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第193話「ティナ式防衛術」

 俺の回復魔法で尻を治したサキさんは、早速家の前で白髪天狗に跨り、木槍もくやりを振り回して遊んでいる。


「騎馬試合って言うくらいだから、やっぱり馬に乗って戦うのか?」

「うむ。最終日には全員が馬に乗って、二軍に分かれて競うらしいわい」


 サキさんの説明によると、最初の二日間は一対一のトーナメント方式で試合が行われるのだが、最終日は祭りの最後を飾るように、二軍に分かれての大騎馬戦をやるらしい。



 ちなみに、騎士や貴族で競う騎馬試合と、誰でも参加できる剣技大会の二つが見事にブッキングしているが、騎馬試合の方が歴史は古いそうだ。

 騎馬試合が収穫祭の一大イベントとして確立した後年こうねん、腕に覚えのあるつわもの達が集まって開かれたのが、剣技大会の始まりらしい。


「誰でも参加できるだけあって、剣技大会の方が年々大きくなってしまったんだな」

「騎士や貴族の数は、そうそう増えんからの。中には正体を隠して、剣技大会の方に参加する騎士もおるらしいわい」

「仮面の騎士でもやるのかな? 剣技大会の方は、イロモノ選手が多そうなイメージだ」

「まあ……多かろうの」






 サキさんはもう大丈夫みたいなので、引き続き俺は、精霊石のストックを増やす作業をしたあと、エミリアが置いていった木箱の中身を計算することにした。


 木箱の中身は全て金貨だが、全部で1080枚入っている。銀貨にすると5万4000枚分だ。

 現地で渡された報酬の金貨360枚と合わせると、最終的には銀貨7万2000枚になった。


 内訳うちわけが不明なので推測するのは難しいが、冒険者の宿を通している依頼だから、これが適正な報酬なのだろう。


 サキさんはまだ木槍もくやりを振り回しているようなので、俺は調理場へと足を運んだ。






 ティナのことだから、調理場で何かを仕込んでいるのだと思っていたが、調理場を覗いてもティナの姿は見当たらない。

 調理場の入り口には、水場で使うサンダルが四足揃ったままだ。


 俺は不思議に思って二階を確認した後、ふと玄関に目をやると、玄関には俺の靴しか置かれてなかった。当然、そこには三人分のスリッパがある。

 うむむ? ティナも外にいるのか? 玄関を通った気配はなかったんだけどな……。



 俺が玄関を出て、その足で家の裏側まで行くと、レイピアで巻き藁を突いているティナを発見した。


 ──レイピアを振っているティナを見るのは、アサ村のゴブリン退治以来だと思う。



 水を差しては悪いと思った俺は、遠巻きにティナの微笑ましい練習風景を見ていたのだが、えいえいと可愛らしく突いているのかと思いきや、もの凄い光景を見ることになった。


 巻き藁に突き刺さったままのレイピアを手放したティナは、ただの一跳びで3メートル以上も飛び退き、着地すると同時にレイピアを自分の手元に呼び寄せた。


 ……これは浮遊の魔法で飛び退いてから、手放したレイピアを召喚したんだろう。


 手元にレイピアが戻ると、ティナは素早く武器強化の魔法でレーザーレイピアを作り、フッとその場から消え──いや、今度は巻き藁の真後ろに現れて、藁の部分を両断すると、衝撃の魔法で巻き藁を吹き飛ばしたと同時に、炎の魔法を併用してそれを焼き払った。


 …………なんだこれは?






