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第120話「気の早い者たち」

 サキさんがミシンをする横で、ユナは観光遺跡に使うマッピング道具を吟味していた。


「あら? ユナも魔法のペンを買ったの?」

「そうなんですよー。毎回サキさんのペンを借りるのも悪いですし、以前ガーゴイルの石像を売ったお金で買っちゃいました」


 魔力感知できるティナが聞いたことで、ユナが持っているペンが魔道具なのだと初めて知った。やはり魔術師だと筒抜けでわかるのだな。


 俺はパーティーの資産から魔法のペンの代金を出そうとしたが、個人的に使うものだからと断られてしまった。

 遠慮しなくても良いのだが……。

 いや待て、遠慮なんだろうか? つい先日もマラデクの町で銀貨7000枚近い用途不明の魔法の鍵を買わされたし、相変わらず良くわからない性格だよなあ。



「剣技大会と遺跡イベントの他には何かないのか? 月並みだが料理対決とか美人コンテストとか……」

「そっち方面には興味が無かったので調べてないですけど、普通にあるとは聞いてますよ。王都の収穫祭は対戦型のイベントが多いみたいですね」

「その中でも剣技大会は一番の花形らしいのだ!」


 なるほど。ユナとサキさんは収穫祭での目標ができたのだな。

 俺も何かやりたい所なんだけど、コレと言えるような趣味や特技が無い。下手をするとヨシアキのパーティーから余った暇人を集めて遊ぶくらいしか思い付かないなあ。


「ティナは何かのイベントには出ないのか?」

「特にないわねえ……あまり人と競い合うのは好きじゃないのよ」


 俺もそんな感じだな。盤上の対戦は嫌いじゃないが、表舞台で競ったり盛り上がったりするのはどうも苦手だ。どちらかと言えば裏方の方が性に合ってる。






 特にやることが無い俺とティナは家の裏手に回って魔法の練習をしている。

 前回は光の魔法で幻影の練習をしたので、今回は風の魔法を使って音を作る練習だ。


「風の魔法で音は作れる──これも花火の時に判明したんだよな」

「魔法で直接空気を振動させるわけだから、スピーカーよりも性能は高いはずよ」

「人や動物の声、効果音、楽器の音から最終的には演奏まで。これも光と同じくらい応用が利きそうだな」

「見破られにくさでは光よりも上だと思うわ」

「確かにそうだ。もしドア越しに声が聞こえたら、人の存在を信用するしかないもんな」


 俺は身近な効果音──手を叩く音や、イメージしやすい音を風の魔法で鳴らしてみた。


 パチパチパチ……ドンドン……カタカタカツンカツン……。



 ──なかなかリアルな音が出るわね。


「え? 今の声は?」

「ミナトの声を作ったのよ」

「俺の声ってこんなふうに聞こえているのか……」

「可愛らしい声でしょう?」

「俺は中学の頃に自分の声を録音して聞いたら、自分の声の気持ち悪さで半年くらい立ち直れなくなったんだが……」


 軽くトラウマが蘇りそうになったが、俺もティナの声を再現してみた。


「うーん……もっと甲高い声だと思ってたけど、随分落ち着いたトーンなのね」

「普段の地声は俺の方が高いみたいだな」


 その後は楽器の音を出したりしてみたが、これがなかなか難しい。

 音程が合っていても、記憶から想像した音と現実の楽器の音がここまで違うなんて、実際に頭の中のイメージを直接音に変換するまで知らなかった。



「頭の中では完ぺきに音が鳴ってるつもりなのよ。でも次の旋律を頭の中で用意した途端に別の音が混じったりするわね」

「思った以上に正確なイメージで臨まないとだめだ。専門家の意見が聞きたい所だな」


 今回わかったのは、身近な効果音やイメージしやすい単発の音、良く知っている人の声、音色の少ないレトロゲームのBGMなんかは比較的簡単に再現できた。


 意外だったのはオルゴールの音を二人揃って再現できなかったこと。それから、オーケストラは有名な曲をイメージしても何が鳴っているのか良くわからない状態になる。


「これはちょっと……演奏に関しては実際に魔法を使った人じゃないと、このどうにもならないムズムズした感覚は共有できそうにないわね」

「確かに。脳内演奏すると突然イメージが破たんする事も多い。リアルタイムだから幻影みたいにその都度修正することもできんからな」


 俺とティナの最終目標は「レスターがいなくても自動演奏でカラオケ」だったのだが、これは長い道のりになりそうだ。






 ティナは夕食の支度をしに調理場へ行ってしまったので、俺も魔法の練習を切り上げて広間に戻った。


「ミナトさん見てください。制服、仕上がりましたよ!」

「おお、凄いな。相変わらず本物みたいだ」


 ユナが着ている制服は、前に聞いていた通りのブレザーだった。女子制服の種類には疎い俺だが、エンジ色の落ち着いたデザインは華奢な感じと相まって可愛かった。


「学校の制服にしてはゴワ付きが少ないせいでスマートだな」

「少しだけ絞って体のラインが出るように作って貰ったんです」

「ミナトのセーラー服でもやっとるからの」

「そうだったのか……」

「わしのはユナと同じデザインにしたわい」


 サキさんは俺とユナの目の前でパンツマンになって着替えだした。


