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第167話「魔法のランタン」

 せっかくリピーターボウの試射ができる状態なので、物は試しで一発撃ってみる事になった。そろそろエミリアが現れる時間だが、俺は馬の世話から戻ってきたサキさんも誘って、三人で河原に移動した。


「何か的にできる物があった方がいいだろうな」


 俺とサキさんは、いつも弓の練習で使っている木の的を移動させてから、的の手前に魔法のランタンを置いた。もう日が落ちているので、明かりが無いと見えない状態だ。



「じゃあ撃ってみますね」


 10メートルほど離れた場所からユナが撃つと、リピーターボウの矢は軽快な音を立てて木の的に突き刺さった。

 鉛筆よりも細い矢は、先の部分こそ尖った鉄だが矢尻も返しも付いていない。一体どのくらいの威力なのか? 木の的に突き刺さった矢を引き抜いてみると、先っぽの部分だけが刺さっている状態だった。


「うーん……」

「これでは武器として使えんの。10メートルでこの程度では、1メートルから当てても致命傷にならんわい」

「でも威力が無いわりには思ったよりも真っ直ぐ飛びますし、十分使えそうですよ」



 俺とサキさんが木の的から離れると、ユナは連続してリピーターボウを撃つ。これがもっと大型で威力のある物なら実用的かもしれないが、ユナが撃っているリピーターボウの威力では、モンスターはおろか小動物すら仕留められないだろうな。


「このままの状態なら使い物にならないですけど、もしもこのリピーターボウで、威力が小さくても魔法の矢を連射できたとしたらどうします?」

「……それなら強いかもしれない」


 なるほど、そういうことか。今朝、ユナは魔法の矢を作ってくると言っていたが、リピーターボウで使える魔法の矢を試作するのが本命だったのだな。


「とりあえず今日は切り上げよう。そろそろ飯ができてる頃合いだ」






 俺とユナとサキさんが家の中に戻ると、ティナが一人で夕食を運んでいるところだったので、俺とユナもそれを手伝った。

 わりとどうでもいい事だが、テーブルにはいつもと変わらぬエミリアの姿がある。


 今日の夕食は鶏の唐揚げと、山菜のベーコン巻きだ。

 相変わらずサキさんとエミリアは二倍の量を食っているのだが、そろそろエミリアはお肉の付きがヤバいんじゃないかなあと心配になってくる。



「さて、わしの酒はどこに行ったかの?」

「二階の大広間に置いてある。暫くあそこに置いておくしかないわな」


 今日は珍しくおかずを残していたと思ったら、酒のつまみに取っておいたのか。サキさんは二階の大部屋から酒を持って来て、エミリアと飲み始めた。


「じゃあ、私たちはお風呂に行くわね」

「ん。俺は適当に片付けてから入るかな……」



 ティナとユナが先に風呂に入ったので、俺はサキさんとエミリアの皿を除いて片付けを済ませたあと、外の焼却炉でゴミを燃やして広間に戻った。


「ミナトさん、食事の前に渡せなかったのですが、鋼のゴーレム討伐の報酬です」

「ありがとう。借りた魔剣の経費があれば差し引いておいてくれ」

「経費は掛かっていないので安心してください。また何か依頼を持ってくることもあるでしょうし……」


 エミリアが持ってきたミスリル銀の魔剣は大層立派だったが、あのクラスの魔剣を所持できるような金持ちになると、いちいちレンタル料などは取らないのだろうか?

