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第512話「家計簿と光の剣」

 翌朝、エミリアは来なかった。

 さっそく使い魔の「猫」を見せびらかしに来るだろうと踏んでいたのだが……。


「あの子が好きなアップルパイだったのに」

んものは仕方なかろう。時間切れだの? このわしが食ってやるわい」


 取っておいてやれと言うよりも早く、サキさんは三人前のパイにかぶりついた。


「そんなことより、今日はどうします?」

「そうだな……特にやることがなければ、俺は家計簿でも付けるかな」


 長く寝ていた期間を含めると、結構な間が開いてしまった。

 そろそろ計算をまとめておかねば。


「ならば、わしはナカミチでも誘うて釣りでもやるわい」


 いいな。

 テレポーターごとナカミチの工房に持って行けば、一瞬でダレンシア王国の入り江に行ける。

 あの入り江、何かいい呼び方はないものかな?


「何の捻りもないけれど、白の入り江でいいんじゃない?」


 ティナは本気で何の捻りもない名前を付けた。

 まあ、それでいいか。

 変に小難しい名前を付けても覚えるのが面倒だ。


「私はティナさんと一緒にエルレトラに行きたいです。今の魔力なら馬くらいテレポートできますよね?」


 ユナは白髪天狗とハヤウマテイオウを回収する気だ。

 正直、王都の広さで馬のない生活は不便で仕方がない。

 こっちに移動できるなら、今すぐにでも移動して貰いたいくらいだ。


「そういえば、グレンはどこにいるんだ?」

「あのクソジャリなら、今朝早うに『白の入り江』とやらに行きょうたぞよ」


 暖炉の上に鎮座しているテオ=キラの銅像が教えてくれた。

 グレンのために夜中でも暖炉の火を絶やさないようにしているが、目の前に常夏があればそっちに行くのは当然だろう。

 王都と白の入り江では、体感で30度近い気温差があるからな。

 この冬は我慢して貰うけど、いずれはグレン専用の「炉」を作らないとだめかもな。


「──では、行ってくるわい。風呂とメシは済ませてくるからの」


 サキさんは魔剣とお風呂セットとテレポーターを持って、ナカミチの工房に向かった。


「私たちも行きますか……」

「馬小屋を掃除していくから、ユナは先に行っててちょうだい」

「なら、街の東口に飛ばしてください。馬を引き取って来ますから、合流もそこで」


 ユナをテレポートの魔法で公都エルレトラに送ると、ティナは掃除道具を持って馬小屋へ向かう。

 現在の馬小屋の状態は、屋根から落ちてきた雪の中に埋まっている。

 ああなるともう、人力では手に負えない。

 ここはティナ一人に任せて、魔法でどうにかする方が早いだろう。

 しかし、馬小屋の方も何とかしないといけないんだよな……。





 さて、みんな出掛けたことだし、俺もそろそろ家計簿を付けるとするか。

 前回から結構間が開いてしまった。

 何から手を付けようかな?

