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第506話「無の大陸」

 翌朝、宿の酒場で軽い朝食を済ませた俺たちは、それぞれの目的に合わせた準備をしている。


「サキさんはどうするんだ?」

「折角なんでの、武器防具屋を見て来るわい。珍品があるやも知れん」


 首都シアンフィなら、合計で六カ国もの武器と防具が一堂に集まると言っても差し支えない。

 変わった武具があれば、その由来を想像するだけでも楽しいだろう。


「私も色々見て回る予定なので、一緒に行きませんか?」

「よかろう」


 ユナとサキさんは一緒に街を回るつもりだ。


「それじゃあ、俺とティナはこのまま出るから。今日はテオ=キラにも来てもらうぞ。グレンは悪いが留守番を頼む」


 俺はテオ=キラに突き刺さっているスタンドの棒を引っこ抜いてから、腰のベルトに紐で結んだ。


(わらわを連れて行くとな? それは楽しみじゃのー!)


 かつてテオ=キラの本体から分かれたテオ=キラの一部は、銅像に宿って以降、陽の当たらない場所に安置されていたはず。

 もしかしたら、銅像の中のテオ=キラが青空の下に出るのは、これが初めてになるのかもな。


「俺ハ留守番カ?」

「今日はヤバいと思ったら即逃げるからな。溶岩の島にも行かないし、楽しくないと思うぞ」

「ソレナラ仕方ナイ」

「大通りの人が増える前に出発するわよ」


 俺とティナは開けっ放しの木窓から身を乗り出すと、一気に街外れの林の奥までテレポートした。





 街外れの地点までテレポートした俺とティナは、そこから飛行の魔法で海上に出た。


(やりたい放題じゃの。まるで古代の魔術師そのものじゃわ)


「大人しくした方がいいのかしら?」


(よかよか。もっとスピード出さんかや!!)


 紐で吊るされたテオ=キラは、風でバタバタと暴れながら楽しんでいる。


「ティナ! 前方に障壁を張ってくれ。風当たりが強い!」

「わかったわ!」


 ティナが魔法の障壁を張ると、前方から打ち付ける風が消えた。

 今日は手加減なしで南の海を渡るつもりなので、風よけの障壁は必須だ。


(東に流れちょるぞよ)


 テオ=キラが注意を促す。


「わかるの?」


(フフン!)


 テオ=キラは自慢げに笑った。

 それもそのはず。コンパスらしきものを見掛けないこの世界では、かなり貴重な能力だ。


(ここまで来た人間は主らが初めてじゃろうて……)


「テオ=キラでもこの先に何があるのか知らんのか?」


(特に用事もにゃあしの……)


 確かに、それもそうか。





 俺たちは延々と続く大海原の上空を、高速で飛び続けている。

 昨日のこともあるので警戒してはいるが、今日は怪鳥に出くわすこともない。

 もうどのくらい進んだのかもわからなくなってきた頃、空と海の色に変化が起きた。


「急に暗くなってきたな」

「おかしいわね。まだそんなに時間も経っていないはずよ」


 時差にしては少し違和感のある暗さだ。

 空が曇っている訳でもない。


「陸地が見えてきたわよ。降りてみる?」

「いや、ここが人間の踏み入る場所じゃなければ、何が潜んでいるかわからん。暫く偵察飛行で様子を見よう」


 それに、何かおかしな病原体を持ち帰っても困る。


(何の気配もにゃあで……)


 海面を覗く。

 暗い紫色をした空に反射してか、海はインクのように黒く反射している。

 まあ、実際には透明の海水なんだろうけど。


「波が無いわ……」


 妙な違和感があるなと思っていたら、海岸には波が無かった。

 池に溜まった水のように、微動だにしない海面。


「不安を掻き立ててくれる。夢の中の景色みたいだ……」


 それに風も出ていない。

 俺は不気味に思い、周囲の精霊を感知してみた。


「変だな。水も風も土も、精霊がいないぞ。光も闇もない。生命と精神はあるけど、これは俺とティナのやつだな。あと、植物の精霊はある……」

「私の精霊力感知にもかからないわ。ちょっと上昇するわよ」


 俺たちは目一杯上昇して、陸地の全体像を見回した。


「もしかしたら、この空間そのものが古代の遺跡かと思ったけど……」


 上空から見る限り、とても魔法の幻影とは思えないスケール感がある。

 遥か先の方まで暗い紫色の空が続いており、小さな島という感じでもなかった。

 足元に広がる植物は全て枯れているように見えるし、この土地では二度と陽が昇らないことだけは直感で理解できた。


「建物の残骸も見当たらないな」

「何もないわね」


 時折、大地をえぐったような地形も見られる。


「もう少し進んでみて、何も無いようなら帰ろう」

「そうね。テオ=キラは大丈夫?」


(…………)


 ティナが確認するも、テオ=キラはだんまり。

 自前の魔力が切れたのかな?

 肝心な時には役に立たんやつめ。





 俺とティナは尚も真っすぐ南下してみるが、植物の緑も、建物のがれきも、動物の骨のようなものでさえ発見できずにいる。


「なんだろ……。ここにはもう何も無いって、本能でわかる。それに我慢できないくらい、しんどくなってきたな……」


 息が切れるというか、宙に浮いているのに全身が重い。


「もう家に帰るわね……」


 ティナは気怠そうな声で言い放ち、俺たちは王都の家までテレポートした。


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