 何にせよ有り難いことだな。



 俺はエミリアから受け取った報酬の金貨600枚を自分の部屋に持ち帰ったあと、衣装ケースから替えの下着を取り出す前に自分の股を確認した。


「…………」


 そろそろ終わったかな? いや、まだ油断しない方がいいぞ。もう一日普通の店で買った地味なパンツで我慢するか……。






 今日はようやくティナとユナの三人で風呂に入れる。普段よりも風呂場に行くのが遅くなった俺だが、結局最後はティナと同時に湯船に浸かるという具合になった。


「あれ? ティナさんもコロコロして貰ったんですか?」

「そうよ。一時はどうなる事かと思ったけど、もの凄く肌の調子がいいのよ」


 風呂から上がって体を拭いている時も、ユナはティナにべったりと引っ付いてお互いの感触を確かめている。

 天然なのか趣味なのか、ユナの容赦ないスキンシップは相変わらずだ。


「ミナトさんも来てください。やっぱりお風呂上がりが一番気持ちいいですよ」

「仕方ないなあ……」



 俺はティナとユナの真ん中に割り込んだが、なぜか二人からサンドイッチにされた。


「どうですかミナトさん」

「うん、これは……確かに、気持ちいいかも……」


 ユナの言う通り、風呂上がりで火照った体と乾ききっていない肌の水っぽさが、何とも言えない気持ちよさと心地よさを演出している。

 吸い付くようなモチモチの感触なのに、まるでローションでも塗っているかのようなツルツルの滑り具合だ……。


「なんだろこれ? 気持ちいいし癒されるし、もう癖になりそう」

「そろそろ服を着ましょう。だんだん冷たくなってきてるわ」

「……そうですね」


 ちなみに俺たちが二階へ上がる時も、サキさんとエミリアはまだ酒を飲んでいた。すれ違いざまに聞こえた内容では、騎馬試合の歴史について話をしているようだった。






 部屋でパジャマに着替えた俺たち三人は、早めに髪を乾かしに下りてから、ついでに歯磨きも済ませる。


「わしも歯磨きするわい」

「エミリアは帰ったのか?」

「うむ」


 髪が早く乾く順番でドライヤーを使うと、歯磨きが終わるのも俺が一番乗りだ。

 このまま脱衣所に居ても仕方がないので俺は一度広間に戻ったが、テーブルにはサキさんとエミリアが食い散らかした皿がいくつも残っている状態だった。

 あとでサキさんが片付けるのかも知れないが、どうにもこのまま放置されそうな予感がしたので、仕方なく俺が片付けることにした。






「今日は魔法のランタンに使えそうな物を作ってきたので、ちょっと見て貰えませんか?」


 俺が皿を片付けて広間に戻ると、テーブルに置いた麻袋から何かを取り出しているユナが、魔法のランタンを片手に説明を始めるところだった。


「昼間の麻袋か。なんか色々あるな……」

「照明器具にするための道具かしら?」

「そうです。魔法のランタンだけでも使い物になるんですけど、場所によっては使いづらい事もあるので、こういう物を用意してみました」



 ユナは小道具の中から、まずは扇状に切り取られた革のシートを手にする。ちょうど一万円札を扇状に変形させたような形のシートだ。サイズは一万円札よりも五割増しで大きいのだが。


「魔法のランタンの光る球体部分を、この革のシートで巻くんです。ちょうど手巻き寿司みたいにすると……」

「ほう、懐中電灯になったわい」

「今は放射線状に光が広がっていますけど、巻き付けたフードの先側を細めていけば……だんだん光の範囲を狭く調整できます」

「光が指向性になるんだな。問答無用で明るくなったら困る場面もあるだろうから、これはアリだと思う」

「革のシートは二枚作ってあります。普段は使わないでしょうから、今のところは冒険用の小道具ですね」



 続いてユナは、四角い形のランプを手に取った。これは全方位を照らす丸い形のランプではなく、四方のうち左右と後の三面が塞がれていて、前方の一面だけが闇を照らすランプだ。御者席の前方に付けている荷馬車をたまに見かける。


「これは前方の部分にスライド式のシャッターが付いていて、外に光が漏れないようにする事もできるんです」

「変わったランプね」

「このランプは芯や油を入れる部分をり抜いてもらって、代わりに魔法のランタンが収まるように直して貰いました」

「わざわざこの中に入れて使うのか?」

「街中で使う時、周りから変な目で見られないようにするためです。シャッターの位置で光量を調整できますし、完全にじれば魔法のランタンを灯したままでも光を遮断できます」

