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第51話「魔法の櫛」

 巻き藁を片付けて家の中に戻った俺とユナは、夕食の仕込みを終えたティナに言われて銭湯へ行くことになった。

 まだ夕方にもなっていないが、混み始める時間は避けたいので、どうしても半端な時間帯に入らざるをえない。


「今日のユナは機嫌がいいな。嬉しいことでもあったのか?」

「家に帰ったら、今日買ってきた魔道具を試すんです」


 すっかり忘れていたが、良くわからない美容効果の魔道具を買わされたな──ワイバーンの討伐報酬より高いやつを。

 ティナに言われたから渋々買い与えてしまったが、正直あの買い物に関しては、俺は納得できていない。

 ティナが体を洗い終えるのを待つ時間さえも、今日のユナはそわそわしている。



「しかし炸裂の矢はいまいち成功したとは思えんな」

「もう使ったの?」

「うん。あれを何本も買うより、素直に魔法の弓でも買った方が安いかもしれん」

「ちょっと微妙でしたよね」


 俺たち三人は、戦力強化の大本命だった魔法の矢が微妙な結果に終わったことを話し合ってから湯船を出た。






 家の自室に戻ってきた俺たちは、三人並んで髪を乾かしていた。解放の駒が増えたので各自思い思いに髪を乾かせるようになったのはかなり便利だ。

 ティナは早速、今日買ってきた魔法の櫛を使って髪を梳かしている。


「これは感動ものだわ……」


 いつもは髪の先から丁寧に時間を掛けて櫛を通しているティナだが、今日は頭の方から一気に櫛を通している。全く絡まないまま通っていくらしい。

 ティナは普段の何十倍も早く髪を梳かし終わると、あまりの感動に魔法の櫛を胸へ押し付けて大事そうに抱えていた。


「そんなにいいのか?」

「ミナトもユナも使ってみて。これは三人で大切に使いましょう」


 横にいたユナも使ってみたが、もの凄く感動している。

 普段の俺は手櫛で適当にやっているのだが、せっかくなので使ってみると何の抵抗もなく櫛が通って髪がサラサラになってしまった。



「ヤバいなこれは。こういうのを掘り出し物っていうんだろうな……」


 戦闘とは無縁の物だったが、これは買って良かったと思う。むしろもう一本欲しいくらいだ。三人使った後だというのに、魔法の櫛には一本も髪の毛が絡まっていない。


「これもう一本買ってもいいな。まだ在庫あった?」

「私が見たのはこれだけだったわ。もう一本あると便利そうよね」

「残念だな。ユナが散策するときにまた探しておいてもらうか」

「気が付いたときに探してみますね」


 ティナは調理場に戻り、ユナは例の魔道具を試すと言って洗い場の方へ向かった。






 一人になった俺は、ティナ用に新しく買ったカスタムロングボウを廊下の奥のスタンドに立て掛けたあと、もう使わないクロスボウを広間のオブジェクトにするため、適当な壁に固定していた。


「何をされているんですか?」

「エミリアか? 使わんけど捨てるには惜しい武器をオブジェクトにしていたんだ」


 いつの間にかテーブルの椅子に座っていたエミリアに声を掛けられて、俺は簡単に説明した。最近は飯の前にエミリアと話をすることが多い。

 今日は魔道具について二人で話をしている。


「俺は自分にチンチンを生やす魔道具が欲しいんだが、そういうの知らんか?」

「それはなんというか、昔近所のお姉さんが全く同じことを言っていました」

「詳しく聞かせてもらおう」

「随分探したようですけど、結局見つけられなかったようです。でも結婚してからはそういうことを言わなくなりましたね」

「ありそうで見つからないのがもどかしいな……」

「ミナトさんはどうしてその……を生やしたいのですか?」

「ティナに俺の子を産んでもらおうと思っている」


 エミリアは椅子から転げ落ちた。こいつには笑いの才能もありそうだな。



「今の発言には流石の私も引きましたよ。前々から怪しいとは思ってましたが、まさかそんなことを考えていたなんて……」

「俺は真面目なので情報があれば教えてほしい。そもそも召喚魔法の副作用でチンチンが消えたのだからな」

「え? そうだったんですか?」


 あー。エミリアは知らないのか。そう言えば俺とティナとサキさんがパーティー結成の自己紹介をしたとき、エミリアはその場に居なかったよな。


「おう。ここに立派なのがあったんだよ。このパンツから豪快に食み出るくらいのがな」

「は、食み出るくらい……」


 俺はエミリアの目の前でスカートをめくって可愛らしいパンツを見せつけると、股間の辺りを指さして、元のサイズから大幅に盛った嘘の説明をした。


「随分特殊な体質だったんですね……そういう情報が入ったらお伝えします」






 俺とエミリアの話が終わって暫くすると、鎧を抱えたサキさんが帰ってきた。


「あとで俺たちから渡したい物がある。飯の後に鎧を着て部屋まで来てくれんか?」

「良くわからんが承知した」


 部屋に荷物を運んだサキさんも席に着いたので、俺たちは夕食を食うことにした。食事がテーブルに並んでも戻って来ないユナをティナが呼びに行って、全員揃ったところで食い始める。


