寸前になって洗い場に駆け込んだサキさんを見て笑ったあと、サキさんの準備を待ってから、みんなで朝食を始める。
今日の朝食はホットドッグとブロッコリーのような野菜が入ったスープだ。以前食べた時と違って、ホットドッグにはトマトソースではなくケチャップが掛けられていた。
「ケチャップも作れるのか」
「冷蔵庫もないし、あまり日持ちしないのが難点ね」
「冷蔵庫か。今は木箱に氷の精霊石で凌いでいるが、断熱性のある箱が欲しいな。ユナがナカミチの工房に寄るときは、作れそうか聞いて来てくれ」
「わかりました」
朝食が終わってエミリアも帰ろうとしたとき、今日は珍しくサキさんがエミリアに話しかけて何かのメモを渡しているようだった。
「どうしたんだ?」
「魚を獲る罠を絵に描いて、同じような物があれば買ってくるよう頼んでいたのだ」
「なるほど。サキさんは絵が上手いからな。あればすぐに見つかるだろう」
サキさんは部屋の隅のミシンで作業を再開してしまったが、俺はいつものように今日の予定を全員に告げた。
「サキさんはミシンで忙しい。俺は朝のうちにコロコロをしたいから部屋に籠る。ティナとユナは何かしたい事はあるかな?」
「私は試したいことがあるから、素材を探しに行くわ」
「私も別のことで試したい物があるから、街へ行ってきます」
ユナはともかく、ティナが単独でどこかに行きたがるのは珍しいな。
この日、ティナは白髪天狗に、ユナはハヤウマテイオウに乗って、二人は別々の目的で街に出掛けた。
「俺は部屋でコロコロだから、浴槽の人が来たら対応しておいてくれ」
「うむ」
部屋に戻ってきた俺は、とりあえずブラジャー以外全裸になってコロコロをしていた。
上半身は昨晩ユナにやってもらったので、今日は残りの下半身を終わらせる予定だ。本当ならティナにやって欲しかったが、今は一人なので仕方がない。
俺がコロコロをしている途中で浴槽の人が来たようだが、どうするのかはサキさんにも説明してあるので、全部任せておいた。わからないことがあれば聞きに来るだろう。
俺は股以外のすべての場所にコロコロをして、全身すっかりきれいになった自分を三面鏡で確認しながら満足していた。ここまで凄い効果だと予備が欲しいところだ。
もう夏は終わりだが、これならもっと薄着で街を歩いても自分に恥ずかしくないな。
俺はふとユナの言葉を思い出していた。ユナがこれを欲しがった一番の理由は、水着でハミ毛したことを気にした為だ。
幸い俺はハミ毛しなかったが、前々回の買い物でティナと一緒に何かの勢いで選んだ細いセクシー下着があるのを思い出して、それを穿いてみた。
人生初のセクシー下着を付けると、生地の左右から青苔が生えたようになってしまい、俺は自分のことながら噴き出してしまった。
俺は笑いながら、はみ出した所を丁寧にコロコロしてみる。
「あ……」
一通り納得して下着を脱いだとき、俺は思わず声を出した。
俺の青苔みたいな毛は、下着の境目で見事なVの字になってしまっていた。ハミ毛はしないが逆に恥ずかしいので、俺は仕方なく上の方から少しずつ脱毛していく。
股間にVの字を描いていた毛が、今度は扇の形になった……。
俺は冷静に考えた。さっきまで超ナチュラルだった毛が、なぜ突然変異のようにVの字になったり、今まさに扇状になってしまったのかを……。
俺の分析では、コロコロが容赦なくムダ毛を消し去ってしまうせいで、処理した部分との境目が鮮烈になるのだ。
つまり、なるべく段々と毛が薄くなるように処理すれば問題ないということだろう。
俺はコロコロの弱点を見極めて、中途半端に毛が処理されるようにトントンと当てながら作業したのだが、凄い効果のコロコロは容赦なく俺の股間から毛を奪い去った。
俺は暫く呆然としていたが、だんだんどうでも良くなってきて、一本残らず全部消して股まで全部つるつるにしてやった。もう首から下は何も生えていない状態だ。
俺は「無いよりマシ」なんて言われたら、「無い方がマシ」と即答できる潔い男だ。
俺はわざわざ美容効果まで丁寧に使ってから下着を付けたが、今までとは違って下着の感触が直接伝わってくるし、何だかしっとりしているのが妙に気に入ってしまった。
俺が股の隅々にまで使ってしまったコロコロを洗いに行くと、洗い場では浴槽の職人が作業をしていた。職人のお爺さんが一人、弟子っぽい若い兄ちゃんが二人、合わせて三人で作業をしているようだ。
「どうもお疲れ様です」
俺は三人に挨拶をして、石鹸でコロコロを洗った。
浴槽の木は若干刺激臭のある木材だ。ヒノキのような匂いとも少し違う。カビなどに対して一番強い木材を頼んだのだが、この臭いの元に殺菌作用があるのかも知れない。
「しかしまぁ奥さん、これは随分大きな浴槽ですなぁ」
