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第150話「オーダーメイド」

 翌朝目が覚めた俺とユナは、いつものように朝の支度をしてから洗濯物を洗っている。


「昨日の朝は無理して毎朝洗濯しなくてもいいと思ったんだが、タオルだけでも一日に十枚は使うんだよな。溜まると結構しんどいなあ」

「みんな髪が長いから、お風呂に入っただけでもタオルを二枚使いますよね……」


 俺たちが洗濯し終わる頃になってようやくサキさんが起きてきたので、俺はサキさんに脱水係を任せて広間に戻った。



 広間に戻るとエミリアが本を抱えてウロウロしている。


「何してるんだ?」

「サキさんに渡したい本があるんですけど……」

「ソファーのテーブルに置いといたら? どうせ趣味のホモ小説なんだろう?」

「まあそう言わずに、ミナトさんも読んでみてください。以前話していた近所のお姉さんから頂いた物ですが、きわどい画集もあるんですよ?」

「あー、やっぱサキさんの部屋に持って行ってくれ。ユナの教育上宜しくない」


 卑猥ひわいな画集はいかん。正直どんな物なのか、若干の怖いもの見たさはあるが……あとでサキさんにもちゃんと言っておかないと。






 エミリアが有害図書をサキさんの部屋に隠してから戻って来るタイミングで、朝食が運ばれてきた。

 今日の朝食はフレンチトーストに野菜のベーコン巻きが添えられている。トーストに染み込んだ卵の甘さとベーコンの塩加減が絶妙だ。


「そろそろ調味料を買い足さないといけないわね」

「街に出たついでに買えばいいだろうな」

「今日は朝から防具の店ですよね? そのあとはどうしますか?」

「わしも防具屋には同行するわい。用が済んだら冒険者の宿かの。特に何も無ければ、そのまま銭湯に行くわい」

「俺も強面親父の宿に行くかな。ヨシアキたちのその後も気になるし、シオンとハルにも暫く会ってない」


 防具屋に行ったあとは、俺はサキさんと一緒に行動することになりそうだ。


「私は足りない調味料を買って、ついでにタオルを買い足しに行くわね」

「タオル足りなかったっけ?」

「掃除に使って汚れが付いたタオルは、昨日サキさんに頼んで布巾ふきんや雑巾にして貰ったのよ」

「昨日のあれか。なるほど……」


「私はこの家を建てた職人さんと会って話をしてきます。手が空いてるようなら、そのまま頼んでしまっても大丈夫ですか?」

「大丈夫だ。長く使うものだから、増築した部分が不自然にならんようにして欲しい」

「わかりました」


 今日の予定が決まった俺たちは、さっそく白髪天狗とハヤウマテイオウに跨って、まずはいつもの防具屋に向かった。






 結構久しぶりだと思うが、馴染みの防具屋に着いた俺たち四人は、店の前で馬を繋いでから店内に入った。ここは武器屋と防具屋が隣同士になっている場所なので、後で時間があれば武器屋にも寄ってみたい。


