表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/572

第44話「勇者サキさん」

 今日の夕飯は非常食のチーズとリンゴとハムくらいしかなかった。


 当初の予定ではマラデクの町まで猛進して一泊、ワイバーンと戦ったあとにマラデクの町でもう一泊、翌日にもう一泊して遊ぶか、一気に王都まで帰る予定であった。


 まあ要するに予定が狂いに狂って今の状況になっている。


「すみません……」

「誰も食材について確認しなかったんだからエミリアのせいではないな。そこまで気が回らなかった俺の責任だ」


 今からイゴン村まで引き返すと夜中になってしまう。非常食は最低四人分あるので大丈夫だろう。少々食えなくても明日には王都に帰れそうだし。

 ティナとユナは非常食を細かく切って、全て燻製にしているようだ。さすがに調理するのは諦めたらしい。



「うまいじゃん……」


 燻製は美味かった。一時はどうなることかと思ったが、これだけ美味ければ不満が出ない。良いつまみになっているのか、サキさんはエミリアと自前の酒を飲んでいる。


「風呂はどうするかな?」

「たらいはあるけど今からお湯を沸かすと夜中になりそうね」

「今日はもう疲れすぎたので明日にしませんか?」


 俺とティナとユナは、顔を洗って歯磨きをしたあと下着だけ着替えて、サキさんとエミリアを置いて先に寝た。後のことは二人が何とかするだろう。

 テントの一つは俺たちが使っているが、空きのテントがもう一つあるし、あとは勝手にやってほしい。






 翌朝日の出と同時に目が覚めた俺たちは、朝の準備を済ませてテントを片付けていた。


「サキさんもエミリアも早く起きろ。もう出るぞ」


 この二人は昨晩遅くまで飲んでいたのか、なかなか起きない。見張りも立てずにテントに引き籠って寝ていたようだ。

 そして今初めて知ったが、エミリアは絶望的に寝相が悪かった。


「ティナ、ユナ、これ見ろよ。貴族のお嬢様の美しい寝姿は一見の価値があるぞ」


『わあ……』


 エミリアの長いローブはへその上までめくれ上がり、パンツ丸出しで大股をはじけ、何をどうやったのかわからないが、両足がサキさんの胸と腹に乗っている。


 絶対に一緒に寝たくないタイプの女だった。


「私、ネグリジェのときは寝てる最中でもはだけないように裾下してるんですけど……」

「見て。面倒臭がってブラのホックだけ外してるみたいよ」

「女の子同士なら仕方ないですけど、この状況ではみっともないですね」

「エミリアどんて感じね」

「エミリアどんですね」


 ボロカスに言われているエミリアどんがかわいそうになってきた。手元にカメラがないのが非常に残念だ。

 こうして眺めていても時間の無駄なので、俺はサキさんを蹴り起こしてエミリアどんを荷馬車に積み込み、テントを片付けて出発した。


 今日はワイバーンの荷馬車にティナとユナ、エミリアどんの荷馬車に俺とサキさん、後ろの方に半裸のエミリアどんという構成で走っている。燻製は昨日のうちに全部食べてしまったので、今日の朝食は何もない状態だ。


 エミリアどんは確か、ティナの料理が食いたくて一緒に付いてきたはずなんだが、昨日の昼に弁当を食っただけで、今日の夜に帰宅するまで料理はお預けである。






「おはようございます……」


 俺たちが馬を走らせて何時間か経った頃、ようやく後ろでゴソゴソと起きてきたエミリアどんが荷台から這い出してきた。


「随分遅かったようだな?」

「はい。サキさんと好みの殿方について盛り上がってしまって……」


 サキさんとエミリアどんは気が合うのかな?

