第23話「魔槍グレアフォルツ」
そろそろ飯を食いに行くかと話していると、部屋のドアをノックする音がした。
「はいはい」
「カルカス・ペペルモンド様から依頼された使いの者です。ニートブレイカーズのミナト様にお届け物があります」
俺が部屋のドアを開けると、執事のような紳士服を着た男がでかい木箱を担いで部屋の前に立っていた。
「俺がニートブレイカーズのミナトですが……」
「カルカス様からこれを。約束の槍との伝言でございます。この書類に受け取りのサインをお願いいたします」
コイス村でカルカスと約束した槍を届けてくれたらしい。やたら長い木箱に入っているので、このままでは部屋に入りそうもない。
俺は木箱を床に置くようにお願いすると、書類にサインをした。
「ニートブレイカーズ……ミナト……これでいいですか?」
「はい確かに。では私はこれで失礼いたします」
受け取りのサインを渡すとそれ以上何かを言うでもなく、執事風の男はそのまま宿の階段を下りて行った。
「サキさんの槍が届いたぞ。木箱がでかくて部屋に入らん。何とかしろ」
「ハンドアックス貸してくれえ」
サキさんはハンドアックスで木箱をこじ開けると、布に包まれた槍を取り出した。
小箱には槍と紙切れが一枚入っていて、槍の名前と説明、最後に鑑定人のサインが書かれている。槍の鑑定書だろう。
俺とサキさんは空の木箱を廊下の端に寄せて、一度部屋に戻った。
「大変な物が届いたな。鑑定書には魔槍グレアフォルツと書いてある」
「なんだか凄そうですね」
サキさんが槍に巻き付けてある布を取り除くと、大理石のように黒く輝くロングスピアが姿を表す。
柄の部分も全て金属のようだ。刃の部分はぬめりのある光沢をしている。
「もう名前が付いておるのか……」
「冗談で済む槍じゃないぞ。魔槍と言うから魔法の槍だろう」
「いいじゃない。どんな効果があるの?」
鑑定書の説明を読むと、古代遺跡で発見された槍とある。刃の部分に魔法が掛かっていて、槍を引き抜くときに力がいらないらしい。
「威力が上がったりはしないの?」
「そういうのは書いてないな」
「尻から抜きやすくなる槍であるか」
コイス村では槍が抜けなくなって手放したんだったな。この男が持つに相応しい槍を選んでくれたわけだ……。
魔道具と言えば俺がはめている偽りの指輪もあるが、本格的な魔法の武器を手にするのは初めてだったので、暫くの間は四人であれこれ観察している状態だ。
「これだけ重いと物干し竿には使えないわね」
「そうですね。私たちじゃ持てませんよ」
「わしの槍は物干し竿ではない……」
珍しくサキさんが突っ込んでいる。魔槍グレアフォルツにはカバーが付いていなかったので、明日は革製のカバーを買いに行く必要があるな。
俺とサキさんは部屋の前に放置した木箱を解体して、宿の裏手に廃棄した。こうしておけば薪として燃やしてくれるそうだ。
俺たちが一階の酒場に下りた頃には、客もまばらになる時間帯になっていた。
すっかり暇になった強面親父に夕食を頼んで適当なテーブルに着く三人を尻目に、俺は暇を持て余している親父といろんな世間話をした。
食事が出来上がると俺は話を切り上げて三人が待つテーブルに戻る。今日の夕食は相変わらずのパンと、肉と野菜の盛り付けにコーンスープが付いてきた。
「やっぱり家が欲しいよな……」
食事のあとは歯磨きと日課の下着洗いを済ませて、寝る準備を万端にしてから宿の部屋で明日の予定を話し合っているところだ。
「わしは明日、武器屋へ行きグレアフォルツの安全カバーを作って貰う」
「そうだな。金渡すからサキさん一人で行ってこいよ」
「うむ」
サキさんは武器屋の用が終わると戦闘訓練でもして、銭湯に直行する気だろう。俺は金貨5枚ほどを渡しておいた。
「私は川の近くまで行ってお茶を調合してみたいです」
「私もユナに同行するわ。帰りはナカミチの工房に寄って帰るわね」
明日はティナとユナも別行動になるみたいだ。まあ二人いるなら大丈夫だろう。
「俺はやっぱり家が欲しいので、この世界の住宅事情を調べてみたい」
「そんなに家が欲しいか?」
「飯の前に親父と話をして、やはり家の確保は必要だと改めて思うようになった」
俺は夕食前に強面親父から聞いた話を三人に聞かせた。
冬になると遺跡組と呼ばれる冒険者たちの殆どが王都へ戻ってくる。特に真冬は冒険者以外も長期間王都に滞在する者が増えて、宿が足りなくなるそうだ。
それこそ馬小屋ですら空きがないという状態になってしまう。