「やっぱり女物の鎧は無いか。弓用の簡単な胸当てならあるんだが、腹とか腰まで守れるような本格的な鎧は売ってないな……」

籠手こてすね当てなら男女兼用なんですけどね……」


 今回初めて店の主人に聞いてみたが、本格的な鎧に関しては男性用でも平均的な体格から逸脱いつだつしたようなサイズは特注品になるそうだ。

 男物ですらこんな状況なのだから、女物など完全受注生産になるらしい。まあ、ほんの一握りしか存在しない女戦士用の鎧なんて在庫してても仕方ないのだが……。


 ちなみに店を通してのオーダーなら、前払いになるが店頭価格とあまり変わらないそうだ。職人の選り好みで断られたりすることもないらしい。



「この籠手と脛当てのセットは良さそうね。作りもいいし、何より軽いわ」

「確かに軽い。何か得体の知れん動物の革かも?」


 ティナが手にしたハードレザーの防具は、まずその軽さに驚いたが、表面処理や縁縫いも品質が高いように見える。その分値段も高いのだが──。


「俺の防具はこれにするわ。こいつを作った職人に鎧をオーダーしたいんだけど……」

「ん? 特に希望がなければ奥で採寸するだけですが、特別な指示があるならこの用紙に書いてください。あまり細かすぎるとお断りしますが……」

「正直良くわからんからプロにお任せします。出来れば脱着しやすい方がいいのと、折角だから籠手や脛当てもセットにしてお願いします」


 俺はカウンターの奥で店の主人に体の採寸をされた。籠手や脛当ても作って貰うので、腕や脚の長さや太さまで念入りに測られてしまった。サイズが合わない防具は嫌だが、これはこれで恥ずかしい気分だ。

 俺はスリーサイズまでバッチリ採寸されて、カウンターの奥から開放された。



「どうでした?」

「うん、セットで頼んだら色んなとこを測られた。これで今までみたいに紐で無理やり合わせたりしなくても良くなるのかな? ユナの方はどうなった?」

「私はこれをオーダーしようと思います」


 ユナが見せてくれたのは、うろこ状の小さな鉄板がソフトレザーのベストを覆っている防具だ。これはスケイルアーマーの一種だろうか? 鉄の鱗は正面だけなのだが、手に持つと見た目よりも重く感じた。

 鉄の鱗はバラバラと音を立てたりせず、細かい鱗が体のラインに沿ってきれいに敷き詰められている。一度でも強い攻撃を受けたら台無しになりそうだが、魔法で強化することを前提にすれば、ハードレザーの鎧よりも動きやすいかもしれない。


「錆びないように手入れするのが大変そうね」

「油を多めにひいておけば大丈夫じゃないでしょうか?」

「下地の革まで油が染みるとあまり良うない。鉄に油が馴染むまでは丁寧にやるしかないの」


 ユナが簡単な採寸を終えたあと、俺は主人に前金の銀貨2410枚を支払って店を出た。今日注文した防具は、出来上がり次第、強面親父の宿に伝えて貰うようにしている。

 ちなみに俺の防具は受け取る時に着込んでから調整して貰う必要があるので、受け取りに行くのは俺の役目になりそうだ。






「ちょっと時間が掛かってしまいましたね。私はこのままハヤウマテイオウに乗って職人さんに会ってきます」

「何処にいるのか見当は付いているのか?」

「はい。エミリアさんに調べて貰ったので間違いないと思います」


 そうだった。エミリアのおじ様が建てた家だから、本人に聞けば一発でわかるのな。


「俺とサキさんは強面親父の宿まで歩くか……」

「うむ。せっかくだから、ちょっと武器も見て行きたいわい」


 ユナはハヤウマテイオウで職人の元へ、ティナは白髪天狗で調味料と雑貨を買いに、俺はサキさんの希望で少しだけ武器を見てから、強面親父の宿に向かって歩いた。






 俺とサキさんが宿の酒場に入ると、珍しく酒場には客の姿が見えなかった。


「シオンやヨシアキはいないのかな?」

「二人組のガキなら今朝方けさがた冒険に出たぜ。クソガキの方は家を探すんだとよ」


 残念、誰もいないのか。それなら俺は家に帰るかな。


「仕方ないの。わしも一度家に戻ってから出直すわい」


 俺とサキさんはそのままの足で一度家に帰ることにした。まあ、ヨシアキの家探しに巻き込まれなくて良かったと言えば良かったのかな……。



 帰路についた俺たちが王都の外壁に差し掛かったとき、外壁の向こうから見知った一行の姿を確認した。ヨシアキとウォルツ、新メンバーのリリエッタに……なぜかエミリアの四人だ。