 今日の夕食はパスタだ。パスタは少々分厚いが、自前のミートソースが濃厚なので上手く絡み合っている。隣の器にはハムと野菜のマリネが添えられていた。


「このミートソースは変な酸味が無くて美味いな」

「王都のトマトは酸味が少ないのがいいわね」



 夕食を食い終わってユナのハーブティーで一息付いているとき、ティナが今日の朝獲った魚をテーブルに持ってくる。


「ねえエミリア、裏の川で獲れたんだけど、これは食べても大丈夫なの?」

「たぶん大丈夫ですけど、生で食べるのはやめた方がいいですね」

「美味いのか?」

「どうなんでしょう? 私は食べたことがないですけど……」


 エミリアは魚が苦手なのか、あまり乗り気ではないようだ。魚を食べる習慣がないと言っていたので食わず嫌いなだけかも知れないが。






 エミリアが帰ったあと、俺たち四人は日課の洗濯と歯磨きを終えて、それぞれの部屋に戻った。それからすぐに完全武装したサキさんが俺たちの部屋に入ってくる。


「言われた通りに来たが、どうするのだ?」

「後ろ向いて屈めよ。王都で一番良いマントを付けてやる」


 俺がサキさんの鎧に真っ赤なマントを固定してやり、そのまま三面鏡の前に立たせてみると、サキさんはカッコいい勇者風の姿に仕上がっていた。


「いいんじゃない? これはモテそうね」

「そうであるか?」

「サキさんのくせにカッコ良すぎる装備だな。しかも色物じゃないのが腹立つ」

「ちょっとポーズ取ってみませんか?」


 俺たちはサキさんにヒーローっぽいポーズを色々取らせて遊んでみた。

 フルプレートとチェインメイルでガチガチに固めて、その上目立つ赤マントまで羽織っていると、どう見てもこいつがリーダーっぽく見えるな。

 サキさんもノリノリでポーズの練習をしている。本当に幸せそうな顔だ。


「ありがたい。このマントは気に入ったわい」

「それは良かった」


 サキさんは上機嫌のまま自室に戻って行き、俺は特にやることも無くなったので、ティナと二人でベッドに入って寝ることにした。

 ユナは今日買った魔道具を持って洗い場に籠ったまま帰って来ない。明日にすれば良いと思うのだが、我慢ができないのだろうな。






 翌朝、俺が目を覚ますとユナはまだ眠っていた。夜遅かったのか全く起きる気配がないので、俺は魔法の櫛でさっと寝癖を直してから洗い場へ向かった。

 魔法の櫛は買って良かった。これならナイトキャップはもういらない気がする。


 俺が洗い場で朝の支度をしているとサキさんもやってくるが、ユナはまだ起きてこないようだ。俺とサキさんが広間へ戻ると、既にエミリアがテーブルの席に付いている。


「おはようございます。早速ですが荷馬車とワイバーンの卵の代金をお渡ししますね」

「早いな。二つ合わせていくらで売れたんだ?」

「銀貨13万1800枚です」

「二体分の鱗と革より高いのか……」

「欲しいと思って手に入る物ではないですしね。巨大ムカデの迷惑料も込みだと思ってください」

「そうだった。危うくユナがやられそうになったんだよ」

「無事で何よりでした。あれに噛まれると命を落としますからね」


 エミリアはさらりと恐ろしいことを言った。サキさんが居なかったら危なかったな。



「エミリアにはいくら払えばいい? 取り引きの仲介料も必要だろう」

「私は特に必要ないですよ。毎日ご飯頂いてますし」

「そういうわけにはいかんな。そうだ。良い店があるから服でも買いに行くか?」

「服ですか? 特に着替えることもないので、私はこのままでも良いのですが」

「はっきり言ってやろう。エミリアの下着は絶望的にババ臭い」

「…………!」

「正直、見たくもないし目に入っただけでも世の男が幻滅するレベルだ」


 俺がはっきり言ってやると、エミリアは後ろを向いて自分の下着を確認した。


「ミナトさんの下着可愛かったですよね。あれと比べると確かに幻滅します……」


 今日はエミリアと一緒に買い物へ行くことになりそうだ。


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