第百三十一話 冬町、ひと口
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
昼の町は、白い息と湯気でできていた。
伊東祐兵と島津豊久は
特に目的も決めず、通りへ出る。
最初は、焼き団子。
炭の香りが風に乗る。
「一本だけ、ですな」
豊久が言う。
「一本で足りる」
祐兵はそう言いながら、噛む。
甘辛のたれが、舌に広がる。
次は、魚の練り物。
揚げたてで、指先が熱い。
「寒い日に、これは反則ですな」
豊久が笑う。
「反則は、強い」
祐兵は短く返す。
角を曲がると
小さな屋台で、汁物が湯気を上げていた。
根菜と味噌。
椀を受け取ると、手がほどける。
「派手さはないが……」
豊久が一口すする。
「こういうのが、残りますな」
「町の味だ」
祐兵は椀を傾ける。
足元では、小春と黒猫が
屋台の影を行き来し
落ちていないかと探る。
何もないと知ると
陽だまりに戻る。
最後は、甘酒。
米の香りが、胸まで温める。
「歩いた分、食べましたな」
豊久が空を仰ぐ。
「歩いたから、食えた」
祐兵は前を見る。
銭は軽く、心は重くならない。
町の音、匂い、声。
それらを少しずつ、腹に収めただけだ。
二人は、また歩き出す。
冬の町を
ひと口ずつ味わいながら。




