第518話「野に放たれた大魔導」
エミリアが広間に現れたことで、とりあえずレレの話は一時棚上げとなった。
エミリアはエミリアで、聞いておきたい事があるからだ。
「ご禁制の猫は元気でやってるか?」
「はい、ここにいますよ」
エミリアがワンショルダーバッグのような袋を取り出した途端、袋の口から見た事もない動物が飛び出した。
「……猫?」
「はい。猫です」
思わず聞き返す俺。腕組みをしていたサキさんも眉をひそめる。
エミリアが猫と言うそれは、ネコ科の動物と言われれば猫に見えなくもない生き物だった。
まず何よりも目を引く特徴は、白と水色が混ざった綿毛のような毛並み。
頭部に比べて若干小さな胴体と、ずんぐりとした手足。顔立ちは幼い猫を更に幼くしたように見える。
鳴き声は「ニャー」ではなくて「ミャー」に近かった。
俺たちが知っている猫とは全体的に違うが、これはこれで間違いなく可愛い……。
「あ。袋に戻っていきましたね」
「寒いのが苦手みたいなんです」
「役に立たん使い魔だのう……」
サキさんの辛辣な言葉に反応してか、猫のような生き物は袋の中から頭だけを出した。
オルステイン王国の冬は寒い。
王都ならまだ少しはマシなんだが、さらに北のミラルダまで行くと凍死するんじゃないか?
これでは使い魔としての単独活動はできそうにないな。
グレンといい、この猫といい、なぜエミリアは寒さに弱い生き物を使い魔に選ぶのか?
「それはそうと、その猫です。何のお咎めもなかったんですか?」
「丁度いいタイミングで、知り合いが飼育していたワイバーンの存在がバレましたから。問題を上書きしてくれたので助かりました」
「ワイバーンの飼育って……もしかして『アレ』か?」
「ええ、アレです。話していませんでしたか? 無事に雛が孵っていたんですよ」
王都に持ち帰ったタマゴ、無事に孵っていたのか。
どんな雛なのか、ちょっと見てみたいものだな。
「腹部以外は硬いウロコに覆われているワイバーンですが、雛のうちは産毛があるんですよ。大発見でした」
それは知らなかった。
蛇やトカゲのように、そのままの姿で生まれてくるんだと思っていたが……。
ちなみに雛から育てると人にも懐くらしい。
「まさかと思うが殺処分になるのか?」
「だいぶ揉めてますけど、最終的には学院預かりになると思います。いくら好き者の貴族でも、空を飛ぶ体長10メートル超は手に余りますしね」
「で、エミリアの審議まで手が回らなくなったから、一時的に解放されたわけだ」
ワイバーンみたいなガチのモンスターが出てきた以上、条約違反の猫一匹などに構ってられんという所か──。
エミリアはもう問題解決の気分でいるみたいだが、向こうの問題が片付き次第、改めて審議されることだろう。
このままフワッと忘れ去られるとは思わんのだけど……。
「王国からも一目置かれる要注意人物を途中で野に放ったんです。もう再審議できません」
「その通りです。ほとぼりが冷めるまで、この子はここに置いて行きますから。後の事はお願いしますね。あ、それと──この件もレレには内緒ですよ?」
「一体どの『件』が内緒だってー?」
いつの間にかエミリアの後ろに現れていたレレが、エミリアの頭をゲンコツでぐりぐりした。