成功した冒険者の中には家を持っているパーティーもいるようだが、普通は冬の間だけ空き家を借りるとか、宿の部屋を借りっ放しにするとかで凌ぐらしい。
問題なのは蓄えのない駆け出し冒険者や、報酬の当てが外れた冒険者だ。運良く住み込みの仕事でもあれば良いが、それすらも無ければ……。
「話を聞いていると不安になってきます……」
「今いくらあるのだ?」
「金か? 銀貨2万1837枚だが、相場がわからんから何とも言えんな」
「調べておくだけでも意味があるわ。明日はお願いね」
今日はこれ以上の話はできないな。俺たちは明日に備えて寝ることにした。
翌朝、日課と朝食を済ませた俺たちは、各自別行動を取った。
サキさんは白髪天狗に乗って武器屋まで。槍のカバーを作ったら街を出て軽く戦闘訓練をしたあと、夜まで銭湯を楽しむと言って出発した。
ユナは水の綺麗な小川で焚き木をしながらお茶の調合をするようだ。街の外に出るので、同行するティナは武装してハヤウマテイオウを駆り出す。
帰りはナカミチの所へ寄るらしい。そういえば以前、手鏡を作ってくれるとか言っていたので様子を見に行くのだろう。
さて、一人になった俺は街の奉行所へと足を運んだ。街の人の話では、空き家は大家と直接交渉するのが一般的なため、物件の目星が付いていないときは奉行所で教えて貰うのがてっとり早いそうだ。
一体どういう管理体制になっているのだろう?
王都の奉行所は全部で七カ所あり、俺たち庶民が暮らす外周二区なら東西南北に四カ所、富裕層が住む外周一区は南北に二カ所、王族や貴族が住む内周区は一カ所、そして王都の中央にあるのが王城、つまり本丸という感じだ。
俺たちは王都の外周二区、冒険者の宿が西寄りの南西に位置しているので、一番近いのは西の奉行所である。
正確には奉行所という呼び方ではないのだが、お奉行様にあたる貴族の役人以下、その殆どが王都の兵士なので個人的にしっくりくるイメージは奉行所だ。
ちなみに武器屋の兄ちゃんが務める自警団は、町内会の青年団みたいなものらしい。
「お嬢ちゃん、何か用かね?」
「空き家を探しているのですが、ここで教えて貰うのが早いと聞いて……」
対応してくれた兵士の顔が、あからさまに訳アリを見る表情になってしまった。これはいかんな。こういう話はサキさんに任せた方が良かったかな?
「今すぐにと言う話ではないので、一般的に借りる時の手続きとか、買う時の相場みたいなものを教えて頂けませんか? 他所の国から来たのでいまいちわからないんです」
「ふむ……説明だけならお安い御用だとも」
兵士の話を要約すると、王都で家を建てるなら銀貨10万枚から20万枚、中古の家なら交渉次第で銀貨5万枚からあるそうだ。ちなみに税金は毎年取られる。
借りる場合も交渉次第だが、部屋なら月に銀貨300枚、家なら銀貨600枚から借りられる。大体この辺りが相場のようだ。
ちなみに王都の壁の外なら家に税金は掛からないらしい。外敵からの保護を受けられないからだ。
壁の外は貧困層の掘っ建て小屋から貴族の別荘まで点在しているのだが、奉行所では実態を把握できないと言っていた。
部屋を一室借りても今より酷くなるだろうから、借りるなら四人で住める家だな。それとも冬までに稼いで、一番安い中古の家を買ってしまう方が良いのだろうか?
奉行所の兵士は説明に慣れているのか話がわかりやすくて助かる。一通りのことがわかったので、俺は兵士にお礼を言って奉行所を後にした。
情報としては過不足ない成果を収めたので、俺は宿の部屋に戻ってきた。しかし部屋には誰もいない。まだ時間もあるし、俺はエミリアを訪ねることにする。
今回の用件は偽りの指輪で扱える精霊力の種類をはっきりさせることだ。
俺が試した限り、偽りの指輪では火水土風と光と闇の六種類しか感じ取れないと思っていたのだが、ミノタウロス戦で生命力の感覚を認識してから新たに生命の力を感じ取れるようになっていた。
一度エミリアに説明して貰いたいと考えていたので丁度良い機会だ。
ほかにもティナだけが指輪の効果を受けられないのも気になっていたし、魔槍グレアフォルツの価値がどのくらいあるのかも気になる。
俺は魔術学院の正門に立っているいつもの門番に挨拶をすると、エミリアの元へ案内してもらった。
「こんにちは。今日はミナトさんお一人ですか?」
「全員別行動でな。今日は魔道具について不明な点があるので話を聞きに来たんだ」
「あら、そうでしたの」
俺はエミリアに感知できる精霊力の種類と、指輪が使えないティナのこと、ついでにグレアフォルツの価値を尋ねてみた。




