第548話「シースライム」
テレポーターで移動した先は、岩だらけの場所だった。
いや、これは普通の岩ではなく、溶岩か何かが固まったものかも知れない。
黒っぽくてそれほど密度が高く無さそうな岩や石が無数に転がっている。
地面から生えてきたかのような岩もあって、辺りの地形は複雑だ。
「ここが島なのか?」
「そうだよ。一応生き物もいるにはいるんだけど、この辺りは安全だよ」
レレの話では、海から上がってくる生き物と、空から飛んでくる生き物以外は見たことが無いらしい。
花を付けるような植物は存在せず、昆虫のような生き物も確認されていない。
「そんなに隔離された孤島なら、虫や種を持ち込まないように気を付けないといけないな」
「ん?」
俺の呟きに不思議そうな表情で答えたレレを見る限り、生態系とかそういう問題の意識はないのかもしれない。
いや、悪魔やモンスターがうろついている時点で生態系もへったくれもないか……。
「わしらは何を探せばいいのだ?」
「この筋を歩いて行くと海岸に出るから、その辺りに自生している海藻みたいな植物を探すんだ」
「それだけ?」
「時々海からやっかいな化け物が上がってくるから、それが出て来たら一時中断だね。毎回このパターンだから無駄に時間が掛かるんだ」
なるほど。
そのやっかいな化け物に邪魔をされなかったら、一日と掛からずに済むってことだな?
「そうなんだけど、まあ、離れていれば襲って来ないから、わざわざ一人で危険を冒すことも無いかなって、今までやってきたんだよね」
俺もソロだったらそうするかな。
どちらにしても、現物を見てからだな。
わざわざちょっかいを出すのもどうかと思うが、今後のために弱点とか追い払う方法とかが判明するなら、知っておいた方がいいような気もするし。
「まずは海岸までだが……」
俺とサキさんはレレの後ろをついて歩く。
この島には樹木らしい植物は生えていないようだ。
緑や茶色のコケのような物体ならそこら中にあるが、草らしい植物も生えていない。
空を見れば鉛色。
この島の空が晴れたことはないという──。
「む?」
「何かあったか?」
「あの山の向こう、建物らしき物が見えたわい」
「あれね、中が空洞になってる不思議な塔なんだ」
サキさんが指差した方向に視線を動かすと、大分斜めになった塔が見えた。
塔の色はくすんだ銀色で、空の色と同化している。
周りに比較する物がないから高さはよくわからない。
ただ、ここから見る限り、塔までの距離はだいぶありそうだぞ。
「古代の建造物かな?」
「たぶんね」
レレの用事が済んだら、後で現地に行ってみたい。
レレを先頭にして、歩き難い地面を黙々と歩いていると広い海岸に出た。
海岸ではあるが、きれいな白い砂浜は見当たらない。
島の地面と同じように、黒い砂浜が広がっている。
鉛色の空に黒い砂浜……心なしか海の色も淀んで見える。
波の高さは最高で30cmくらいか。
不用意に近付いて波にさらわれる危険は無さそうだ。
「これはダメだね。先客がいるようだ」
「どこかの?」
「ほら、砂浜と地面の境目の辺り……」
いた。
というか、あれはなんだ?
見た目は浜に上がった水クラゲのような感じだが、頭がおかしいくらいにデカい。
色は……体の上半分が鮮やかな青色で、下半分は無色透明かな?
浜に打ち上げられてぐったりした水クラゲのような見た目だが、わりと普通に動いている。
知能も五感も無さそうなくせに、何かを探しているような素振りだ。
「レレ、あれは何だ?」
「シースライムだよ。クラゲとは違うからね。オルステイン王国の西の海岸で良く見るらしいけど、本来のサイズは握り拳くらいの大きさなんだ。あとね、毒があるよ」
「ぬうぅ。あれこそ雷の魔法で倒せんのかの?」
珍しくサキさんがいい所を突いた。
「あの大きさでしょ? かなり強力な雷じゃないと蒸発しないんじゃない?」
それもそうか。
シースライムの大きさだが、どのくらいだろう?
つねにグニグニと変形するから大きさを掴みにくいが、体積だけで言えば2トントラックよりも一回り大きく感じる。
「氷でも炎でも、とにかくあのサイズだから手を出しにくいよね。ミナトたちが使っていた魔法の矢だっけ? あのくらいの威力がないと難しいんじゃないかなあ」
魔法の矢ね。それ、もう無いんだわ……。




