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第516話「レレの盾③」

 俺が後ろを振り向くと、知らない女がへたり込んでいた。

 いや、声の主はレレか──。

 普段はすっぴん顔のボサボサ頭で、少しくたびれた導師のローブを身に纏っているので、貴族然としたドレス姿は新鮮に映る。

 気合を入れたメイクに肩の開いたドレスの組み合わせは、どこから見ても大人の女性だ。

 正直な所、近所の姉ちゃんみたいなエミリアと違って、レレのドレスアップは純粋に美しいと感じた。

 普段からこうしていれば、少年と見間違われることもないのだろうが……。


「ちょっと、レレ? 大丈夫か?」


 俺はレレに手を差し伸べるが、レレはぺしっと俺の手を払いのけると、テーブルに鎮座しているテオ=キラの銅像を鷲掴みにした。


「人の記憶からも忘れられた邪神め……! 地に落ちてなお、人の心を惑わすつもりかっ……!」


(ヒ、ヒィーーッ! なにこの子怖いッ!!)


 実際には微動だにしないテオ=キラの銅像だが、ジタバタと暴れているようなイメージが湧く。

 いつもより2オクターブ低い声音で敵意を向けるレレの雰囲気は、周りで見ている俺たちでさえ恐ろしさを感じる。


「こっちは家の存続も掛かっているからね。そりゃ怖くもなるさ。で、本当にダメなの?」


(駄目じゃ駄目じゃ! 特に魔術師の血族はの! 魔術師とエルフの間に子が出来んのはしっとるけ? ミノタウロスに犯されてもはらむ魔術師はおらんじゃろうが!!)


 いや、知らなかったし。そんな事、今初めて聞いた。


「知っているとも。それならなおの事、魔力にゆかりのある者同士──」


(たわけ! そのままで魔人でも生まれてみい、事は当事者だけの問題じゃあ済まんど!!)


「うるさいっ! それでも私はこの男の子種……いやいや、この男がいいんだ!」


 その瞬間、すっと立ち上がったサキさんは、レレからテオ=キラを取り上げると、それを思い切りテーブルに叩き付けた。


(ああっ! 首もげた!! ちょっとサキさん、何しよっと!?)


「もう良かろう。もしもの時は、わしが『始末』を付けるわい」


(にゃろ、今朝ので納得したんじゃにゃーんか?!)


「今のやり取りを見とったら気が変わったわい。許せ」


(わらわは止めたぞよ。止めたからの? 各々(おのおの)もよう聞けぇ。もし生まれてきたのが人の子じゃあなく『魔人』じゃったら、赤子のうちに始末せえよ……)


 それきり、テオ=キラは喋るのをやめた。

 せめて『魔人』とやらがどんな存在なのかは知りたかったが、下手に話をほじくり返して怒鳴られるのも面倒だ。

 触らぬ神に祟りなしとはまさにこの事。

 後日、ほとぼりが冷めた頃に聞いてみよう。





 その後、ボロボロになった盾は無事サキさんの手から持ち主のレレに返還されたわけだが、これから先どうなるのかなど、少し込み入った話し合いが行われた。


「素朴な疑問なんですけど、レレさんってモルバッハ家の現当主ですよね? 普通なら王族とか、同じ身分の男性と話が進むんじゃないんですか?」


 当人以外の全員が何となく不思議に思っていた事を、ユナが直球で聞く。


「うん? サキからは何も聞いてないの?」


 聞いて無いんだなこれが……。


「なら簡潔に。これまで何度かいい話はあったんだけどね。何故か婚礼の直前になると毎回死なれるんだよ。そのうち変なウワサが立って、ご縁も無くなったわけ」


 まるで他人事ひとごとのように話すレレ。

 婚約者が死んだわりには、感情の動きが見られなかった。


「仕方ないさ。顔も知らない相手だからね。単に家を絶やさないための責務だから……」

「会ったことも無いとか、そんなので割り切れるものなのか?」

「家族になれば後から情が湧くこともあるだろうし、どうしても駄目なときは他所で愛人を作るとかね……エミリアの叔父様がまさにそんな感じだったよ」


 ああ……、この家の元主のことか……。

 現代人の感覚からすればあり得ないが、こっちはこっちで、これが普通の感覚なのかな?

 でも、できれば貴族の世界だけの感性だと思いたい。


「レレのそれ大丈夫なの? 何かの呪いとかじゃないわよね?」


 暫く黙り込んでいたティナが、ここでようやく声を上げた。


「少し前に私とエミリアで調べたけど良くわからないんだ。学院長先生もお手上げでさ……一応、運が悪かったということで落ち着いてはいるんだけども」

「そういうのは怖いな。前もって調べておかないとサキさんが危ないかもしれない」

「これは後で出す提案だったけど、君たち全員をうちのお抱え冒険者にするからさ。詳しく調べて貰えないかな?」


 調べない訳にはいかないだろうが、本業の三人が既にお手上げ……。

 これは大変な事になりそうだ。


「貴族のお抱えなら、王都の内周区まで出入りできますよね?」

「王城以外の出入りは自由だね。関係ないかもしれないけど、王都の壁の中に住んでいても非課税になるよ」


 おお、さすがは特権階級。

 でも壁の内側に引っ越す予定は無いから、非課税の恩恵は得られそうにないな。


「べつに今すぐ解決しようとは思ってないから、調べるのは君らの暇な時でいい」


 そうは言っても、最低限レレの家くらいは覚えておく必要がある。

 そんなわけで、レレはティナを連れて自分の家までテレポートした。

 ティナが場所を把握していれば、あとはティナのテレポートで何とかなるからな。


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― 新着の感想 ―
[良い点] レレとの新婚生活がはじまるのかな? でもムードメーカーのサキさんがいなくなるとちょっと淋しいな。 とりあえず婚約ということにしてしばらく一緒に生活を続けられると良いなあ。
[良い点] ヒューッ! 今回のサキさんかっこええな 転移者たちはハイ・ヒューマン的な実質亜人種になってるって感じなのかな? [一言] 親バカなレレの親が謀殺しまくってる、とかだったらそれはそれで怖い…
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