 そうだな──。

 エルレトラの山林地帯で手に入れた物が最終的にどうなったのか、そこから片付けていこう。


 まず、アーマード・ドラゴンの殻は全部ペペルモンド家が買い取ってくれたが、それが全部で銀貨13万6000枚になった。

 流石に40個もあると、まとまった金額になるもんだな。

 ただしこれは魔法が使えたから簡単に狩れたのであって、魔法なしだとこうはいかない。

 俺たちにとっては相性抜群の素材だったな。


 3本あった石の剣は、ストーンゴーレムに変わる特殊な魔剣だった。

 ゴーレム研究家のレレに1本あげたから、残りは2本。

 ストーンゴーレムの姿になった石の魔剣は、今日も家の外で除雪作業をしてくれている。

 その他、木の枝の槍や弓がいくつかあったが、これは折れない程度の強化魔法が掛かっているだけだった。

 一応ガレージで保管しているが、特別な価値は見出せないだろう。


 続いてフェアリーケープのミゼルさんからの依頼の件。

 報酬は銀貨2000枚に加えて、新作の服を四人分──。

 四人のうちの三人は俺とティナとユナで間違いないが、最後の一人がエミリアなのかは不明。

 大穴でサキさんだったら面白いので、完成してからのお楽しみに取っている。


 エルフの森では大変な目に遭ったが、コレットの指導もあって精霊魔法の使い方を覚えたのは収穫だった。

 中途半端に精霊との繋がりを持った代償と言わんばかりに、危うくエルフの森の上位精霊に持って行かれそうになったが……。

 その後ミゼルさんから「精霊の雫」という、魔霊石に似た石を貰った。

 この石の光り方を見れば、危険なレベルまで精霊と繋がっていないかを確認できるようだ。

 コレットからも精霊魔法について簡潔にまとめた手紙をもらっている。

 だが、一度精霊で大失敗しているので、なかなか思い切った実験が出来ないのも事実だ……。


 続いてバハール地方を縦断したユナの費用だが、実は馬の代金以外にも結構掛かっていた。

 一番高かったのは馬二頭、合わせて銀貨3万枚で間違いないが、ダレンシア王国の国境では「関税の様なモノ」まで取られている。

 そして馬二頭は首都シアンフィで銀貨10万枚相当に化けたものの、エミリアが銀貨8万枚の「猫」を買ったので、それだけでも銀貨1万枚の赤字。

 その上、競売手数料だの何だのと、もろもろ合わせて、銀貨2万4000枚ほどの足が出ていた。

 エミリアの「猫」はバハール縦断に付き合ってくれた報酬でいいのだが、魔法一切なしで挑めばもっと時間と費用が掛かっていたと思う……。

 苦労して繋げたダレンシア王国へのパイプだ。これから活用の道を考えていきたい。


 そういえば、サキさんが参加した浄化聖祭じょうかせいさいなんだが、あっちは詳細がわからないな。

 シアンフィの武器屋では高そうな剣を買っていたし、もしかしたらそれなりの褒賞金が出たのかも?

 その辺、サキさんが詳しい話をしないので不明な点が多い。

 事実、相当な活躍をしたんだろうけど、俺が一番気になったのは、アストラル光ブレードで実体を斬った話だ。

 あの魔剣は実体のない相手専用だと思っていたが、実体まで斬れるなら話は別。

 ガレージの棚に置いてあるから、後で俺も試してみよう。


 大きな収支はこのくらいで、後は生活費と雑費の数々か……。

 今引き取りに行ってる最中だが、馬を預けておくのに銀貨420枚掛かっているみたいだな。

 エルレトラの山林地帯で失ったキャンプ道具一式に銀貨1200枚、服や下着の買い直しに銀貨670枚。

 生活費が銀貨1710枚で、その他雑費が銀貨340枚。

 俺が倒れていたり、ユナがバハールを縦断していたり、サキさんが浄化聖祭で留守にしていたのが重なって、生活費が異様に安い。


 今回の収入は銀貨13万8000枚で、出て行ったのが銀貨2万8340枚。

 現在の総資金は銀貨34万9770枚だ。





 家計簿を付け終わった俺はガレージに行き、棚に置いてあるアストラル光ブレードを持って広間に戻った。

 最初は銀の燭台だと思っていた魔道具だが、これを握って光の刃をイメージすると、柄の先から光の刃が伸びてくる仕組みだ。

 この状態では光の刃に実体はなく、魔法の幻影や、いわゆる幽霊のような存在しか斬ることができない。

 いや、物理攻撃の効かない相手を斬れるのだから、それはそれで凄いのだが……。


 サキさんの話では、気合を入れれば実体を切り裂く事も可能になるらしい。

 何か斬っても良いようなものはないかな?


「…………」

「やめーや。嫌な予感しかせんわ」


 実験に付き合ってもらおうとテオ=キラの銅像に手を伸ばしたが、全力で拒否された。

 仕方ない。暖炉の脇に置いてある薪で我慢しよう。


「せい!」


 俺は気合を入れて薪を斬ろうとするが、光の刃は何の抵抗もなく空振りした。


「…………はあっ!」


 気合を溜めたが空振り。駄目なのか?


「にゃにしよっと?」

「光の刃で実体を斬ろうとしているんだが……」


 そういえばこれ、テオ=キラの銅像と同じ場所で見つけたんだよな。


「テオ=キラは、この魔道具について何か知らんか?」

「この手の魔剣は似たようなんが多いけんの。どれ、わらわの頭にかざしてみい」

「こうか?」

「そうじゃにゃあ!!」


 テオ=キラの頭に光の刃を当てたら怒られた。

 どうやら剣の柄を頭にかざせと言う意味だったようだ。


「ふむ……」


 せっかくテオ=キラが真面目に考えてくれているのに、新しく作った顔の造形が不出来なせいで、傍目にはふざけているようにしか見えん……。

 この不気味な顔は近いうちに作り直さんといかんなあ。


「何かわかった?」

「うーむ。昔、これと似た魔剣があった。確か光剣ルシャウドロワと言うて、使い手の生命力を吸い尽くしては、次の使い手に渡るという……」

「それじゃあ呪いの剣じゃないか。いい加減にしろ」

「そう焦るでない。さっきも言うたじゃろうが。この手の剣は一種類じゃにゃあで。まあ大抵は魔力か生命力を吸い尽くすがの」


 テオ=キラはしれっと恐ろしい事を言うが、生命力を糧にする魔剣だったら怖いので、ここはしっかり調べて欲しいところだ。


「むー。戦意とか殺意みたぁなもんが作用しとるかもしれにゃあ」


 本当にそれなら、エミリアが調べてもわからんわけだ。

 ユナでは実体を斬れなかったし、俺も無理だった。

 サキさんが実体を斬ったのはアドレナリンがドバドバ出ている戦闘中の出来事だろうから、こんな仕様では冷静に使うのが難しい。

 いまいち確実性に欠けると思うが、サキさんが切り札的に持っておくには悪くない魔道具だな。


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