第九十三話 新年の朝
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
夜明け前、空は淡い藍にほどけていた。
新しい年の最初の朝は、音が少ない。
伊東祐兵は戸を開け
冷えた空気を胸いっぱいに吸い込む。
霜を踏む足音が、きしりと静かに鳴った。
「年が、変わりましたな」
背後から、島津豊久の声。
肩に羽織をかけ、同じ空を見上げている。
「ああ。だが、空は昨日と変わらぬ」
「それが、よろしいのです」
二人は並んで井戸の水で手を清め
簡素な膳に向かう。
炊き立ての飯
塩だけの汁。
余計な飾りはない。
足元では小春が背を伸ばし
黒猫は窓辺で朝の光を受けていた。
「今年も、こうして始まったな」
祐兵が申す。
「ええ。騒がず、慌てず」
盃には酒ではなく、湯。
口に含むと、身体の芯が静かに温まる。
「今年は、何を望まれますか」
豊久が尋ねた。
祐兵は少し考え
囲炉裏の灰をならしながら答えた。
「同じ日が、同じように続くことだ」
豊久は微笑み、深く頷く。
「それ以上は、贅沢ですな」
外では、町のどこかで人の声が上がり
新年の気配がゆっくりと広がっていく。
小春たちは揃って欠伸をし
まるで「いつも通りだ」と言うように
また丸くなった。
新しい年は
大きな音もなく
静かに始まっていた。
新年あけましておめでとうございます!
楽しいお正月をお迎えでしょうか。2025年は大変お世話になりました。
本年もどうぞよろしくお願いいたします!




