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第118話「癒しのおっぱい」

 家に帰った俺は、白髪天狗をハヤウマテイオウの隣に繋いで家の中に入った。


「ただいま」

「うむ」

「あ、ミナトさん。おかえりなさい」


 広間には相変わらずミシンをしているサキさんと、暖炉側のテーブルで全員分の弓の手入れをしているユナ、そしてセルフ放置プレイを楽しんでいるエミリアがいた。

 エミリアはユナにまで放置されているのか? いやいや、四張も手入れしないといけないユナは、きっと手が離せないだけだろう。



 俺は風呂場へ手を洗いに行ってから、改めてエミリアの相手をしている。


「今の魔法技術で魔道具を作ることは可能なのか?」

「物によると思います。例えば普段使いの魔法の杖や指輪なら私でも作れますよ」

「例えば装備品に保護や強化の魔法を掛けて、魔法の装備を自作するとかは?」


 エミリアは少し考えてから、大まかな話をまとめて教えてくれる。


「魔剣を例に挙げて説明しますね……まず、常識では考えられない物が切断できるほど切れ味を鋭くしたり、魔力の供給も無しに刀身から永久に炎が噴き出すとか、手にしただけで剣の達人になれるとか、そういう魔剣は今の魔術師には作れません」

「なるほど……」

「先程ミナトさんが言っていた保護や強化に関しては一時的には可能です。効果の強さや有効時間は術者の能力や込める魔力の量で変わってきます」


 うーむ……。



「戦闘前に保護や強化の魔法を掛けておけば、サキさんの鎧がベコべコになったり、高価なカスタムロングボウがへし折れたりする事故を防げるのか?」

「……ミナトさんに言われて初めて気が付きましたが、魔術師が居るなら必ずやっておくべきです。例え一時的でも魔法の効果が付与されるのは大きいと思います」


 なるほど、そういう事か……特殊効果は付かなくても魔法の装備を生産できるかもと期待したのだが、肝心の効果が永続しないようでは生産とは言えないな。


「ちなみに魔法の櫛や……コロコロも、今の魔術師には作れない魔道具ですよ」


 手先の問題なら克服できるかもしれんが、魔力の量とか言われても人間の努力じゃどうしようもならんしなあ……。


 俺とエミリアが魔道具について話を掘り下げていると、ティナが夕食を運んできた。






 今日の夕食はパスタだった。手元には素のパスタ、テーブルに並べられた具材で各自好きなパスタにして食えるらしい。


「今日から丸くて普通のパスタが出せるわよー」

「おおー。早速ミンチ機が活躍したのか。良いのは買えた?」

「完ぺきです。真鍮の出口は特注もできるみたいなので、マカロニ用とポテト用の出口も頼んでおきました」

「マカロニ用は期待しないでね」


 マカロニを作る形状なんて説明しても王都オルステインの職人には通じなかったのだろう。その場のやり取りを思い出したのか、ティナはくすくすと笑うばかり。


 一人でミートソースの半分以上を流し込むサキさんを無視して、俺はキノコとササミの和風っぽいソースを掛けて食うことにした。






 飯の後はサキさんが銭湯に行ったので、俺たちも食後の片付けをしてから風呂に入ってのんびりしている。


「うーん、落ち着くなあ」

「そうですよねー」


 俺とユナは左右からティナを挟むようにして身を寄せていた。どさくさに紛れてユナがティナのおっぱいを触っている。俺も触った。


「んっ……」


 ティナは可愛らしくのどを鳴らしただけで、何も言わずに俺とティナを抱き寄せてくれる。


 はふぅ…………。


「いいですよね……」

「いい……」


 俺はエミリアの奇乳のトラウマを記憶から消し去るために、ティナの慎ましくも包容力に満ち溢れたおっぱいを触って癒されていた。ユナも同じ気持ちに違いない。



 昨日は調子に乗って散々下品な空気になってしまったが、あれは主にエミリアが一人で勝手に盛り上がって場の品位を下げたのであって、本来の俺たちはしっとり甘々な感じでゆるい雰囲気の方が落ち着くのだ。


