第534話「家のチャーハン」
カルカスのおっさんが村を出た後、俺は一人寂しく揚げ物の後片付けをしていたのだが、風呂の用意ができたというティナの報告を合図にしてコイス村を撤収する事となった。
結局宴会には参加できなかったが、鍋を洗っている最中に水の精霊魔法を試したら、汚水は浄化できるけど水に浮いた油は浄化できないことを知った。
何気に超重要な事実がわかったと思う。
「土産に酒を貰うたわい。その辺に生えとる草の球根で作った酒らしいの」
「その辺の草って……大丈夫なのか?」
「俺も貰ったわ。あまり作っとらんから王都には卸してねーらしい」
しこたま酒を飲んでさらに地酒のお土産まで貰ったサキさんとナカミチは上機嫌だ。
茹でだこみたいに真っ赤な顔をした千鳥足の二人は見ていておっかない。
とりあえず俺たちは、村の面々に別れを告げてからテレポーターで家に帰ってきた。
「ナカミチもサーラも後で送るから、今日はお風呂入っていきなさい」
なんてことをティナが言い出す。
「そりゃありがてーな」
「ではナカミチとわしで入るかの。風呂はわしらが先、女子供はあと!」
「はいはい。しこたま飲んでるんだから、風呂場で倒れんようにな」
「お風呂場でリバースだけはしないでくださいね」
もういい感じに出来上がっている二人は、仲良く風呂場へ歩いて行った。
「サーラは私たちと入ろうね」
「はい」
「二人がお風呂へ行ってるうちに何か食べたいわね」
結局、天ぷらを作ったり配ったりしていた俺たちは夕食をとっていない。
そういえばエミリアとレレはあれっきりだな。
エミリアは飲まず食わずで研究対象をあれこれするんだろうけど、レレはどうするのか?
後でこっちに来るような感じではあったが……。
「二人ともいい大人なんですから、ミナトさんが心配しなくてもいいんじゃないですか?」
それもそうか。
「お肉の余りを貰ってきたから、これで何か作ってくるわね」
「え? あの丸焼きのやつですか?」
「そうよ」
一瞬ユナの目元が引き攣ったように見えたが、ティナはさっさと調理場に向かってしまった。
「……あの肉、ヤバいのか?」
「獣臭が凄かったですよ。酔っ払いのおじさん達は平気な顔してたけど、私は一切れ口に入れただけでやられそうになりました」
「私知ってます。ああいうのを『チンミ』っていうんですよね?」
「サーラは渋い言葉知ってるなあ」
「あのエミリアさんが手を付けずに帰ったのが答えですよー!」
そんなにか。
例えるなら野犬の肉を食いちぎるようなイメージが頭の中いっぱいに広がる臭いらしい。
そこまで凄い臭いなら逆に興味が沸く。
暫くすると、醤油の焦げるような香ばしい匂いが調理場から漂ってきた。
ユナは警戒しているが、今のところ獣臭はしないようだ。
「あの臭い大丈夫でした?」
「あれね、下処理したら消えたけど肝心のお肉が縮んだから、細切れにしてチャーハンの具にしたわよ」
大きな皿に山盛りのチャーハンからは、香ばしい匂いだけが漂ってくる。
ティナは軽く下処理なんて言ってるが、恐らく色々な手順を踏んでいるのだろう。
後学のために見学しておくんだったな。
「なんか食べたこと無い種類の肉だな。ほろほろに崩れるけど芯はあるし……」
「野性味は残ってるけど柔らかさのおかげで普通に食べられますね」
「チンミじゃなくなったんですか?」
「そうだなあ。珍味じゃなくなったけど、誰が食べても美味しくなった」
なんて事を話していると、風呂の方からやたらデカい声で歌が聞こえてきた。
湯船に浸かっていい感じになっているんだろう。
黙々と体を洗っている時は静かにしていたようだが、普通の話し声でも結構聞こえてくるものだな。
話の内容からして、今はサキさんの筋肉をナカミチが触って確かめている様子だ。
「これって、もしかして、私たちの声も広間に筒抜けなんですかね?」
「ナカミチは普段の地声が大きいから、私たちの声なら大丈夫な──」
「嘘だろーすげぇ! バイクのフロントフォークみてーだっ!!」
ティナの言葉を遮って、一際でかいナカミチの声が響き渡る。
「うるさくてすみません。ちょっと注意してきます」
「あ、だめよ。サーラはここにいなさい」
申し訳なさそうに席を立ったサーラを制止すると、ティナは一人で風呂場に向かった。




