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第107話「サドランが切れた!」

 大体の準備ができた俺たちはモロハ村の中を散歩していたが、どうにもこの村は至る所で地面の陥没が目立つ。村の奥では山の斜面が無数に崩れているし、湿地帯から流れてきた水が溜まっている場所もあった。


「もうめちゃくちゃだな」

「これって巨大ミミズが犯人のような気がしますよね」

「たった一匹でこの被害かしら?」


 ううむ。実は地中にウジャウジャ潜んでいる事態になってたりして。十分考えられるのでシャレにならない。

 想像してしまった俺は気持ちが悪くなってティナにしがみ付いた。なんせ俺は普通のミミズでも怖いのだ。



「サドランの報告にあった冒険者だな? ここから先に入ってはならぬ!」


 奥の方にも馬車やテントが並んでいたので近付いてみると、途中で兵士に止められた。サドランの小隊とはデザインが違う鎧を着た兵士だ。

 服も装備も新品のようにきれいで清潔感がある。御曹司様とやらの護衛だろうか?

 揉め事は嫌なので、俺たちはさっさと退散して荷馬車まで戻ることにした。






 小隊の兵士から巨大ミミズが姿を現す大体の時間を聞いた後、俺たちは俺たちでキャンプスペースの確保と夕食の準備をしている。

 武器などの装備品はテントの中に退避させて、調理道具とドライヤーは外に出した状態だ。荷馬車のスペースが広くなったので五人くらいなら足を延ばして寝れるだろう。


 俺は土の魔法で石の壁を出しながらかまどを作っている。家では解放の駒から出るきれいな砂を型に流して作っていたが、今回は一度か二度持てば良いので適当に作った。


「土の魔法にもだいぶ慣れた。最初は土なんて一番使えないと思っていたのになあ」

「火や風よりも使えると思うがの」

「そうか?」

「火や風は人力で起こせるであろう?」

「確かに、土や石は人の手では簡単に生み出せんな……結局一番使えるのは水だけどな」


 俺は魔法の水を張った鍋をかまどに設置する。これでキャンプの準備は粗方整った。



 ティナとユナが夕食の準備をしていると、村の奥から肉を焼くような香ばしい匂いが漂ってきた。俺たちが立ち入りを禁止されたVIPな人の夕食だろう。

 こっちの鍋からも負けじと良い匂いがしてくる。


 小隊の方も夕食の準備を始めたようだが、兵士が担いできたのはその辺の山で狩ってきたよくわからない動物だった。

 興味があったので観察していると、手馴れた手つきで獲物を絞め殺し、内臓を取り除いてから串刺し丸焼きというワイルドクッキングが展開されている。

 鍋物もあるようだ。大きな鍋から大根が生えているのがチラリと見える。

 ……未だかつて見た事がない大雑把な料理だ。


 俺が荷馬車の後ろで足をブラブラさせていると、飯の匂いを嗅ぎ付けて戻って来るエミリアの姿が見えた。あいつが歩いて飯を食いに来る姿は貴重な映像だ。



「エミリアの方はどうだ?」

「あの巨大ミミズは何年もこの村で活動していたみたいです」

「やっぱり犯人はあのミミズなんですね」

「まだ地面の下にウジャウジャいるなんてことはないよな?」

「大丈夫とは言い切れませんが、十年に一度現れるかどうかの希少種なのでそれはないでしょう」


 俺とユナとエミリアでミミズ対策を練っていると、夕食が完成したようだ。

 今日の夕食はサイコロステーキ定食だった。たちまちテーブルが無いので、エミリアがフォーク一本でもトレイを持ったまま食えるようにしたらしい。


「今更だが折り畳みのテーブルと椅子があればいいのにな」

「お主が魔法で腰掛けとテーブルを作れば良かろう?」

「水平に作るのは難しいんだぞ」


 スープを飲む時は一度トレイの上に箸を置いてから、地面の石に置いたカップを取らないといけない。これは非常に面倒くさい感じだ。

 俺は巨大ミミズの対処なんかよりも、こっちの方が気になり始めていた。






 俺とティナが夕食の後片付けを終えた頃には、辺りはすっかり暗くなっている。

 今はかまどの火を絶やさずに、暖炉の代わりにしている感じだ。この辺りは王都よりも少し寒い気がする。俺は全員分の上着を出した。


「そろそろ武器の準備をしておくか」

「そうだの」


 魔法の矢は足りるだろうか? 氷の矢が8本、いかづちの矢が16本、念のために炎の矢を4本追加で作った。

 途中で雷の矢が無くなると面倒なことになるが、その時は別の矢で代用するしかないだろう。今のところその場で作れないのは雷の矢だけだ。


「わしは剣とか槍でド突きまわす戦いがしたいわい……」

「今回は我慢しろ」



 パチンパチンと、かまどで燃える薪の音を聞いていると妙に安心してしまう。

 時折後ろの茂みがガサゴソと揺れるが、トカゲか蛇か何かだろう。もし変な生き物が出てきてもサキさんが何とかしてくれるから大丈夫だ。

 俺はユナに調整して貰った自分のカスタムロングボウを抱えたままウトウトしていた。


「出たぞーっ! ミミズが出てきたぞーっ!!」


 兵士の一人が叫びながらこちらに走ってくる。遂に現れたか……!