「ようミナト、これから引っ越しなんだけど、暇なら一緒に来ないか?」

「早いな。もう引越し先が見付かったのか?」

「上手いことツテがあったんだよ。区切りで言えば南街の西側だけど、強面親父の宿と銭湯の中間辺りになるんで悪くない場所だ」


 このままサキさんと家に帰っても暇だろうし、ちょっと覗いてみようかな? 互いに家の場所がわかっている方が良さそうな気もするし……。


「じゃあ案内してもらおうかな」






 ヨシアキのパーティーとエミリアの一行に加わった俺とサキさんは、一行のあとに付いて裏道を歩いている。恐らく最短ルートを歩いているのだと思うが、入り組んだ場所なので、馴れないうちは表通りから直通した方が良さそうに感じる。


「あの建物だ」


 ヨシアキとリリエッタの後ろを一人で歩いていたウォルツが指を差し向けたが、周りは全て建物なので、一体どの建物のことを指しているのかわからなかった。


「そこの角になっている二階建てだ。玄関の扉が大きいだろう? 昔は花屋さんだったようだ。見た目の通り、小さな店だがね……」


 再びウォルツが説明をする。場所的には通りから小道に入ってすぐの場所なので、裏道のように息が詰まる感覚はない。ここは角になっていて日当たりも良さそうだし、優良物件なんじゃないかな?



「定期的に掃除はしていたらしいけど、なにせ古い家だからな。大家が修繕しない代わりに好き勝手にいじって構わない契約だ……ウォルツ、そっちの扉を支えてくれ」

「こうか? 立て付けが悪いな……」


 ヨシアキとウォルツは、二人がかりで大きな扉を開けた。扉の下側は木が崩れていて、それが床に引っ掛かってしまうようだ。長年雨が直撃して傷んだような感じだ。


「男二人で支えないと開け閉め出来ない玄関じゃあ生活に困るだろう」

「一応、朝のうちに修理を呼んでるんだけどな。昼過ぎには来るらしいから、開けっ放しにしておこう」


 俺たちは家中の木窓を全開にして、エミリアの魔法で家の中を照らしてみた。木や石の傷んだ部分はあるにせよ、定期的に掃除をしていたと言うだけあって、砂埃を掃いて少し拭いてやれば良さそうな感じではある。



 この家の間取りは、玄関にあたる大きな扉を抜けると四畳半ほどの部屋がある。元々が店だったというだけあって、備え付けのカウンターや棚が置かれたままの状態だ。

 店舗の部屋の仕切りを抜けると、奥には小さなかまどや井戸を備えた流し台があり、三畳ほどのスペースを挟んだ反対方向には階段とトイレがあった。

 二階は仕切りのない八畳程度の部屋が一つと、屋根のスペースには物置き用のロフトがある。ロフトの木窓を開けると屋根の上に出られるようだ。


「俺はウォルツとリリィを連れて買い物に行くけど、荷物が多いんでサキさんも来てくれよ」

「よかろう」

「俺とエミリアは何をすればいいんだ?」

「扉の修理が来ると思うから留守番と……暇だったら適当に掃除しててくれると助かるんだけど……」

「わかった。ほうきで床を掃く程度ならやっておこう」


 ヨシアキは、ウォルツ、リリエッタ、サキさんの三人を引き連れて買い物に出掛けた。



 ──で、俺とエミリアは家に残されたわけだが。

 ヨシアキの話だと、俺とエミリアの二人で留守番と掃除だったな。エミリアに掃除をさせるなんて不可能ではないだろうか……。

 しかもこの家にあるのはヨシアキたちの背負い袋だけで、箒もちり取りも用意されていない。ヨシアキが置いていったのは扉の修理に必要な銀貨くらいだ。


「どうかしましたか?」

「いや、ちょっと家から箒と塵取りを持ってきてくれんか?」


 一瞬エミリアとリリエッタをチェンジしたい気分になったが、エミリアには魔法のアドバンテージがある。これはこれで役に立てるしかないだろう。


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