 誰から言うでもなく風呂を出た俺たちは、適度に涼んでから髪を乾かしている。乾かす順番は俺、ユナ、ティナの順だ。

 ティナが乾かしている最中に、風呂場の外壁越しから白髪天狗の蹄の音が聞こえてくる。

 サキさんも銭湯から帰ってきたようだな。馬の世話を終えたサキさんがドライヤーを使いに来る頃には、ティナの髪も乾いている事だろう。


 俺たちはドライヤーを使うサキさんの髪が乾くのを待ってから、四人で歯を磨いて寝た。






 翌朝、激しい雨と落雷の音で目が覚めた。普段よりも少し早い時間なので、俺の隣にはティナの姿もある。

 俺は雷が怖いフリをしてティナを後ろから抱きしめていた。ちょっと冷えてきた朝にはこれが一番心地いい。

 もっと密着したくなった俺は、わざとパジャマのスカートをたくし上げて、ティナと自分の脚が擦れ合う感触を楽しんでいたが、流石にそこまでやるとティナも目を覚ました。


「おはようミナト……今日はちょっと冷えるわね」

「酷く降ってるせいかな……」


 親の仇とでも言わんばかりに屋根を激しく打ち付ける雨はより激しさを増して、地鳴りのように鳴り響く雷の音も酷くなったように感じる。



「……うるさいです。すごく……」


 ユナも起きた。


「雨漏りが心配だからもう起きましょう。この分だと離れの通路も泥だらけね……」

「仕方ない。手分けして確認するか」


 離れの通路はティナに任せて、俺とユナは雨漏りのチェックをすることになった。

 屋根を打ち付ける雨の音が直接部屋に響いている。こんな天候は初めてだ。


「楽器の中に閉じ込められた気分ですね」

「うちの屋根ってどんな感じだっけ? 風も強いし大丈夫かな……」


 ざっと見回った感じでは、サキさんの部屋以外は特に問題なかった。


「もの凄い雨だの。やかましくて目が覚めたわい」

「雨漏りのチェックをしていたんだが、サキさんの部屋は大丈夫か?」

「む──特に問題なさそうであるが……」



 勝手口の通路の方は、ティナが障壁の魔法で横風を食い止めているようだ。便所まで行く通路の泥もきれいに流してある。


「台風なんかなあ?」

「かもしれんの」


 俺たちは一度全員で朝の準備をしてから広間のテーブルを囲んでいた。


「朝ご飯作ってくるわね」

「私も手伝います」

「わしはミシンでもするかの」

「まあ、死ぬほどやかましいがいつも通りにしておこうか……」


 俺はテーブルの席に着いたままエミリアが来るのを待った。






 今日はエミリアの登場シーンでも見てやるかと思っていたのだが、指先の微妙なささくれが気になっている隙に、音も気配もなく忍び寄ったエミリアは席に着いていた。


 ──こいつは忍者に転職した方がいい。


「凄い雨だが、予測できなかったのか?」

「逸れるコースだったのですが、夜の風で直撃したようです」

「それにしても凄い雨だ。幸い雨漏りはしてないが、古い家だと酷かろうな」

「学院の方も古い施設の屋根はダダ漏れになってるはずですよ」

「こういう日は家から出たくないな。冒険中じゃなくて良かった」


 俺とエミリアが雨の激しさにげんなりしていると、ユナが朝食を運んできた。



 今日の朝食にはパンとハムエッグの横に、少量だがフライドポテトが付いてきた。

 エミリアとサキさんのポテトだけは3Lサイズだったが──。


「いや、美味いけど。エミリアとサキさんは朝から良く食えるよな?」

「塩の加減が丁度良いわい。次は酒のつまみにポテチでも作って貰おうかの」


 エミリアは頬っぺたをハムスターのようにしながらフライドポテトを頬張っている。

 そんなに慌てて食わんでも、誰も取ったりはせんのだが……。



 それにしても、とにかく雨の打ち付ける音がうるさい。雷もゴロゴロ、ゴロゴロ。

 もはや落ち着いて会話もできないレベルだ。


「今日の予定だが、この有り様なのでリーダー権限で外出は禁止にする!」

「そうね……裏の川を見に行ったりするのもやめておきましょう」

「うむ。今日ばかりは銭湯にも行かぬ!」

「ただの雨がモンスターよりも怖いなんて思ってもいませんでした……」


 自然は強大だ。ここまで問答無用だと、本当にどうしようもない。






 今日の俺たちは、サキさんはミシンの続きをして、ティナとユナは二人で新しいボードゲームを作っていた。

 将棋はあるので、その流れでチェスを作ったあと、異世界版人生ゲームを作り始めたようだ。一応最後に魔王を倒すのが目的らしいのだが、魔王を倒すには伝説の装備を揃えるか、装備が無くても溜め込んだ金貨で魔王を買収できればアガリらしい。


 魔王を買収してゲームクリアとか斬新すぎるだろう。


「凄いゲームだな。そもそもこの世界に魔王なんているのかな?」

「悪魔が存在するくらいですから、やっぱりどこかにいるんじゃないですか?」

「いたとしても関わらないようにしたいわね」

「そうだの」


 サキさんが戦いを拒否するなんて珍しいな。勇者の敵と言えば魔王が定番だろうに。


「魔王と言えば、倒した後は消滅したり爆発するのが相場であろう? 首を持って帰れん敵はいらぬ」

「ああ、倒した後の心配ですか。恐れ入ったわ」


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