 ちょうどシモネタ三兄弟の面子が並んでいるので、俺は以前から聞きたかったことをエミリアどんに質問してみた。


「エミリアどんに質問なんだが、女の子がムラムラしたときはどうやって発散したらいいのか教えてくれんか? エロいこと考えて悶々としたときに困ってるんだ」

「それはその……こ、このへんを触ったり擦ったり摘まんだりするといいのでは……」


 エミリアどんは困った顔をしながら胸の辺りで人差し指を下に向けて言った。


「具体的にどこを触ったり擦ったり摘まんだりするんだよ? サキさんみたいにわかりやすい構造じゃないんだよこっちは。エミリアどんが実際にやって見せてくれ」

「本気ですか? 嫌ですよ。そういう講義はやってません!」

「じゃあ俺の触っていいから教えてくれよ!」

「うーん……じゃあ、この辺からこんな感じで……やっぱり無理です!」

「途中まで触っててそれはないだろう。知ってるんなら教えてくれてもいいじゃないか」


 導師のくせに逃げやがった。仕方ない。そのうちティナに聞いてみるか。



 俺があきらめて回りの風景を眺めていると、目の前に大きな橋が見えた。川自体はそれほどでもないが、石造りの立派な橋だ。


「この橋を渡ると王都まではもうすぐですよ」

「随分立派な橋だな。これなら大きな荷馬車でも余裕で渡れそうだ」

「ここは濁流になることが多いので頑丈に作ってあるんです。木製だった頃は毎年流されていたんですよ」

「へえ……」


 橋を渡るときに俺は川の底を眺めていたが、この川にも魚らしい姿は見えない。


「オルステインの川には魚がいないな」

「いるにはいるのですが、大トカゲが食い荒らしたりするのであまり獲れませんね。一部の村くらいでしか食べる習慣もないですし」

「コイス村の方にもいなかったんだよな。途中でくそデカい魚は見たけど」

「それは運がいいですね。きっとヌシですよ。昔のコイス村は漁も盛んでしたが、ヌシが現れてから殆ど魚が獲れなくなったそうです」


 あの気持ち悪い巨大魚がヌシかもしれないのか。サキさんにロープを付けて飛び込ませたら一撃で倒せそうな気もするけどな。


「わしをなんだと思うとるのだ?」






 昼を回って暫く経った頃だろうか、ようやく王城の影が見え始めた。

 回りの風景も王都周辺らしくなり、いよいよ帰ってきた実感が沸いてくる。少し急いだので夕方になる前には街へ入れそうだ。


 しかしこの移動に掛かる時間は本当に何とかならんものだろうか?

 何てことはない話をダラダラとするのも楽しいが、ちょっと気になる場所でくつろいだりしようものなら目的地に到着できなくなるし、もう少し速度の出る移動手段が欲しいところだ。



「ミナト、わしはワイバーンの上でドヤ顔をして王都を横断したい」

「目立つからやめろ」

「頼む。男の花道を作ってくれえ!」


 ううむ。俺は悩んだが、あの死闘を見てしまったら花道くらいは用意してやっても良いのではないかと思ってしまった。

 一応、オルステイン王国の銅不足を解決した英雄だからなあ……。

 俺は街の門の手前辺りで荷馬車を停めて、全員に説明した。



「出来ればサキさん一人で倒したみたいにして欲しいわ」

「なんでサキさん一人の手柄にするんだ?」

「竜殺しの女とか噂されたら、将来お嫁に行けなくなるわ」

「私も辞退します。噂に尾ひれが付いてゴリラ女とか言われたら困りますし」


 ううむ。こっちはこっちで……嫁に行けないゴリラ女とか言われるのは俺でも嫌だ。



「ティナとユナはハヤウマテイオウで夕食の食材を買って来てくれ。馬はエミリアの四頭引きから一頭貸してもらう。サキさんは完全武装でワイバーンの上に立ってろ。ワイバーンの頭が目立つように上手く配置しろよ。荷馬車は俺が動かしてやる」

「かたじけない」

「エミリアは街の外を南回りに移動して、このまま魔術学院に戻ってくれ」

「そうします」






 かくして俺は、勇者サキさんを後ろに乗せて王都の外門へと向かった。

 サキさんの姿は、所々破れて全身が血に染まった服と、血しぶきを拭った跡が乾いた金属鎧、腰にはロングソードと大きなダガー、背中にはゴツいカスタムロングボウ、そして魔槍グレアフォルツを携えて、ワイバーンの死骸に堂々と仁王立ちしている。


 映画のワンシーンだったらカッコいい勇者の凱旋なのだが、舞台裏を知っている俺からすると完全にただの茶番なのであまり感動はない。早く家に帰りたい。


「おい止まれ!! なんだこれは!?」


 俺とサキさんが外門をくぐろうとすると、流石に兵士のおじさんに止められた。そうだよな。それで良いんだよ。


「銅の採掘場に居座った二体のワイバーンを知っておるかッ? 王都の民を苦しめる飛竜など、このわしが退治してくれたわッ!!」

「………………」


 全身血まみれの服と金属鎧を着たサキさんの口上に兵士のおじさんはポカーンとしていたが、何をどう理解したのか道をあけると直立不動で敬礼した。

 個人的には止めてもらいたかった……。



「なあサキさん、俺もう恥ずかしいんだけど……」

「胸を張っておれ。そよ風が心地よいわい」


 俺はサキさんのリクエストで、王都の西門からわざと人通りの多い大通りを突っ切る感じのコースを取っていた。道行く人たちはサキさんと二体のワイバーンのあまりの迫力に気圧されてみんな道をあけてしまう。


 街の人たちの反応は様々だ。目を背ける者もいれば、拍手喝采に沸く者もいる。指をさされて注目を浴び、荷馬車に駆け寄る子供を母親が慌てて連れ戻す。

 誰がどんな反応をしようとも、サキさんは全く動じずにキメ顔で仁王立ちをしている。


 耐えられない。こんなのエミリアに任せて、俺もティナたちに付いて行けば良かった。



 広場に出ると巡回中の兵士に囲まれたが、サキさんが口上を垂れると、皆一列に並んでわざわざ広場を出るまで一緒に行進してくれるというサービスが付いた。


「すみません、なんで兵士の人は飛竜くらいでこの反応なんですか?」


 俺は若い兵士に堪らず訪ねてみた。


「そりゃあ男なら一人で竜に立ち向かった勇者の伝説に一度は憧れるものさ。俺たちは討伐任務もあるから、そんな勇者が現れたら敬意を表するね。ま、女じゃわかんないか」


 ……わからん。すんません。


 結局サキさんの一人凱旋パレードは王都の東門まで続き、俺たちはそこからわざわざ南下して魔術学院まで移動することになった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