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第505話「樹脂油(じゅしゆ)」

 一度は宿の部屋に来たエミリアだったが、船着き場で猫を買ったという報告をすると、この日は自分の家に帰ってしまった。

 生き物を使い魔にする儀式魔法は一昼夜掛かるらしく、明日は顔を出せないらしい。


「悪魔召喚にまで手を染めて、ロックンロールな生き様を晒し続けたエミリアも、随分と丸くなったものだな」

「それだけ猫が強かったんです」


 そんなに可愛い猫なら、早くこの目で見てみたい。

 使い魔の儀式が済んだら見せに来るだろうし、それまで楽しみにしておこう。

 それから暫くして、買い物に出ていたティナが宿の部屋に戻ってきた。


「お店の人に説明したら、別の樹脂油じゅしゆを紹介されたわ」


 ティナの説明によると、松脂よりも緩くて固まらない樹脂油じゅしゆがあったそうだ。

 親指よりも小さな竹製の入れ物には、少しとろみのある液体が入っている。

 見た感じ、関節に流し込むのは簡単でも、ちゃんと機能するかは怪しいレベルの緩さだ。


「乾いたら今よりも粘性が上がるみたいよ」

「そうなのか」


 ちなみに乾いた樹脂油じゅしゆは、熱いお湯で溶いてやれば何度でも緩く出来るらしい。


「乾いてもカチカチにはならないんですか?」

「水分は飛ぶけど油の成分は蒸発しないみたいよ。でも錆止めには使えないって言ってたわね」

「まあ水に溶ける成分ならやり直しも簡単だ。店の人が良い具合に溶いてくれているから、さっそく使ってみよう」

「じゃあ、やってみますか……」


 ユナは頭陀袋ずだぶくろからテオ=キラの銅像を取り出す。

 相変わらず、だらんと力なく項垂れたそれは、糸の切れた操り人形のようだ。

 しかも目の焦点が合ってないから、御尊顔ごそんがんも恐ろしい。


(クケケケケケーーッ!)


 ゴロンと転がる首が俺の方を向いて、邪悪な笑い声がこだました。


「ひいっ」


 恐ろしすぎて声が漏れる。

 下手に人型を模したせいで、以前よりも邪神度に磨きがかかっていると思う。

 もはや魔よけ代わりに玄関にでも吊るしておいた方がいいのかもしれん。


「銅像の出来具合で中身のIQが下がったりするんでしょうか?」


(新ボデーになった嬉しさを表現しておるのじゃ。知能指数は下がっとらんぞよ)


 ユナに変わって訂正しよう。こいつの知能は元々下がり気味だったわ。





 アイスピックの先端に樹脂油じゅしゆを付けて銅像の関節に置いてやると、あとは表面張力の作用で勝手に樹脂油じゅしゆが馴染んでいく。

 この程度の事ならサキさんの帰りを待つことなく、俺たちでも出来る作業だ。

 関節は全部で──18カ所くらいある。

 改めて見ると膝が二重関節になっているなど、随所に職人の拘りが感じられた。


「目玉を真正面に向けると素で怖いな……」


 アニメ絵の目を参考にしたんだろうが、微妙にバランスが悪くて、カッと目を見開いているようにしか見えない。

 目と眉が離れすぎているのも手伝って、いわゆる「逝っちゃってる目」になっているのだと思う。

 更には、薄ら笑いを浮かべたような口元の造形が、底知れぬ恐怖を沸き立たせるのに一役買っている。

 だが基礎技術が高いおかげで、仕上げのクオリティーだけは完璧に近い。

 それゆえに作り慣れていない顔のバランスが悪目立ちして、新たな邪神が誕生してしまったのだ……。


樹脂油じゅしゆを馴染ませただけでも、関節に渋みが出てきましたね」

「乾いてきたら自立できるかもな」

「それまではスタンドに立てておきましょう」


 ティナはテオ=キラの股にスタンドの棒を挿し込もうとするが、これがなかなか入らない。


「棒が太すぎるのか、穴が小さすぎるのね」

「ナカミチのドリルで穴を広げて貰うか?」

「スタンドの棒を削る方が良いと思います。失敗しても代わりの棒ならいくらでもありますからね」


 なるほど、そういう考え方もあるのか。

 股の穴をよく見ると、入り口よりも奥の方が狭くなっている。

 ということは、棒の先端を先細りに削れば解決するって事だな。


「まあ、先っぽだけでも挿しておこうか」


 そんなやり取りをしていると、サキさんが風呂から戻ってきた。





 部屋に戻ってきたサキさんに樹脂油じゅしゆや太い棒の事を伝えた俺たちは、王都の家に戻って風呂に入る。

 シアンフィの宿にも一応風呂場はあるのだが、女風呂の方は狭い上に浴槽がない。

 なんと、浅いプール状の窪みに溜まっているお湯を風呂桶に汲んで使うという、浴槽とシャワーの悪い部分だけをくっ付けたような風呂なのだ。

 なので宿を取ってからも、毎日のように家の風呂を利用している。


「明日はどうするかな……」

「私はもう一度、貿易の方を見て回ります。ダレンシア王国は陸路で三カ国、海路で二カ国と貿易がありますから、この機会に色々調べてみますよ」


 それなら明日も別行動にしよう。

 国外の事情になるとエミリアの知識は期待できないし、テオ=キラの古い知識では時代が噛み合わないだろうからな。


「俺はもう一度だけ、今度は一直線に南を目指したい」

「次におかしな生き物に出会ったら、まだ相手が遠くにいる時点で家にテレポートするわよ」


 次からはそれでいい。

 今日は何とかやり過ごせたが、そう何度も上手く行くとは限らないしな。

 家の風呂で話し合ってから宿に戻ると、テオ=キラの銅像はシェーのポーズで固定されていた。


「まあ、こうなるわよね」

「デッサン人形の9割はこのポーズにされる運命だわい」


 この二人は一体何を言っているんだ?


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[一言] 何とは言わないけど、言い方ァ!w
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