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第507話「次の目的地」

 何もない大陸から家に帰ってきた俺とティナは、冷凍庫のように冷え切った広間でグッタリしていた……。

 そういえば、あの大陸では気温を感じなかったと思う。

 このまま暖炉に火を入れなければ凍死する寒さだが、不思議と現実に戻ってきたような安心感がある。


(カーーッ! 油断したちゃ。あそこはもう行ったらいけんど!)


 現地では何一つ役に立たなかったテオ=キラが、突然息を吹き返した。


「結局、あそこは何だったの?」


(わからん。この世ではない何処かとしか言えにゃあで! わらわには魔法が掛かっておらなんだでの、意識ごと時間が止まってしもうたんじゃ)


 テオ=キラだけが沈黙した原因はそれか。

 俺とティナには強力な飛行の魔法が掛かっていたから、計らずしもあの空間の特異性に抵抗できたんだな。

 途中でしんどくなったのは、大陸に深入りし過ぎて空間の影響力がティナの魔力を上回ったせいだろう。


(そんなところじゃろうな)


「判断が遅れたら永久にあそこで眠っていたかもしれないわね……」

「とんだハズレを引いた。あそこは調査の対象外だな」


 仮にもう一度あそこに行きたくても、二度と辿り着けないような予感もするが……。

 しかし、あの空間は何だったのか……。

 上空から見下ろした大地は、どこまでも果てしなく続いているように見えた。

 仮に古代の魔術師が本気を出したとしても、あれだけの物理空間を再現するのは不可能だと思う。

 もっと強力な、世界をもう一つ構築できるくらいの、例えば神自身か、それに近い力を持った何かが……。


「やめだ。何でも暴こうとするのは良くないな」


(それでええ。命と引き換えに暴く価値はなかよぉ)


「いい加減、体が冷えてきたわ。シアンフィの宿に戻りましょう」


 俺はティナに促されるまま、シアンフィの宿の部屋まで移動した。





 宿の部屋には、ユナとサキさんの姿もある。

 おかしな空間に入るまでは空も明るかったはずなのに、シアンフィの空はもう真っ暗だ。


「今日は遅かったですね」

「悪い。変な空間に迷い込んだみたいで、遅くなった」


 俺はユナとサキさん、そしてグレンにも今日の出来事を報告した。


「時間すら止まる空間ですか……」

「凄いのよ。海の波もないの」

「ただ、これで南の海には何もない事が証明されてしまった……」

「そんなことはないですよ! 地球だって一直線に南下したら、南極まで何も見つからない場所はいくらでもあります!」

「そ、そうか」


 踏破系の冒険者になりつつあるユナに強く否定された俺は、少したじろいだ。


「どちらにせよ、あの空間に迷い込む条件が良くわからんからな。今後は不用意に海を渡るのはやめる」


 とりあえず俺たちは、宿の酒場が閉まる前に夕食を済ませることにした。





 酒場の料理は今日もウェルダンのフルコースだ。

 美味しい事には美味しいのだが、どの料理にもしっかりと火が通っているのが気になる。

 流石にデザートまでは焼いていないものの、もう少し汗をかかない料理を食べたいところだな。


「食中毒を減らす知恵かもしれないわね……」

「水揚げされてすぐの海産物なら生で手に入りますよ。野菜も朝の市場で買えば大丈夫です」


 もしもこの世界にビニール袋があれば、街の地下に流れる川で冷やしておけるのにな。


「南の国と言えばの、腰巻き一つで火踊りするワイルドな日常を期待しておったのに、思ったよりも都会でガッカリだわい」


 サキさんは南の国に随分と偏ったイメージをお持ちのようだ。

 ただまあ、想像よりも都会過ぎて、ちょっと面白味に欠ける街ではあるな。

 やっぱり、貿易都市としての側面が強すぎるせいだろう。

 二日続けて海に出たけど、海岸で遊んでいる人を見なかったもんな。


「乾季の海には魔物が出るので、今の時期に海で遊ぶ人はいないらしいですよ」

「海の魔物は嫌じゃの。折角うた剣が錆びるわい」

「サキさん、さっそく新しい剣を買ったのか」

「うむ」


 食事を終えて部屋に戻った俺たちは、遅くならないうちに風呂を済ませて大人しく寝た。





 翌朝、しっかりと焼き目の付いたパンで朝食を済ませた俺たちは、この宿を引き上げるために荷物を家に送った。


「これからどうするんかの?」

「そうだな……ダレンシア王国への足掛かりは出来た。それに使った馬の売却も済んだし、みんな一通り街を見たと思う」

「そうですね。暇潰しに冒険の依頼でも受けてみます?」


 冗談交じりに言うユナに、俺は首を振ってみせる。


「遊びに行こう。海に」

「今は乾季ですよ? 大丈夫なんですか?」


 首都シアンフィからずっと海岸沿いを西へ移動すると、入り江になった砂浜がある。

 あそこなら直接外洋に面していないから、比較的安全かもしれない。


「あそこね……」

「危なそうなら水遊びはやめて、釣りでもすればいい」

「ええの」

「人が居ないからな。グレンも外に出て自由に飛び回れるぞ」

「エエノ!」


 南国らしく軽いノリで、俺たちは入り江を目指すことになった。


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