「ちょっとサキさん、女の子の前なんですから少しは遠慮してください」

「わしは自分の体に自信があるので恥ずかしゅうない!」

「こっちが恥ずかしいんだよハゲ!!」



 デリカシーのないサキさんは俺とユナに散々生着替えを見せつけてくれたが、着替え終わると制服のデザインのせいだと思うが、結構まともな好青年に変身していた。


「なんというか、喋ったら残念なパターンのキャラだな」

「ぬう、失敬な!」

「そんな事より良く見てください。ぱっと見デザインが同じでも細部は全然違うんですよ」


 ユナに説明されてから確認すると、同じなのは襟のデザインと配色くらいで、他に共通する部分は殆ど見当たらなかった。

 日本では男子の制服なんてどうでもいいように扱われるのが普通だが、この制服は男子用もちゃんとデザインされてある。


「まあでも、こんな些細な違いを観察して覚えていたことの方が驚きだ」

「それはわしも思うた。曖昧な部分が無くて作りやすかったがの」


 その後もユナとサキさんが盛り上がっている話題に適当な相づちを打っていると、いつの間にか現れたエミリアがテーブルの席に着いていた。






 今朝話題に出た収穫祭についてだが、魔術学院もイベントに協力するようなので、エミリアにも予定があるのか聞いてみることにした。

 俺たちの冒険と収穫祭の準備が重なったら困るから、前もって確認しておく必要がある。


「エミリアは収穫祭の準備や、当日のイベントに参加しなくてもいいのか?」

「………………」


 エミリアが露骨に困ったふうな顔をしたので、俺はもう二度とこの話題を出さないと心に決めた。

 深入りすると必ず手伝わされることになる。俺の危険センサーがそう反応している。


「さて、俺はティナの手伝いでもしに行──?」

「……聞いてください」

「聞かんし、スカートの裾離せ。パタパタしても無駄だぞ。この家には女とホモ侍しかいないからな」

「学院の方でも毎年イベントや準備に参加しているのですが……」


 エミリアは問答無用で話し始めた。もー、聞きたくないなあ……。



「──毎年人手が足りなくなるので手伝って貰えないでしょうか?」

「サキさんは剣技大会に出るから無理だし、ユナは観光遺跡のイベントで豪華賞品を狙いに行くみたいだから無理だぞ」

「ミナトさんとティナさんは暇なんですよね? 魔法の使える人手が欲しいのです」


 うーむ。正直面倒臭い感じになるのがわかっているので関わりたくない。


「ティナを一日拘束するってことは、我が家の食卓から夕食が消えるわけだが……」

「う。そうでした……それなら仕方ありませんね」

「そんなに大変なのか? でも勝手の分からん奴が手伝っても邪魔になるだろ?」

「実は回復魔法を使える魔術師が足りないのです。大規模なお祭りですから街中が冒険の舞台になりますし、普通の治療では間に合わないような怪我人も続出するので……」


 おい、オルステイン王国! イベントの安全管理はちゃんとしろよ!!



 エミリアの話をまとめると、奉行所に待機できる魔術師が足らんので手伝って欲しいということだった。

 家から一番近い奉行所だと外周二区、西の奉行所だな。俺が住宅の相場を聞きに行った場所だ。西の奉行所なら家から歩いてでも行ける距離にある。


「うーん、王国の安全管理に問題があるだけだと思うが、死人が出ないように努力をしている事だけは認めてやろう……」


 俺が悩んでいると、ティナが夕食を運んできた。






 今日の夕食はコロッケだ。中身は肉コロッケの他に海老コロッケが……まさかの伊勢海老かと思ったが、普通の海老を使ったらしい。


「海老も好きだが、そろそろ蟹が食いたい気分だな。エミリア、蟹だ。なるべく大きい奴を買って来るんだ」


 俺はエミリアにもわかるように、頭の上にダブルピースを作った。


「はい、蟹ですね。わかりました。ところで先程の話の続きなのですけど……」


 エミリアの頭なら食い物が口に入れば全て忘れるだろうと思っていたが、全員が揃っている場を利用して、このままパーティー会議に持ち込むつもりらしい。



「……そういう話だと、私とサキさんはお役に立てませんね」

「だの。特にわしは怪我人を増やす側のイベントに参加する立場であるし……」

「昼間の奉行所待機だけでいいなら……でも一月以上先の話だから、確実に約束できる保証はないわよ」

「だなあ。緊急の依頼が入って全部パーになるかも知れんし、今から予約は厳しいな。当日暇だったら手薄な場所を埋めるっていう話ではダメか?」

「確実に癒し手が足りないので当日でも助かります!」


 当日暇ならやるって話でも構わんのか。それならいいかなあ……。



 エミリアが帰った後、サキさんは銭湯に行き、俺たちは風呂に入った。

 ちなみに今日も暖炉の前に布団を敷いている。火を囲んで寝るのが何故か落ち着くので気に入ってしまったのだ。


「部屋に置くストーブも早めに揃えた方が良いかもな。サキさんの部屋と俺たちの部屋の二つだ。やはり品薄になる前に買っておきたい」

「明日は街に出る予定なので見てきますね」


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