第547話「移動」
夕食後、ティナがユナたちをマラデクの町まで送り届けてしまうと、家の中にいるのは俺とティナとレレとサキさんの四人だけになった。
「わしらは新しい部屋で布団の位置でも考えるかの」
まだ少し早い時間だが、レレとサキさんは自室へ戻ってしまった。
布団の位置なんて別に何処でもいいだろうと思ったが、ここは察しておこうじゃないか。
サキさんの部屋は、今晩から新しい大部屋に移っている。
家を増改築した時に作った部屋だ。
本当はもっと有意義な事に使いたいスペースだったが仕方がない。
これで壁越しの騒音問題も無くなるだろう。
「俺らも風呂に入るか」
「そうね」
こんな感じで俺たちも少し遅めの風呂に入る。
「ああ……最初に買ったブラもこれで全滅か。気に入ってたのもあったのにな」
「また大きくなったの? 成長期恐るべしだわ」
そういうティナの方は特に成長した様子がない。
毎日風呂場で念入りにマッサージしているのに不思議なものだ。
「サイズが変わるたびに下着の買い替えはコスパ悪いよなあ……」
王都の店でも、流石に下着の仕立て直しはやっていない。
というか、そんなサービスは聞いた事がない。
また暇な時にでもフェアリーケープで買い直そう。
翌朝、俺は朝食の前に装備の確認をした。
持って行く武器は、ミスリル銀の大剣だけで十分だろう。
離れた場所には精霊魔法で事足りる。
基本的にはサキさんに任せればいいだろうから、余り気張る必要もない
防具は魔法の鎧だけでいいかな?
どうせ人の目もない秘境に行くんだから、鎧を隠すマントも不要だろう。
弓と盾を持たない代わりに、採取した薬草を入れる袋を持参する方が良さそうだ。
「朝食が済み次第出発でいいのかな?」
「うむ」
「雪が積もるような場所じゃないけど、やっぱり寒いからね。それなりの装備は必要だよ」
魔法の鎧のインナー姿を見たレレが、俺に言う。
「このインナーには暑さや寒さを打ち消す効果があるから大丈夫だ」
「全天候型の防具だっけ? それなら大丈夫かな」
レレの服装は乗馬用のウェアに防寒用のコートを羽織るようなスタイルだ。
服の仕立ても一級で、実に貴族然としている。
この辺、ガチで着たきり雀のエミリアとはまるで違う。
「サキさんはそのままか? 全身鎧は無しか?」
「うむ。身軽な方が良さそうなんでの」
フルプレートの鎧では、しゃがんで草むしりは難しいのか。
一応、胴体だけは鎧を付けているものの、それ以外の部位は置いて行くらしい。
持って行くのはロングソードの魔剣とハンドアックスのみ。
そうか、ハンドアックスは俺も持って行こう。
ナイフでは切りにくい硬い蔓も、ハンドアックスなら容易に断ち切れる。
野外活動では頼もしい道具だ。
「レレが今日行くのはどの辺りなの?」
「広間に貼ってある地図だと……この辺りかな? ごめん私も良く知らないんだ。それほど大きくはない島なのは確かだけど周りに何も無いから。私のお師匠も良くわからない場所だって言ってた」
レレはオルステイン王国の北西の辺りを指さした。
古代都市の遺跡がある場所から更に遠く、大陸を離れて海を西へ行った辺りだ。
勿論そんな場所の孤島まで地図に載っている訳もなく、レレが指差した場所は空白だが。
「そろそろ行くかの?」
朝食を食べ終わったサキさんが、ゆっくりと席を立つ。
俺も魔法の鎧をインナーに固定して、ミスリル銀の大剣を手に取った。
「あ、その大剣……」
そういえばこの大剣、レレがサキさんにあげた物だったな……。
「いやいや、それはいいんだ。ミナトはこういう武器が好きなのかい? いくらミスリル銀が混ぜてあってもその大剣に魔法の効果はないからね。重いし使いにくくない?」
「このリーチの長さと剣の重さが俺の足りない部分を補ってくれて具合がいいんだ」
魔道具屋でエミリアが見つけてくれた重量変化の護符のおかげで、俺の腕力でもこの大剣をぶん回せるからこその芸当だが。
「よし、準備が良ければ出発しよう。まず私が現地にテレポートして、このテレポーターを設置すれば良いのかな?」
「うむ」
レレは一足先に現地にテレポートした。
「わしらも行くかの」
「気を付けてね」
「忘れ物はないな? じゃあ行くぞ」
俺とサキさんは、広間に設置したテレポーターからレレの後を追った。