「女三人で入る予定だからなあ……」
「三人もですかい? そりゃあご主人も大変だわな。ワーッハッハッハ!」
職人のお爺さんは弟子の背中をバンバンと叩いて大笑いした。見た感じは職人気質の堅物に見えたのだが、このお爺さんも上手い冗談を言ってくれる。
調理場から作業を見学していると、木の浴槽は予め組んでおいた囲いの四枚と底板の一枚を運んで来て、洗い場の中で箱状に組み立てるという作業をするみたいだ。
浴槽がただの四角形なら、注文されたサイズに合うパーツを選んで持って来るだけなので、サイズと素材の在庫さえあれば一日でやってくれるのだろう。
今やっている作業は、弟子の二人が重たい囲いのパーツを支えて、職人のお爺さんが木の継ぎ目になる部分を丹念に削って調整をしているところだ。
俺はコロコロを部屋に戻すと、職人たちの邪魔にならないように、広間でミシンを使っているサキさんの所へ移動することにした。
「サキさんは今何をしているんだ?」
「先にナカミチの作務衣を縫っておるのだ。わしらの分は急がんでの」
「エミリアは脚漕ぎと言ってたが、これは足踏みだよな」
「うむ。ペダル式の脚漕ぎばかりの中で、これだけは足踏みでの」
どう違うのか良くわからんが、サキさんの眼鏡にかなったのだから良い品なのだろう。
サキさんは絵も上手いし服も作れるし、ティナは料理と歌が上手いし、ユナは茶に詳しいし頭も良い。こうして見るとみんな何らかの特技を持っているのだな。
俺は自分の特技に付いて考えたが、ティナに甘えたりバニースーツを着せたり、自分の股間をつるつるにして喜んだりと、人に自慢できるような特技は思い付かなかった。
「ただいま」
俺が自己嫌悪に浸っているとティナが帰ってきた。
いつもならそのまま調理場に行くはずだが、今日のティナは自室に向かったようだ。新しい服でも買ってきたのだろうか?
荷物を置いて部屋から出てきたティナは、いつものエプロンを身に付けると調理場の方へ向かって行った。
暫くして洗い場の方から男三人の興奮した声が聞こえた。話しの内容からして、ユナが作り置きしている冷たいハーブティーを振る舞ったようだ。
洗い場で作業している職人たちは、朝からずっと作業しているからな。俺は気が付かなかったが、喉くらいは乾くだろう。
この世界だと暑い季節に冷たい飲み物なんてそうそう飲めないだろうから、さぞびっくりしただろうな。
サキさんはずっとミシンだし、ティナも夕食の準備を始めて、本格的に遊び相手が居なくなった俺は広間のテーブルでセルフ放置プレイを堪能していた。かなり切ない……。
余りにもやることがないので、俺は勝手口の横で薪割りの練習を始めた。
俺が薪割りをしていると、ハヤウマテイオウに乗ったユナが帰って来た。
「ただいまミナトさん」
「おかえり。どこに行ってたんだ?」
「雑貨屋さんと武器屋に商品を卸している工房まで行ってました」
ユナは一度家に入ると、すぐに俺の所に戻ってきて、裏の川で矢の試射をしようと言い出した。ユナは弓と矢とランプを持っているようだ。
「一昨日と同じように川の中央に巻き藁と的を置いてください」
「わかった」
俺はユナに言われるがまま、一昨日と同じように巻き藁と的をセットして、30メートルほど離れた場所にいるユナの元へ向かった。
「ミナトさん、この矢に火の精霊力を封じて貰えませんか?」
「矢に?」
ユナは俺に1本の矢を手渡してそう言った。俺は意味がわからなかったが、矢じりを見て全てを理解する。この矢は、矢じりが水晶で作られていた。
「水晶玉じゃなくても出来るのか? まあやってみるか」
俺は魔法でランプに火を付けると、その火から発生する精霊力を矢じりに封じ込めた。
「普通に封じられた……」
矢じりは火の精霊石と同じ色に変化している。別に球体でなくても良かったのか?
俺はその矢をユナに手渡した。
「ふふっ。上手くいくでしょうか? 楽しみですよね?」
そう言って弓を引くユナの顔は、いつものような妹っぽい表情ではなく、この雰囲気は誰だったか……カナンの町で吟遊詩人のレスターが見せた表情と似ている。
ストンッ! という、矢じりが木の的に刺さる音と同時に、溢れ出る炎が木の的も巻き藁も全てを巻き込んで、火炎放射器にでも炙られたかのように激しく燃え始めた。
激しい炎は直径5メートルはあろうかという範囲で燃え上がり、それが数秒間続いた。
「すぐ収まったが大事になるかと思った……」
「やっぱり出来ましたね。そんな気はしてたんです」
ユナは冷静に結果を分析して、炎が収まってから巻き藁の確認をしに行く。
俺も後ろから付いて行ったが、木の的は消し炭のように炭化して、巻き藁の部分もそれを支える支柱の形跡を残しただけで、藁の部分は跡形もなく燃え尽きていた。




