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第百二十二話 冬町の歩み
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
朝の町は、まだ音を控えている。
白い息が立ち、瓦の縁に霜が残る。
伊東祐兵と島津豊久は
肩を並べて城下を歩いた。
商家の戸が一枚、また一枚と開き
箒の音が通りに広がる。
魚屋の前では、桶の水面が薄く凍っている。
祐兵は足を止め、指で縁を叩いた。
「今朝は、冷えたな」
「川も締まっていましょう」
豊久は空を仰ぐ。
雲は高く、風は穏やかだ。
通り角で、子どもが走り去る。
先日の双六の面影がよぎり
祐兵は目を細めた。
町は、こうして息づく。
茶店の湯気が、ゆるやかに立つ。
二人は言葉少なに、それを眺めて通り過ぎた。
必要以上に関わらず
だが見逃さない。
足元では、小春と黒猫が
路地の影を選んで歩く。
猫たちの足取りは軽く
町の隙間に溶けていく。
「変わりないですな」
豊久が言う。
「それが、いちばんだ」
祐兵は頷いた。
冬の町は静かだ。
静かなままであるように――
二人は歩みを揃え
また次の角へと向かった。




