第百二十三話 冬尽くる日の豆
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
立春を前に、空気がきりりと締まる夕。
台所の一角に、升が置かれ
炒り豆の香ばしさが漂っていた。
伊東祐兵は豆の煎り具合を確かめ
島津豊久は紙に墨で面を描く。
角は控えめ、目はどこか愛嬌がある。
「鬼も、ほどほどがよい」
豊久が笑うと
祐兵は升を手に取った。
「追うのは災いだ。人ではない」
戸を開け、庭へ向かう。
息が白く立ち、月は淡い。
「鬼は外」
祐兵が静かに豆を放つ。
音は軽く、しかし真っ直ぐ。
「福は内」
豊久が続け、豆が縁側に転がる。
足元で、小春と黒猫が身構え
転がる豆を追っては止まり
鼻先で確かめて首を傾げる。
食べはしない。
ただ、賑わいを楽しんでいる。
一通り終えると
二人は縁側に腰を下ろし
年の数だけ豆を数えた。
数えるほどの静けさが、夜に溶ける。
「冬も、終わりに向かいますな」
豊久が空を見る。
「ああ。だが、急がずでよい」
祐兵は庭の闇を見守った。
豆の殻を片づけ、戸を閉める。
台所に戻ると、湯を沸かし、薄茶を一服。
身体の芯が、ゆっくり温まる。
外では風が鳴り
内では灯が揺れる。
災いは遠く
福は足元に。
節分の夜は
静かに、確かに、春へと続いていた。




