第百二十六話 朝へ向かう歩み
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夜明け前、空はまだ藍色だった。
だが東の端が、かすかに明るむ。
伊東祐兵と島津豊久は
館の庭に立っていた。
霜を踏む音が、静けさを割る。
「今日は、よく冷えますな」
豊久が息を吐く。
「だからこそ、身が目覚める」
祐兵は短く答え、空を見る。
二人はゆっくりと身体を動かした。
大きくは振らない。
伸ばし、整え、呼吸を合わせる。
一日の始まりに、無理はしない。
やがて、鳥が一声鳴いた。
それだけで、朝は進む。
「昨日のことは、昨日に置く」
祐兵が言う。
「明日は、明日の力で迎えればよい」
豊久は頷いた。
「積み重ね、ですな。
派手ではなくとも」
足元では、小春と黒猫が
朝の匂いを確かめるように歩く。
しっぽが、軽く揺れた。
太陽が、山の端から顔を出す。
光は弱いが、確かだ。
影が伸び、また縮む。
「行きましょう」
豊久が言う。
「ああ」
祐兵は前を向く。
今日にできることを、今日する。
それだけで、明日は近づく。
朝の光は、誰にでも等しく降りる。
二人はその中へ、静かに歩み出した。




