第百二十八話 寒を迎え撃つ
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝、吐く息が白く
指先が言うことをきかない。
伊東祐兵は火鉢に炭を足し
島津豊久は襟を正した。
「寒さは、力を奪いますな」
豊久が手をかざす。
「奪われる前に、備える」
祐兵は静かに言う。
二人はまず、身体を起こす。
急に動かさず
首、肩、腰と順にほぐす。
血が巡ると、寒さは少し退く。
湯を沸かし、薄く塩を入れる。
一口、二口。
胃が温まると、背筋が伸びた。
「腹を空にせぬこと」
祐兵が言う。
「贅は要らぬ。温かいものを、少しずつ」
台所では、根菜を刻む音。
大根、里芋、葱。
火にかけ、湯気が立つ。
香りが部屋に満ちる。
衣は、重ねる。
肌に近いものは乾いた布
外では布で風を止める。
結び目を締め、隙を作らない。
外へ出る前
足首と手首を確かめる。
ここを冷やさぬだけで、違う。
足元では、小春と黒猫が
日だまりを見つけ、丸くなる。
猫は寒さの先生だ。
「無理をせぬことも、対策ですな」
豊久が笑う。
「ああ。
退くときは退き、
進むときに進む」
戸を開けると、空は冴えている。
寒さは厳しい。
だが、備えは整った。
二人は歩き出す。
今日を越えるための知恵を
静かに携えて。