 俺は忍び足のまま二歩三歩と後ろに下がって、何となく玄関口まで引き返してしまった。


 接近戦に魔法を組み込むと、あんな芸当ができるのか……。

 途中でティナが瞬間移動したように見えたあれは、テレポートの魔法なのか? びっくりして思わず逃げてしまったが、普通に声を掛けておけばよかったな。


 そういえば、最初の頃は派手なエフェクトを付けて遊んでいたティナの魔法も、今ではすっかり、何の飾り気もない実用的な魔法になっていると気付いた。

 やはり、命の駆け引きになる戦闘を想定するときは、遊び心なんて入れられないのか。


 いや、斬った斬られたの訓練で遊ぶ方がどうかしているな……。


 俺は気を取り直して、もう一度河原の方へ向かった。






 河原のティナは、骨組みだけになった巻き藁の台座を片付けている最中だ。


「俺も手伝おう。しかし派手に吹き飛ばしたな」

「ミナト? やだ、見てたの?」

「巻き藁の後ろに瞬間移動したのはテレポートか?」


 俺は台座の反対側を持ちながら、あたかもずっと見ていたかのように聞いた。


「テレポートと同じ原理なんだろうけど、目に見える場所に瞬間移動しているだけだから、どちらかと言えば武術的なイメージが強いかもね」

「それなら気持ち次第で、普通のテレポートも使えるんじゃないかな?」


 精霊力を使う魔法なら俺でも理解できるんだが、テレポートのように純粋な魔力だけで使うような魔法はよくわからないな。



 それにしても、何でまた急に本格的な戦闘訓練なんかしていたんだろうか……。


「オオタウナギと戦った時に、このままだといけないと思ったからよ」


 俺は巻き藁の台座を家の壁に立て掛けながら、その時のことを思い返した。



「上から見ていた私が魔法で攻撃することもできたけど、勝手に倒したらサキさんが面白く思わないような気がして、仕方なく眺めていたら、あんなことになったじゃない」

「…………」


 確かにあのときのティナは、上空からオオタウナギの状況を報告するだけで、自ら攻撃を加えることはなかった。

 けど、それはティナのせいではないと思う。上空からサキさんを誘導するように指示したのは俺だ。


 なぜそうなったのかと言えば、サキさんが勝手に走り出してしまったので、それに合わせて……というか、俺もティナと同じ理由でサキさんに戦闘の機会を与えようとした節がある。


 これは良くない傾向だ──。



「オオタウナギがサキさんに襲い掛かったとき、強化しておいた鎧の部分で防いだから気絶くらいで済んだけど、本当なら鎧ごと体が陥没して死んでいたわよ」

「あの時は笑いごとで済ませたけど、改めて考えると笑えないな……」


 やはり俺たちの基本戦術は、弓や魔法による攻撃が主体の戦い方だろう。サキさんの直接攻撃に関しては、接敵されたときの最終防衛手段にするのが得策だ。


 一人しかいない前衛役が勝手に突っ込んで行くようだと、いつか死人が出るぞ。

 最近は俺も気が緩んでいたかもしれんから、ここらで少し気を引き締めよう……。






 俺とティナの二人で、魔法を取り入れた攻撃と防御の連携方法を話し合っていると、ユナが街から帰ってきた。

 もうそんなに時間が経ったのかと思いながら、俺はガレージに荷馬車を収めるのを手伝う。ちなみにティナは、慌てて調理場に向かっていった。


 ハヤウマテイオウを馬小屋に戻したときに気付いたが、サキさんと白髪天狗の姿が見えない。まあ、銭湯にでも行ったのだろう。



「リピーターボウの矢はどんな感じなんだ?」

「……こんな感じです。先っぽの水晶の大きさは、魔法の矢の六分の一前後ですけど」


 ユナが木箱から取り出したリピーターボウの矢は、先端に小さな水晶がはまっている。


「随分小さいな。これでどのくらいの威力になるんだろう?」

「これからテストして確かめるしかないですね」



 矢を収めた長方形の木箱から、俺は適当に数本取り出してみたが、弓用の魔法の矢と比べると、肝心の水晶の大きさがまばらで、あまり品質が良くないと感じた。


「あ、大丈夫ですよ。魔法の矢を作るときに出た水晶の欠片を再利用しているので、多少先端の大きさが違うのは仕方がないんです」


 なるほど。魔法の矢に比べてリピーターボウの矢の比率がやたら多いと感じたが、そういうことか。

 破棄するしかないような欠片で作れるなら、単価も安く済みそうだな。



「それから、今回はこういう物を試作してきました」

「なんだこれは?」


 俺はユナから、おでんの串のような棒状の水晶を手渡された。

 水晶自体は頑丈な部類の石だが、さすがにこの細さでは、指に力を込めただけでもヘシ折れてしまいそうだ。


「例えばこれを、足元の高さに張った糸に結んでおいたり、ドアの隙間に挟んでおいたらどうなるでしょうか?」

「……魔法のトラップにするのか」


 相変わらずユナの考える武器はえげつないな。



「水晶の大きさはリピーターボウの矢の倍はありますよ。罠なら何本でも好きなだけセットできますから、炎と風を同時に発動させることも簡単にできます」

「巨大ミミズを焼き尽くしたあれだな……できればもう二度と使いたくないが」

「使わないなら使わないでもいいんです。色んな手段を持っていると、冒険以外でも役に立つ場面があるかもしれませんし」


 それもそうか。


 俺とユナの二人は、ランプとリピーターボウを持って河原へ向かった。もちろん、おでんの串みたいな水晶の棒も持って行く。






 俺にとっては本日二度目の河原であるが、ここでユナと検証するのは久しぶりだな。


「巻き藁の本体はないんですか?」

「そういえばティナが消し炭にしていたな。別のを持ってくるか……」


 俺は馬小屋の裏に束ねてある、藁とか草の束を一つ持って行くことにした。

 この藁は馬小屋で汚れた物だが、肥料に使えると言ってサキさんが適当に束ねてあるものだ。


 本来ならトイレの汲み取りをしてもらうついでに、マウロのおじさんが持って帰ってくれる物だが、どうせ焼き払うのが前提だから少々汚くても巻き藁として使えるだろう。


 なにせ本来の巻き藁は、数時間も前に、燃えて灰になってしまったのだからな。


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