第539話「ダレンシア王国の周辺国」
箱開け作業ですっかり体が冷え切った俺たちは、暖かいお茶を飲みながらダレンシア地方の地図を眺めていた。
特に何かをしたいわけではないが、オルステイン王国の冬の寒さに辟易した感情の表れとも言える。
「こうして見るとダレンシア王国から移動できる国は多いよな。北東にボルゴナ王国、東にハザーン聖国、南東にシーランドか……」
「この山に囲まれたボルゴナ王国とやらがワイバーンの産地かの? ごくまれに人間に懐く個体がおるらしゅうて、飼い慣らせばワイバーンの背に乗れるらしいわい」
「国土の殆どが険しい山だから、移動するだけでも苦労しそうだ。エルレトラ公国やバハール平原から見える滅茶苦茶高い雪山の向こう側だよな?」
「ダレンシア王国とボルゴナ王国を繋ぐ街道は二カ所しかないんです。どちらも深い渓谷の脇にある細道らしいですね」
ボルゴナ王国も大変だな。
ちなみに観光で行くような場所ではないので、あまり情報も集まらないそうだ。
「お隣のハザーン聖国がみゃーこの故郷ね」
ダレンシア王国の首都シアンフィで、エミリアが密売業者から買ってしまったご禁制の猫っぽい生き物……。
今日も暖炉前のソファーの上でぐうたら寝ている。
猫らしい生態と言えば猫らしいのだが。
「ハザーン聖国は北の砂漠で暮らしていた民族が興した国なんです。オルステイン王国とは交流があるので、ハザーン聖国の情報なら現地に行かなくてもある程度ならわかりますよ」
「じゃあこの下のシーランドって言うのは?」
「シーランド自体はもう存在しないらしいです。ダレンシア王国の南東には巨大な壁が建設されていて、誰も立ち入りは出来ないみたいです」
「なんかキナ臭そうな土地だな……」
「なのでダレンシア王国から東側への輸送には船を出しています。シアンフィの港ありましたよね? あそこから船を使って大量の物資を東の国に運んでいるんです。ちなみに海が荒れてもシーランドに上陸してやり過ごす船はないみたいですよ。あと、素行の悪い業者にお金を払えば海路からシーランドに上陸させて貰えますが帰りの便はありません」
なんか俺が知らない間に色々調べてあるな。
この中で俺が一番気になるのは、やっぱりシーランドかな……。
色々と謎に満ちていそうだから、冒険心をくすぐられる。
「ですよね!? 片道切符でもテレポーターで帰れますし。いつか行ってみたいと思うんです」
「うむ。面白そうだの。しかしその前に、そろそろグレンらを迎えに行かねばなるまい!」
素で忘れてた。
どうしよう。
一晩放置してた。
「テオ=キラも安心して遊んどれ言うとったのならまあ良かろう?」
「とりあえず早く迎えに行ってやろう」
俺たちは半ばオルステイン王国の寒さから逃げるようにして白の砂浜に移動した。
ダレンシア王国の西南に位置する白の砂浜──。
未だ人間の手が及んでいない真っ白な砂浜を、俺たちは勝手にプライベートビーチと決めて独占している。
迎えに行くと言いながら一晩放置していたから、それなりの文句は言ってくるだろうと覚悟していたが、グレンは照り付ける日差しを全身に浴びてかなり満足していた。
テオキラの入れ知恵か、昨晩は豪快なキャンプファイヤーを楽しんだ形跡もある。
「俺、ココ気ニ入ッタゾ! アノ糞寒イ国、嫌イダ!!」
「うん。真冬だからな。あの調子だと春まで雪が降っていそうだ」
「ヤッパリソウカ。モウ帰ルノヤダ!」
「そこを、何とか」
グレンはプイと後ろを向いたきりだ。
「テオ=キラ、何とかならんか?」
「むずかしゃあ」
かく言うテオ=キラは、グレンに作らせたらしい砂山の上に鎮座している。
バカと何とかは高い所にのぼるというが……。
「それを言うなら何とかと煙は高い所にのぼるですよ」
「キーーッ! 小悪魔ですらわらわに敬意を払うちゅーに、ぬしらときたらーっ」
「これだと祭壇というよりお山の大将じゃないか。ほら帰るぞってか熱っつい!!」
俺は砂山に鎮座しているテオ=キラの銅像を掴んだが、南国の日差しを朝から溜め込んだ銅の熱さに、思わずびっくりしてテオ=キラを海に放り投げた。
「大丈夫? 火傷しなかった?」
「うん。テオ=キラどこ行った?」
「すみません見てませんでした」
「どの辺に投げたのだ?」
結局、海中のテオ=キラを探すのに小一時間かかった。




