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第124話「レーザーレイピア」

 俺が朝食の後片付けをしている間に、ユナはハヤウマテイオウで観光遺跡へ向かい、サキさんは対人戦闘の稽古をしに白髪天狗で冒険者の宿に行った。

 そんなわけで、今日も家に残っているのは俺とティナの二人だけである。


「今日はいくつか試してみたい魔法があるわ」

「うん?」


 ティナは自分のレイピアと、勝手口の薪割り用ハンドアックスを持って家の裏手に移動したので、俺もティナの後を付いて行くことにする。

 武器を持って出るということは、ティナとしては珍しく攻撃魔法の実験だろうか?






 レイピアを抜いたティナが古代竜の角の杖で刀身を軽く撫でると、レイピアの刀身が青白い光に覆われた。武器を強化したらしい。


「どこかで見たことがあるような武器になったな」

「剣の強化だとこうなるみたいね。こういうイメージしか湧いてこなかったのよ。子供の頃に見たヒーロー番組の存在は偉大だわ……」

「そういうのはあるよな。大人になってもずっとイメージが残ってる」


「純粋な憧れとして記憶に残っているものは、現実的かどうかなんて二の次みたいね。今日は想像力だけの魔法がどこまで使い物になるのかを試してみるわ」

「そういえば、エミリアも余り深く考えない方がいいみたいなことを言ってたな……」



 ティナは青白い光に覆われたレイピアを構えると、氷の魔法で氷柱つららを数本出してから試し斬りを試みた。すると氷柱は溶けたバターのように切断されていく。

 この氷柱はバレーボール並みの直径があるから、安物のレイピアが切れ味を増した程度では切断なんてできないと思うのだが……。


「刃こぼれを防止するどころの話じゃないな。これなら武器として使えるぞ」


 俺も魔法のレーザーをまとったティナのレイピアを借りてみたが、魔法の氷柱つららは上手く刃を立てればヌルヌルと簡単に切断できた。


 何と言うかその……正義のヒーローになったみたいでちょっと楽しいと思った。しかもこの切れ味だ。サキさんに渡したら小躍りしながら喜ぶに違いない。

 俺が気分良く「レーザーレイピア」を振り回していると、一分ほどで効果が切れた。



 レイピアを収めたティナは、今度はハンドアックスを強化した。ハンドアックスは刃先の部分が溶鉄ようてつのような発色になる。レーザーではないようだ。


「刃先が加熱しているのか? 鉄が溶けているようなイメージだな」

「対象が斧だとイメージ的にはこうなるみたいね。やっぱり剣の形をした物でないとレーザーを纏わせるのは難しいのかしら? これだとヒートアックスね……」

「正義側のヒーローが斧を振り回しているシーンはあまり見ないからなあ……」


 俺は余った氷柱で試し斬りをしてみたが、ハンドアックスの刃先が氷柱に触れた瞬間に凄まじい音と水蒸気が吹き荒れた。


「ヒートアックスに強化すると炎や熱の効果が付与されるのか……」


 試しに俺は薪を一つ地面に立ててハンドアックスを振り下ろしてみる。

 ヒートアックスに強化しても元の切れ味は変わらないようだが、中途半端に食い込んだ刃先の部分から一瞬で薪が燃え始めた。

 俺は刃先から炎が吹き出したように感じたのだが、どうやら超高温の刃先で薪が発火してしまい、そこから炎が噴き出したように見えたらしい。



「斧は斧で強力だな。これだけの効果があれば何の不満もない」

「今まで色々考えながらやってきたけど、原理や物理法則を意識するのは常識的な効果の魔法なら扱いやすい反面、非常識な効果の魔法だと力が弱くなるみたいね」

「俺は精霊力しか使えんから、あまり突拍子もない効果とは無縁なんだよな」

「イメージだけで魔法を扱うのは、それはそれで難しいんだけどね……」


 そう言いながらティナが腕を伸ばすと、二階の廊下に立て掛けてあるはずのカスタムロングボウがティナの手元に現れた。幻影ではなく、実物を手元に召喚したみたいだが──。


 現れた弓を手にしたティナは、何処からともなくつがえた矢に目視できるほどの派手な風をまとわせて……その矢は、放たれると同時に不自然な速度で森の中に配置された練習用の木の的に穴を開けた。


