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第521話「精霊との相性」

 翌朝、ユナとサキさんはナカミチを誘いに街へ出た。

 エミリアとレレは一足お先にコイス村──ではなく、カルカス卿の館に向かう。

 コイス村の領主であり、エミリアの義父ぎふにあたるカルカスには、先に挨拶を済ませておこうという流れだ。

 家に残ったティナは出発の準備を進めている。

 さしてやることもない俺は、グレンとテオ=キラを連れてダレンシア王国にある白の入り江にやってきた。


(おみゃーら二人はいつもやることがにゃあの……)


 テオ=キラは開口一番、俺とグレンに嫌味を言う。


「生キテルダケデ精一杯デース!!」

「良いこと言うじゃないか。さて、時間が来るまで精霊魔法の練習に付き合って貰うぞ」


 ユナとサキさんがナカミチを連れて来たら、白の入り江に置いてあるテレポーターは一時回収される。

 あまり時間は無いが、どうせやることもないので適当に時間を潰そう。


「ああ、そうだ。後ろの森に植物のバリケードを作ってあるんだけど、壊れていないか見てきてくれ」

「ウム!!」


 グレンは意気揚々と背後の森に入っていく。

 やはり火の悪魔、南国の暑い気候が肌に合うらしい。

 凍えるような家の中では子羊のように大人しくしているが、ダレンシアの大地ではすこぶる体調が良さそうに見える。

 植物で作ったバリケードに破られた形跡が無ければ、ここの管理をグレンに任せるという手もあるな。





 今日俺が試したいことは、「精霊の雫」の反応を見ながら、色んな精霊との相性の強さを確かめることだ。

 精霊の雫とは、特殊な鉱石をあしらったアクセサリーで、精霊との繋がりの強さに応じて鉱石の輝きが変化する。

 一見すると魔道具のようだが、精霊だけに反応する特別な鉱石を使っているだけらしい。

 そういえば、エミリアから貰った温度に反応する鉱石も魔道具では無かったよな。

 この世界にはまだまだ見たことのない不思議な鉱石がありそうだ。


(そんなもんに頼らずとも、わらわの目には見えちょるばい)


 テオ=キラの目に見えていても、俺が把握していないと意味がない。


(こほん。おぬしと相性がええのんは植物と生命の精霊じゃの。あまりよくにゃーんが火と冷気。まー、暑くても寒くても文句を言うおぬしらしいわ。クェーケッケッケッ!!)


 相変わらず邪悪な笑い方をする神様だが、なるほど、事前に相性を知れたのは有り難い。


 精霊魔法の難しい所は、精霊との繋がりが弱いと術の制御が難しくなり、逆に強すぎると術者の心身に深刻なダメージを与えることがあるので、魔術よりも気難しい一面がある。

 なので自分と精霊の相性を把握することは、極めて重要な項目の一つであると言える。


 そうそう、これは相性問題と同じくらい重要なことだが、精霊魔法の威力や強度に関しては、相性よりもその場の精霊の強さが影響する。

 例えば茶色く濁った水溜まりよりも、水筒の中の透明な水の方が精霊は強いし、ロウソクの小さな火よりも暖炉で燃えさかる火の方が精霊が強い。

 火の精霊と相性が悪い俺でも、大きな火から発生する力強い精霊を行使すれば、それ相応の強力な火の魔法を使えるということだな。

 もっとも、制御が難しいので暴走する可能性もあるが……。


「そういえば『偽りの指輪』で魔法を使っていた時は、仕様上の制限もあって同時に二種類以上の精霊力を扱うことは出来なかった。エミリアも精霊力を混ぜるのは無理だと言ってたっけ……」


(精霊を混ぜ混ぜするんは、やめといた方がよかよ)


 やはりダメか。

 精霊に関してはエルレトラでの一件もあるし、なるべく慎重にやらないとな。

 そもそも精霊魔法の相談ができる人物が近場にいないのはつらい。

 俺が知っているのはフェアリーケープのミゼルさんか、その孫娘のコレットだけだ。

 テオ=キラも本体が現存していた頃なら知らぬモノ無しだったのだろうが、今となってはオンラインサービスが終了した古い端末みたいなものだしな……。


(むか。むかむかむか! 今、無性に腹が立った!!)


