第501話「怪鳥」
列島の終わりに見つけた溶岩の島。
散々北国の寒い生活を強いてきたこともあるので、グレンには暫くここで羽を伸ばしてもらうことにした。
帰りはテレポートだから遭難の心配はない。
陽が落ちるまで居ても大丈夫だ。
「この二日でわかったが、いくら魔法で飛べても、新大陸発見は難しそうだな」
「目印が無いと真っすぐ飛べないから、余計に難しいと思うわ」
やはり最低限度の航海術は必要ということか……。
俺とティナは水平線の先に想いを馳せながら、より遠くの海を見ようと上昇を続けた。
「上空は風が強い」
「吹き飛ばされそうね」
魔法で浮いていても吹き飛ばされそうだ。
南から吹き付ける猛烈な風には恐ろしさすら感じる。
「ああ、まつ毛が倒れた! もう降りよう」
「待って。何かが飛んでくるわ」
俺は痛い方の目を擦りながら、こちらに向かってくる「黒い点」に注目した。
「鳥か? 大きいな……」
まだまだ遠くに見える鳥は、時折旋回を交えながらもこちらに近付いてくる。
飛び方からして、こちらに向かってきているというよりは、単に風に流されているようにも見えるのだが……。
「ちょっと、いくら何でも大きすぎない?」
「ヤバいぞ。下に降りて様子を見よう」
だんだんと近付いてくる鳥の大きさに違和感を覚えた俺たちは、グレンが遊んでいる島の近くまで退避した。
海面スレスレから上空を見上げていた俺たちは、とてつもなく大きな鳥を目の当たりにした。
ちょっとした旅客機くらいのサイズはあると思う……。
『…………』
あまりにも現実離れした光景に、俺もティナも言葉が出ない。
巨大な鳥は、ガァガァと腹に響くような声で鳴きながら、優雅に旋回を続ける。
「間抜けな鳴き声。色々台無しだなあ……」
鷲のような翼を広げて飛ぶ姿は勇ましいが、アヒルが潰れたような鳴き声だけは頂けない。
「まさかとは思うけど、私たちを狙っているのかしら?」
それにしては旋回半径が大きいだろう。
いや、巨体ゆえに小回りが利かないのか?
「グレン! そろそろ戻って来い!」
俺は溶岩の島で泳いでいるグレンを呼び戻そうとした。
「来たわよ!」
ティナが俺を押し退けた瞬間、何かの塊が俺の鼻先をかすめる。
物凄い速度で通り過ぎたそれは、海面に激突する寸前で上昇に転じた。
「あの鳥か? あの大きさだぞ?!」
間近で見た鳥の大きさは、広げた翼が30メートルを超えている。
ドラム缶サイズの巨大なくちばしと、牛の胴体を掴めるほどの巨大な鉤爪は、紛うことなき怪鳥のそれだ。
そんな巨体が超機動をするのだから堪らない。
「もう一度来るわ!」
「グレンは島から出るな!」
怪鳥は鉤爪を手前に向けて、俺たちに襲い掛かる。
あんなのに掴まれたら、二度と脱出は出来ないだろう。
ティナは飛行の魔法を巧みに操り、宙返りして怪鳥をやり過ごす。
「あ……」
やり過ごしたと思った刹那、怪鳥も体のバネを効かせて反転、巨大な鉤爪を繰り出してきた。
「吹け! 突風っ!!」
俺たちと怪鳥の間に、風の精霊を割り込ませる。
結果、俺もティナも怪鳥でさえも、その場から吹き飛ばされてしまった。
乱暴に精霊魔法を使ってしまったが、今回は緊急事態だ。
怪鳥の威嚇するような鳴き声が響く──。
「ティナ、グレンを回収して即座にテレポートは出来るか?」
「グレンは溶岩並みに熱くなってると思うから、冷えるまでは無理よ」
相手をテレポートさせるにせよ、同時にテレポートするにせよ、術者は対象の相手に触れておく必要がある。
ずっと溶岩に浸かっているグレンの体温は、恐らく溶岩と同じくらいの温度になっている事だろう。
目の前で威嚇している怪鳥が、グレンの熱が冷めるまで待ってくれるとは到底思えない。
「放っておいても絶滅しそうな幻獣とはやりたくないんだが……」
魔法で脅かしたら逃げてくれないだろうか?
きっといつか伝説上の生き物になりそうな気がするから、依頼も無しに討伐なんかしたくない。
……報酬もないしな。
「グレン! 俺たちが途中で消えてもその島から出るな! 後で迎えに来る」
「ワカッタ!」
俺はティナの手を取って、怪鳥の強襲に備えた。