 俺たちがバリスタの所に急行すると、武装した小隊の兵士たちも集まっていた。


「どこだ!?」


 俺は湿地帯の奥に目を凝らすが、暗くて何も見えない。小隊の兵士が指を指して教えてくれるのだが、全くわからない状態だ。


「見えます。遠ざかっているように感じますね……」

「ユナは見えるの?」

「はっきりは無理ですけど」


 俺たちの中ではユナだけが認識できたようだ。サドランが言うように日々遠ざかっているのは間違いない。

 俺は一呼吸してから、巨大ミミズが遠ざかる理由を考えてみた。

 村の入り口とキャンプ場所、バリスタを設置した湿地帯との境目、村の奥のVIPエリアなんかは特に明るい……。


「遠ざかるのは夜だけだよな? この明かりを嫌って遠ざかっているんじゃないのか?」

「有り得ます。日が昇ったら地中に潜ってしまうのと同じ理由かもしれません」


 エミリアも同意しているからほぼ確定で良いだろう。俺はサドランに全ての篝火かがりびを消すように頼んだ。



 小隊の兵士たちはサドランの命令が下ると、蜘蛛の子を散らすように篝火を消して回っている。その行動は素早い。あっという間に俺たちの回りは暗闇になった。VIPエリアを除いては……。


「おい、あそこの明かりはなぜ消えんのだ?」

「暗いと貴族様が怖がるから消灯できんとの事であります!」

「……あのクソガキどもがァ! またわしらの邪魔をし腐るつもりかァ!!」


 サドランはブチ切れて鉄の盾を地面に叩き付けた。


「あっちはサドランの命令が通らんのか?」

「通らんッ! わしらは御曹司のお守り役よ。身分の違いに文句は無いが、毎回これでは任務が果たせん!」


 この巨大ミミズ、サドランの怒り様から察するに、毎回VIPなお方のワガママで取り逃がし続けていたようだな。



「……私が説得してきますから、ミナトさんたちは作戦を開始してください」

「ああそうか。じゃあ頼んだ」


 今にも御曹司様をぶん殴りに行きそうなサドランが部下たちに宥められている横を素通りして、エミリアは村の奥へと消えて行った。


「向こうのクソガキどもはうちの貴族様が説得しに行ったんで、俺らはこれから巨大ミミズを何とかしに行くぞ」

「どのようにするのだ?」

「ある程度近付いてみないと何とも言えん。とにかく大きさが実感できんからな」

「そうね……」


 ティナがイカダを宙に浮かせたので、俺たちは飛び降りることなく安全にイカダの上に乗れた。暗がりだと何をしているのかわかり難いので遠慮なしに魔法が使えるなあ。






 イカダは俺たち四人を乗せて、水面の上を浮いて進んでいる。まさか空飛ぶイカダなんていうヘンテコな乗り物で化け物退治をする羽目になるとは……。


「ミナトさん、少しだけ水面の前をうつせませんか? 陸地になった部分に引っ掛かったら大事故になります」

「そうだな。暗めの明かりで広範囲に照らそう。集中してる間は何も言えんからユナが指示してくれ。巨大ミミズとの距離が100メートルくらいになったら一時停止だ」

「わかりました」


 俺は偽りの指輪に集中して、弱い明かりを広範囲に広げた。弱い明かりのまま範囲を広げるなんてことは魔法だからこそできる芸当だ。


 明かりのおかげでイカダの上の状況も良くわかる。


 俺たちは防具を一切身に付けていない。せいぜい革手袋くらいだ。武器はそれぞれ専用に調整したカスタムロングボウに魔法の矢を取り付けてある。

 今回は魔法の矢だけで戦うつもりなので、通常の矢は持って来なかった。あの巨体では蚊に刺された程度のダメージしか入らないと考えたからだ。

 サキさんお気に入りの魔槍グレアフォルツも荷馬車の中。あるのは腰のダガーのみだ。


 やがてユナの指示でイカダの動きが止まった。

 後ろを振り返ると村の明かりも消えている。エミリアが上手くやったのだろう。


 俺は薄暗い魔法の明かりを巨大ミミズに当てて、その巨体を確認した。






 一番良い例えは、駅のホームから見た電車だろう。電車の箱の部分だけを六両ほど繋げたらこの大きさだろうなと感じた。

 全員が巨大ミミズを観察できたと思ったので、俺は魔法の集中を解いた。


 相変わらず一瞬で暗闇になるのは何とも言い難いが、俺の魔法は魔道具の能力なので仕方がない。


「暗いせいだろうな。質感までわからんから、意外と気持ち悪い気がしない」

「そうですね」

「倒しがいのある大きさだわい。手柄に出来んのが残念だの」

「私はすでに帰りたい気持ちでいっぱいなんだけど……」


 ティナ以外はやる気を失わなかったようだ。これが昼間だとサキさんしかやる気を起こさなかっただろう。ある意味夜で良かったと言える。


「どのようにするのだ?」

「そうだな……一度こいつの前に出よう。ミミズは頭から潜る。頭を氷の矢で完全に凍らせて、地中に潜るのを封じる作戦だ」

「うむ……」

「頭が凍ったら光の魔法を当てて村の方向に追い立てる。目が無いと聞いたが、何かしらの光を感知する器官があるはずだ。現に今は止まっているし……」

「昼間に試し打ちしたバリスタの矢を目印にして追い立てるんですね?」

「そうだ。もし頭を凍らせても潜って行ったり、光を当てても回頭しそうになかったら、その時は倒してしまおう。報酬は出ないだろうが手柄にはなる」

「うむ!」


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