第515話「レレの盾②」
一夜明けて、今朝のサキさんは何時になく覇気が無かった。
明け方までテオ=キラと何かを話していた様子だから、殆ど徹夜に近いのだろう。
「……わしらはこの世界でも、自分の子孫を残せんのだの」
「は?」
朝食も終わりに差し掛かった頃、ふとサキさんが洩らした一言に、ただでさえ寒い空気が凍り付いた。
「意味が分かりません。何ですかいきなり……」
「言葉の通りだわい」
相変わらず言葉足らずなサキさんでは埒が明かないので、ここに至った原因と思われるテオ=キラに説明を促す。
(ぬしらの世界で言うところの、遺伝子じゃったか?)
「ああ、うん……」
(単純に『血』の話じゃが、見た目はこの世界の人間と同じでも、ぬしらの『血』は種類が違うんじゃわ)
「言われてみれば異世界人同士になるんだよな……」
(しかもサキさんの場合じゃと、あっちの世界の肉体は捨てちょるし、こっちの世界で生まれた人間でもにゃあの?)
「あ……」
テオ=キラの言葉の意味を理解したのか、ユナが口元を押さえた。
「サキさんはこっちの世界に来たとき、別人の姿で魔法陣から現れてますよね? じゃあ今のサキさんの肉体は、一体誰の遺伝子を受け継いでいるんですか?」
『あー……』
ユナのまとめに全員が納得した。
そうか。サキさんだけの話じゃないぞ。俺とティナにも当てはまることだ。
この世の誰からも遺伝子を受け継いでいないということは、自然界の生物として成立しないのも同じ──。
「魔法生物やホムンクルスとか……古代の魔術師たちは『無』から生き物を作ったと言われているわ。それに近い存在なの?」
(人間ごときの工作と同じにするのは可哀想じゃが、その認識でよか。一番近いのは自然発生した悪魔じゃと思うがの……)
「最悪、人間の遺伝子を持ち合わせていないってことか……」
(生まれてこんならまだええ。本当の最悪っちゅうんは、人以外の『何か』が生まれて来ることじゃよ。今の人間でさえ魔術師の血は危ういからの)
『…………………………』
今の今まで、誰一人として考えた事もなかった問題だが、ここにきてテオ=キラの指摘は堪える。
「もう……ごく普通の、人の営みは諦めた方が良さそうね……」
(世継ぎが欲しけりゃ養子でも貰えばよか。精々一代限りの夢でも追い求めることじゃな!)
みるみる顔色が悪くなっていくティナをよそ目に、テオ=キラの邪悪な笑いが広間に響く。
「そんな……そういう話になってるのかい……」
それと同時に、俺の背後で誰かが崩れる音がした。




