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第137話「探索終了」

「まず足元の床石を外して地面を剥き出しにする必要があるわね」

「サキさん出番だぞ」

「うむ……」


 サキさんは三度みたびのレーザーソードでティナの足元の床を切り抜いた。ゴーレムの部屋と地続きの地面に直接触れることで、落とし穴の位置をより正確にイメージする意図があるらしい。


 せっかく剥き出しの土があるので、俺は土の精霊石をいくつか補充した。


「準備はいいかな?」

「いいわよ」

「大丈夫ですよ」


「ではティナさん、落とし穴を作ってください!」


 ユナが作戦開始の合図を出す。それを見ていたティナは全力で落とし穴を作った……はずだ。そろそろゴーレムが待機している床の下は完全な空洞になっている頃だが──。



「限界まで掘ったつもりなんだけど、予想よりも床のタイルが粘っているわね」

「あの重量が踏んでも割れないくらい頑丈に作ってあるんだろうな」


 俺が幻影の魔法で再び貧乳のエミリアを映してゴーレムの回りをぐるぐる走ってみせると、ゴーレムもそれに釣られて自転を始め──足踏みの力が加わった床は盛大に抜けた。

 地面に沈みゆくゴーレムは何かに捕まろうとするが、それは全くの無駄である。


「一気に土砂で埋めてください! 土砂の石化も忘れないようにお願いします!!」


 俺とティナとエミリアは砂埃も気にせず落とし穴を土砂で埋めてから、間髪入れずにそれを石化させた。一分どころか三十秒も掛からずに決着が付いたと思う。






 ゴーレムの部屋から砂埃が引くのを待っていた俺たちは、もう大丈夫だろうかと鉄格子てつごうしの隙間から部屋の様子を確認した。

 直径10メートル以上もある円筒形の部屋の床は、俺たちが出した砂埃でめちゃくちゃになっているが、はがねのゴーレムが地中深くでモゴモゴ動いているような気配は感じない。


「大丈夫なのかな?」

「わしが部屋に入って様子を見るわい」


 サキさんは白い石板の隣にある、スライドすれば開きそうな部分を力任せにこじ開けると、落とし穴を埋めた部分で飛び跳ねたり、地面に耳を付けたりして入念に調べてから、無言で俺たちを手招きした。


「見事に固まっているわね……」

「この地下で生き埋めになっているゴーレムは永久に生きたままなのか?」

「石の重みで体力を削られなければ永久に生きたままだと思いますが、ゴーレム本体に意志や心はありませんので安心してください」


 俺の意図を察したらしいエミリアは、それなりのフォローを入れてくれたようだ。



「それにしても……この部屋には何もありませんね。財宝はどうなったんでしょうか?」


 ユナは円筒形の部屋をぐるりと一周してから不満気に呟いた。サキさんも壁や床をグレアフォルツで叩きながら回っているが、特に何も見つからないらしい。






「本当に何もないわね……」

「何もないですね」

「石板には『ゴーレムを退けよ』と書かれてあるので、部屋から退場させてもいいと考えたんですけど……屁理屈でしょうか?」


 はがねのゴーレムがいた部屋では、ティナとエミリアの二人が入念に魔力感知を行い、サキさんもレーザーソードで等間隔に壁や床を刳り貫いたりしているが、魔法的にも物理的にも隠し部屋のような物を見付けることは出来なかった。


「他に何かありえそうな仕掛けは無いかなあ?」

「白い石板の下に階段が隠されておるとか……」

「サキさんが壊したフェイクの扉に通路が出来ているとか……たぶん無いわね」

「上の階の隠し部屋に別の階段が現れていたら面白いですね」


 俺たちは白い石板をひっくり返し、サキさんが壊したフェイクの扉を調べて、最後に上の階の隠し部屋まで確認した。結局何も無かったんだけど!



「これはやっぱり、ゴーレムが生き埋めのまま生きているせいかもしれんなあ。もうどうしようもないし、遺跡への横穴を厳重に塞いで探索は打ち切ろう」

「だの。遺跡のモンスターは一掃したし、村の安全は保証できるであろう」

「仕方ないですね……」


 俺たちはヘルハウンドが居た部屋に戻って、遺跡へと続く洞窟の横穴を土の魔法で丁寧に塞いでから、ダメ押しで石化の魔法を使った。



 洞窟の外に出ると、そろそろ夕方になろうかという明るさになっていた。俺たちはぞろぞろと公民館に戻って、ティナとユナは夕食の準備を、サキさんはすすだらけになった鎧を磨いて、俺は砂埃を被った革の装備をブラシで払っている。


「今回は汚れ損で終わってしまったな。金目の物が出れば良かったんだが、村の安全を確保した成果で満足して貰うしかないかあー」

「わしははがねのゴーレムと戦えんかったのが何よりも悔しいわい。ミナトよ、ああいう手合いとも互角に戦えるような武器を買うてくれぬか?」


 サキさんが自分から装備のおねだりをするのは珍しい……いや、初めてかも。



「ミスリル銀の武器だろ……店の在庫はアテにならないから、個人売買というか好事家のツテを探して交渉するのが一番良さそうだが……そういえば遺跡で見つけたマンホールの蓋もミスリル銀だったよな?」


