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第510話「海水浴」

 俺とティナが海で使える魔法を試していると、ユナとサキさんの様子が慌ただしくなってきた。


「凄いのを捕まえたわい!」


 バシャバシャと水しぶきを上げながら走って来るサキさんの手には、何か黒い物体が握られている。


「うわあぁ! 近付けるなバカ!!」


 咄嗟に身構えた俺だが、よく見るとサキさんが握っているのはダンゴムシに似た生き物だった。

 いや、どちらかと言えば化石で見た三葉虫に近いのか?

 巨大なゴキブリじゃなくて良かったが、それでも大きさは10センチくらいある……。


「他にも! 色々おるわい!」

「私も! 変な魚捕まえました!」


 サキさんだけかと思ったら、今度はユナまで……。

 ユナはしゃもじのような形をした魚の尻尾を掴んで持ってきた。


「どこにもヒレが無くて、海の中を漂っているだけなんですよ」

「捨てなさい。皮の表面に結構きつめの毒があるわよ」


 ティナの言葉を聞いたユナは、その場で魚を放してから手を洗う。

 これがあるから未知の生物は怖いんだ。

 ユナが放した魚は、自発的に泳ぐのを放棄しているかのように海中を漂っている。

 逃げ足よりも毒を持つことで身を守っているのだろうか?


「サキさんも、その生き物放してやれ」

「エビの仲間やもしれん。後で食おうと思うとったが……」


 食う気だったのか……。


「それより二人は泳がないんですか?」

「いやそれが、思ったより水が冷たくてしんどいかなと」

「慣れですよ。一度濡れたら平気です」


 そう言ってユナは、俺に水を浴びせる。


「ひゃんっ、ちょっとユナっ……」


 膝まで浸かって少しは慣れたと思った海水は、やっぱり冷たかった。


「うわははは! 二人とも気合が足らんわい! あ、そーれ!」

「きゃあ!」

「ぶわっ! サキさん待て!」

「そーれ!」

「やめっ……」

「そーぉ、れーっ!!」

「やめてって言ってるでしょ!!」

「ぬおおおおーーっ?!」


 しつこく水をかけまくっていたサキさんは、突然の大波にさらわれていった。

 魔術師を怒らせると後が怖い。

 俺は武士の情けで、サキさんに浮力を与えてやる。

 新しい精霊魔法がさっそく役に立ったな!


「と、止まれん! 止まれん!! 止ま……ぐふうっ!!」


 中途半端に浮力を得たサキさんの体は、大波を駆けるサーファーのように加速しながら、入り江の端まで流されて行き──岩の壁にぶつかった。


「大丈夫かな?」

「ほっときなさい」


 頭から水をかぶって水浸しのティナはご立腹だが、ここまで濡れると水の冷たさにも踏ん切りが付く。


「まあまあ、ちょっと泳いでみようじゃないか」


 俺は少し深くなる場所まで歩いていき、実に十数年ぶりの海水浴を楽しんだ。

 それにしても、この入り江の透明度は素晴らしい。

 海底の白い砂が光を反射しているせいもあるのだろう……。

 足が届かない所まで泳いでも、水の中で目を開ければ海底の様子が丸見えになる。

 自分のつま先を見ていると、足が届くような錯覚に陥ってしまうから危険だ。


「ミナトさん、あっちの岩礁がんしょうに行くと変な生き物がいますよ」


 俺に追い付いてきたユナが、変な生き物がいる場所を教えてくれた。

 どうやらユナは、海の生き物がお気に入りらしい。


「ティナはどこ行った?」


 辺りを見渡すと、ティナは浜辺にしゃがみ込んで何かを拾い集めている。

 まあ、みんな好きなように遊んでいるみたいだ。

 それなら俺も、ユナがおすすめする変な生き物を見に行こうじゃないか。





 入り江の中央付近は急に深くなっているが、海底から飛び出した岩礁がんしょうで浅瀬になったポイントがある。

 そこの窪みに変な生き物が集まっているようだ。


「あそこ、ロブスターですよ」

「どこどこ?」


 ユナが指差した場所を見ると、くすんだ緑色の大きなザリガニが居た。

 正直、色的には食欲が失せてしまう。

 ……なんてことを考えてしまうあたり、俺もサキさんと大して変わらないな。


「騒ぎ過ぎたせいでしょうか? さっきまではいっぱいいたんですが」

「静かだった入り江を荒らしたんだ。警戒されたかもな。仕方ない、一度岸に戻ろう」


 俺とユナが岸に戻ると、ティナとサキさんもテントの中で休んでいた。


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― 新着の感想 ―
[良い点] 緑色のロブスター… なんか用水路の匂いがしそう…。 茹でて赤色になるならビジュアル面の問題は解決できるんだけども。
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