 矢を射終わったティナが軽く腕を払うと、手にしていたカスタムロングボウは光の花びらを散らせるようにしてその場から消え去る。



「今のはなに?」

「自分の弓を手元に召喚して、つがえた矢を強化したのよ。矢には回転と加速を与えてみたわ。使い終わった弓は元の場所に戻ってるはずよ……たぶんだけど……」

「いよいよ本格的な魔法になってきたな」

「そうね。でも、普通に攻撃魔法を使う方が良くないかしら?」


 言われてみると確かにそうだ。一連の動作は随分カッコいいと思ったが、正直な感想としては最初から攻撃魔法を使ってくれた方が動作も速くて威力も高いだろう。


「持ち物を召喚する魔法は、出先で食器やお鍋が足りなくなったときに便利そうね」

「そういう使い方は便利だ。重ねにくい形状の皿や鍋を持ち運ぶのは邪魔になるからな」


 俺とティナが魔法で遊んでいると空が曇ってきたので、洗濯物を守るようにオーニングテントを広げてから家の中に戻った。






 俺が家の中に戻ってから暇な時間をティナの膝枕で過ごしていると、大粒の雨が地面や家の屋根をバチバチと叩き始めた。


「あら? 降ってきたわね。ユナもサキさんも大丈夫かしら?」

「あの二人なら大丈夫だ。サキさんは雨くらい平気だし、ユナは風邪を引かないように知恵を絞るだろう」

「それもそうね……」


 俺は相変わらずティナの方を向いた膝枕の体勢で、頭をなでなでして貰っている。雨の降り始めに漂う独特の湿った匂いも手伝って、俺はこれ以上ない程に癒されていた。



 十分甘えて満足した俺は、オーニングテントで守られた洗濯物を取り込んでから適当に畳んで、広間の木窓越しにボーっと花壇の花を眺めている。

 サキさんに言われてユナと一緒に作ってみたまでは良いのだが、いつの間にかティナとサキさんが花壇を管理している状態だ。


 日暮れ時のせいもあって、ひと際暗くなった森の奥から馬の足音が聞こえてくる。

 ……冷たい大粒の雨に打たれながら、サキさんが悠々と帰ってきた。


「馬は見ておくから、風呂場に直行してこいよ」

「そうさせて貰う」


 俺は広間の木窓を乗り出して、馬小屋に移動するサキさんに声を掛けた。






 調理場の勝手口から風呂場に直行したサキさんと入れ替わるように、俺は馬小屋の白髪天狗を世話している。

 地面が濡れているときは特に蹄の内側を見ておいてやる必要があるのだが、白髪天狗はブラシで脚を指すと自分から脚を上げてくるので手間が掛からなくていい。

 ちなみにハヤウマテイオウの方は、自分からブラシを蹴っ飛ばして催促してくる。


 白髪天狗の世話が終わった頃には雨もすっかり止んでいた。

 今回のは通り雨だったのだろう。空を見上げると分厚い雨雲は南東の方へと流れていったようだ。


 俺が勝手口から家に入ったところで、エミリアの悲鳴が聞こえた。

 またサキさんが全裸で部屋に戻ろうとしている所を、運悪くエミリアが目撃したのだろう。懲りん奴だと俺が笑うと、調理場にいるティナも笑い返した。



「エミリアはまたサキさんのチンチンを見たようだな?」


 広間のテーブルでセルフ放置プレイをしているエミリアは、頬を赤らめて下を向いたままだ。

 前回はどちらも悪いと思ったが、良く考えるといつの間にか家に来ているエミリアの方が悪いんじゃないかと思えてきた。


「エミリアもいい歳であるから、わしのイチモツを見たくらいで生娘のような悲鳴を上げるのはよさぬか」


 部屋で服を着てから髪を乾かしに下りてきたサキさんが、エミリアに余計な一言を言う。