「なるほど。サキさんが毎晩持ち歩いている普通のランプよりも便利そうだ……」



 面白そうなので、俺はランプの中に魔法のランタンを入れて動作テストをしてみた。シャッターを完全に閉じてもわずかな隙間から微妙に光が漏れているのだが、おおむね期待通りになってくれる。


「離れの馬小屋に掛けておくのが良さそうね」

「そうだな。基本的にサキさんしか使わんだろうから、これはサキさんに任せる」

「そうするわい」


 サキさんがランプを使っている事をすっかり忘れていた俺とティナは、昼間家中のランプを回収してガレージの棚に収めてしまったので、これはナイスなタイミングだった。






「最後に残った半円筒形の鉄板は何に使うんだ?」

「これは家の壁や柱に取り付けてある蝋燭ろうそく台に立てて使うんです。明かりの後ろに置けば反射板になりますし、明かりを遮るように置くと間接照明になりますよ」


 半円筒形の鉄板は、蝋燭台のふちに置くだけなので簡単に設置できる作りだ。しかし厚みが無くてペラペラなので、雑に扱うとすぐに変形してしまいそうだが。


 物は試し、俺は広間の壁に取り付けられた蝋燭台に魔法のランタンを置いて、そこにペラペラの鉄板を立ててみた。



「……どうだ?」

「何もないより明るい気がするわい」

「じゃあ次は光を遮ってみるか」


 俺が鉄板の位置を変えて間接照明にすると、一度壁に反射した光が辺りを淡く照らし始める。随分薄暗い感じになるが、常時点灯させておくには良さそうだな。


「間接照明は階段を照らしておくと良さそうね。これがあれば夜中でも明かりを持たずにトイレまで行けそうよ」

「それは有り難いの」



 アサ村の古代遺跡で手に入れた魔法のランタンは合計で13個ある。魔法が使えないユナとサキさんが個人的に1個ずつ持っているので、残りは11個だ。

 しかし魔法のランタンを家中に設置する場合は、開放の駒の明かりと併用へいようして考えた方がいいだろう。


 ……開放の駒は光の精霊石を乗せるだけでいいから、明かりのオンオフが楽だ。強駒つよごま弱駒よわごまを使い分ければ明るさの調整もできる。

 普段は弱駒の明かりだけでも十分明るい。強駒だと眩しくて室内使用には向かない感じだ。ちなみに弱駒の明かりは約六時間持続する。


 対して魔法のランタンは若干オンオフが面倒くさい代わりに、魔力切れを起こさないのが特徴だ。改めて比べると、明るさは弱駒の半分程度だと思う。

 魔法のランタンは、明かりを灯すときに使用者が思い描いた「色」の光になるのが面白い。間接照明に使うなら馴染みのある電球色にしたいところだ。



「今思い付く感じだと、風呂場の脱衣所やトイレみたいに、途中で消えたら困るような場所は魔法のランタンに置き換えるべきだな」

「勝手口の戸やガレージには開放の駒が良い。薄暗いと困るわい」

「魔法のランタンを間接照明で使うなら、ずっと灯したままでも良さそうね」

「鉄のフードは予備もあるので、どんどん使って大丈夫ですよ」


 結局、魔法のランタンは脱衣所に1個、調理場に1個、トイレに1個設置した。

 間接照明は二階の廊下と階段に1個ずつと、オシャレ目的で暖炉の左右に1個ずつ設置する。

 ユナが買ってきたシャッター付きのランタンにも1個使った。これは普段サキさんが使うだろうから、馬小屋の横に吊り下げておく感じだ。


 余った3個のうち、1個は予備として下駄箱の上に置く。残りの2個はガレージだ。


 やはり明るさを考えると、メインの照明に関しては今まで通り、開放の駒を使う方が適していると思う。魔法のランタンは基本的に明かりを消さない方向で、いわゆる常夜灯じょうやとうとして使う方が良さそうだ。


 俺たちは魔法のランタンを適当に設置してから、今日のところは寝ることにした。


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