 俺は手提げ式の麻袋から魔装置だと思われるマンホールの蓋を取り出そうとしたのだが、俺が魔装置に手を触れた瞬間、フワッと目の前の視界が変わった。






 なんだこれ? 急に目の前の景色が変わって、俺は青白い明かりに照らされた円筒形の部屋に飛ばされていた。部屋の直径は4メートルくらいだが、天井までの高さが30メートル以上あるようにも見える。

 俺がこんな状況でも落ち着いていられるのは、この感覚を良く知っているからだ。これはテレポートの感覚で間違いない。俺はどこか別の場所に飛ばされたのだ。


 原因はあの「マンホールの蓋」だろう。あれに触れた瞬間に飛ばされてしまったからな。


 俺は自分の周りを確認する流れでふと自分の足元を見たが、足元にはマンホールの蓋と同じような文字と図形……複雑な魔法陣が自ら発光して床から浮かび上がっている。

 俺は何となく仕組みを理解したので、一度魔法陣から足を離して、再びそれに足を乗せてみた。その瞬間、先程と同じように目の前の視界がフワリと変わる。



「…………」

「ミ、ミナトさん……大丈夫でしたか?」


 俺は元居た公民館に戻って来れた。足元には麻袋から半分はみ出したマンホールの蓋がある。

 心配そうな顔で見つめるエミリアに頷くと、俺は全員をこの場に集合させた。



「俺たちが遺跡から持ち出したマンホールの蓋なんだが、これにはついになる魔法陣がもう一つあって、その表面に触れることで双方向にテレポートできるみたいだ」

「テレポートした先は何処に繋がっていたんですか?」

「青白い明かりに照らされた円筒形の部屋だったな。テレポートのカラクリに気付いた時点ですぐに引き返してきたけど、特に危険な雰囲気でもないし、モンスターもいなかった」


 俺とユナが話している横で、エミリアはマンホールの蓋に直接触れないようにしながら魔力感知をしている。


「ミナトさんが言う通り、この魔装置にはテレポートの効果が込められているようです。最初に調べたときは魔力が小さすぎて使い物にならない状態でしたが……今なら問題なく機能するでしょう」

「ゴーレムを退けたから封印が解除されたんでしょうか?」

「今となっては調べようがないですけど、自然に考えればそうだと思います」

「……飯まで時間があるし、ちょっと見に行くか? 俺とユナとエミリアの三人でも大丈夫だと思う」


 ティナは夕飯の支度があるし、サキさんは鎧の手入れで忙しい。俺はユナとエミリアを連れた三人でマンホールの蓋からテレポートしてみた。






 再び訪れた円筒形の部屋は、相変わらず部屋中が青白い明かりで覆われている。さっきは一人だったので気付かなかったが、ユナとエミリアの顔を見ると青白い明かりのせいで二人とも真っ青な顔になっていた。


「何とも不健康な顔色に見えますね」

「だなあ……エミリア、ここは何をする部屋かわかるか?」

「床に彫ってある模様は召喚の儀式を行う魔法陣です……これは研究の対象になるので部屋ごと現状保存に協力して貰えませんか? 魔術師にとっては本当の意味で財宝なんです」


 そういえばエミリアは召喚魔法の専門家だっけ? すっかり忘れてたけど。


「この部屋には色んな小物がありますよね? それらも全部ですか?」


 折角のお宝を前に現状保存では納得いかないのか、ユナは部屋の中を物色したくて堪らない様子だ。


「お願いします。ここまで完璧な遺跡はなかなか見つからないんです。ミナトさんたちが召喚されてきた魔法陣とは比べ物にならないほど状態が良いので、魔術学院の管理下に置かせてください!」

「うーん……ミナトさぁん……」


 この部屋の価値はわからないが、今まで金目の物が出ても全部俺たちの取り分にしてくれたエミリアが譲歩の意志を示さないほど強く出るのだから、本当に価値があるのだろう。



「一つ確認したいんだが、俺たちが召喚されてきた魔法陣というか召喚魔法は暴走したんだよな? いくら状態が良くても興味本位で呼び出したヤバい悪魔に一杯食わされてまた暴走させるんじゃないのか? 収束までに一年も費やしたらしいな? 二カ月そこらで懲りもせずにまた手を出す気なら、俺はこの部屋を破壊するぞ?」

「……う……ぐううぅ……」


 図星だったのかエミリアは黙ってしまった。


「とにかく一度公民館に戻ろう。飯の後にパーティー会議でどうするか決めればいい」






 俺たちが公民館に戻ると、テーブルには色んな肉料理が並べられていた。今晩もいくつかの家から食事を持ち寄ってくれたのだろう。

 昨晩の要望通り、米だけはティナが焚いてくれたみたいだ。


「やっぱりアサ村の肉料理には米が合うな。後でジムにも教えておいてやらねば」

「塩味が効いているせいかしらね?」


 俺たちはたらふく飯を食った後で、先ほどの部屋についてパーティー会議を行うことにした。俺としては決着が付くまで時間無制限の一本勝負にするつもりだ。


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