 テレパシーっぽい何かで語り掛けてくる相手には、こちらの思考も若干読み取られてしまうようだ。

 悪口を言うときは注意せねば。





 気を取り直して、今現在、俺の周囲に存在する精霊は以下の通り。


 土の精霊ノーム

 水の精霊ウンディーネ

 風の精霊シルフ

 光の精霊ウィル・オー・ウィスプ

 闇と精神の精霊シェイド

 生命の精霊

 植物の精霊ドライアード

 植物の上位精霊エント


 結構わちゃわちゃしているが、普段からこんなものだからもう慣れた。

 以前にコレットから教わった基礎知識があるおかげで、魔法の時と比べたら随分と手探り感は少なく感じる。

 ドライアードの気配に混じって別格の気配を感じるのは植物の上位精霊エントだ。

 これは植物の精霊との相性の良さだけでなく、一度エントとの繋がりを持ったゆえに認識できているのだと思う。


 ちなみに海の近くでは確実に水の上位精霊もいるはずだが、今の俺ではまだ認識することができない。

 この「認識できない」と言うのが曲者くせもので、仮に水の精霊と相性の良い精霊術師が無意識のうちに水の上位精霊に触れてしまうと、場合によっては命を落とす危険がある。

 相性が良過ぎると経験や錬度をすっ飛ばして精霊と深く繋がるから、こういった事故が起こりやすい。

 ミゼルさんが俺に「精霊の雫」を与えたのは、自分と精霊との相性を正確に把握して、突発的な事故を防げるようにと考えてのことだ。

 上位精霊は神の領域に片足を突っ込んだ存在なので、どんなに鍛錬しても扱い切れるものじゃない。


 あと、上位精霊の存在が確認されているのは、土、水、火、風、植物、冷気の六種類で、それ以外の上位精霊を確認した者はいないそうだ。

 テオ=キラの話では、俺は生命の精霊とも相性が良いと言うが、未だ上位精霊の存在が確認されていないものに関してはどうやって注意を払えばいいのだろう?


 そもそも生命の精霊は生き物の深い場所にいるものだから、精霊の存在を感じることは出来ても、ビジュアル的なイメージは一切見えてこないんだよな……。


 まあいい、とりあえずは近くにいる精霊に片っ端から干渉して、精霊の雫の反応を確認してみようじゃないか。





 ……結論から言うと、俺と精霊との相性に関しては、概ねテオ=キラの言う通りだった。


(ほれ見てみい。時間の無駄じゃったろーが?)


「信用するしないに関わらず、一応自分でも調べると言う姿勢は大切なことだぞ」


 俺は半分負け惜しみでテオ=キラに反論する。

 どのみちテオ=キラの言い方は雑だから、自分でわかりやすいように各精霊と相性のランク付けをするためにも、鉱石の光り具合を見て判断するしかない。

 その結果、生命と植物の精霊に関しては殆ど同じレベルの相性であることがわかった。

 次点で相性が良い精霊は、土、水、光の三種類。

 可もなく不可もなくが風の精霊。

 あまり相性が良くないのは闇の精霊で、火と冷気の精霊とは相性が悪いとのことだから、次に俺が注意するべきは「土」と「水」の精霊だな。

 とりあえず上位精霊が存在する六種類の精霊に注意を払っておけば、今のところは心配しなくてもいいだろう。


「バリケードハ無事ダッタゾ。つるかじッタ様子モ無イ」


 グレンが植物のバリケードの見回りから戻ってきた。

 今のところ危険な生物が白の入り江に侵入した形跡はないようだな。

 しかしここは、まだまだ前人未到の土地。

 暫くは警戒を続けておこう。


「丁度いい。グレン、ここで火を吐いてくれ。悪魔の火でも精霊を行使できるか試しておきたい」

「火ノ精霊ヲ食エルノカ?!」

「食うなよ。精霊に攻撃させる練習もしたいから、燃やされる的になってくれ」


 火の精霊では、グレンにダメージを与えられないのは実証済み。

 俺は十分にグレンとの距離を取ってから、グレンの口から吐き出される炎に集中した。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 更新ありがとうございます。 ミナトの精霊魔法は降って湧いた力ではなく、いままでの経験が実を結んだ感じがして好きです。
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