 エミリアは不満気な表情のまま脱衣所に向かうサキさんを目で追った。エミリアはムッツリだから、やはりチンチンが気になるのだろうな。



「すっかり忘れる所でしたけど、今朝言っていた教材を持ってきましたよ」


 エミリアはテーブルの上に数冊の本を置いた。随分使い古された本のようだが法律以外は特に更新された項目はなく、これが現行版らしい。


「神話、歴史、魔法、技術、法律、生活……想像よりもレベルが高い教材だな」


 俺が本をパラパラと捲っているとユナも帰ってきた。ユナは通り雨が過ぎるのを待っていたので帰りが遅くなったようだ。

 何はともあれ、全員が揃ったところで夕食となる。






 今日の夕食は大根と鶏肉の煮物とキノコの吸い物だ。俺は本を暖炉側のローテーブルに移動させてから夕食に手を付けた。


「サキさんとユナの準備は順調に進んでいるか?」

「うむ。化け物相手とは随分勝手が違うがの。それでも最後は力がものを言うわい」

「技や素早さに翻弄されることはないのか?」

「達人の中の達人ならそうかも知れぬが、まずは腕力であろう」


 ひょろひょろのイケメンが全身筋肉の大男に技と素早さで勝つというシーンは、残念ながら期待できないようだ。


「ユナの方はどうなってる?」

「記録したメモを精査して、月末にもう一度現地を確認すれば大丈夫だと思います」

「期待できそうだな」



 飯を食い終わった俺は、いつものように後片付けをしてから風呂に入った。

 サキさんは夕食前に風呂を済ませたので、今日は銭湯に行かないらしい。暖炉脇のソファーに腰を下ろして、エミリアが持って来た本をめくっている。


 今日は特に何かを話すこともなく風呂から上がった俺たち三人は、広間にサキさんが居ないことを確認してからバスタオル一枚の姿で自分たちの部屋へと戻った。

 適当に涼んでから服を着て、脱衣所で髪を乾かすついでに歯磨きもして、いつでも寝られる状態になった俺とティナとユナの三人で家の階段を上ると、先日買って廊下に出しておいたサキさん用の薪ストーブが無くなっていた。


「サキさんは自分の部屋に持ち込んだみたいだな。廊下に放置しておいて足の小指をぶつけたくないし、俺たちのストーブも部屋に運んでおくか」

「そうですね……」


 ティナが薪ストーブに浮遊の魔法を掛けたので、俺はユナの指示通りの場所までそれを押して移動させた。


「こんなもんでいいかな?」

「はい。窓際でいいです」


 薪ストーブを設置した俺たちは、今日はもうやることがないので寝ることにした。






 翌朝、ティナが朝食を作っている間に俺とユナの二人で朝の洗濯をしていたのだが、この日はサキさんが起きて来ないので、脱水作業に手間取った。


「寝坊かな?」


 俺はユナと一緒に勝手口を出てから、洗濯物を干している。

 物干し台が二台に物干し竿が八本……普段はこの半分で事足りるが、冒険の後にドカッと洗濯物が増えたりするので現在に至る。


「ドライヤーを改良して乾燥機みたいなのは作れんのかな?」

「できると思いますけど、これ以上大きな装置を増やすなら物置きが欲しいです」


 物置きかあ……。



 洗濯物を干し終わった俺とユナが広間に戻ると、セルフ放置プレイを堪能しているエミリアが居た。


「サキさん起きてこなかった?」

「いいえ、見てませんね……」


 今朝は洗濯物を干してからエミリアの相手をしたので、ろくに話もできないままでティナが朝食を運んできた。


「サキさん遅いわね」

「また夜更かしでもしたんだろう……呼びに行ってくるかあ」


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