第百十九話 冬宵の双六
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
夕暮れ、広間に灯がともる。
畳の上には双六が広げられ
子どもたちが円になって座っていた。
伊東祐兵と島津豊久は
向かい合うのではなく
子どもたちの輪の端に腰を下ろす。
「さあ、振れ」
豊久が笑みを含んで促すと
小さな手が賽を転がした。
ころり、と音が弾み
歓声が上がる。
進む、戻る。
橋を渡り、振り出しに戻る。
泣きそうな顔も、すぐに笑顔に変わった。
祐兵は勝ちを急がない。
出目を確かめ
「次がある」とだけ言って
子どもに順を譲る。
「殿さま、強いんでしょう?」
そう問われ
祐兵は首を振った。
「双六は、運だ。
だが、楽しめるかどうかは、人次第だ」
その言葉に
子どもたちは不思議そうに頷き
また賽を振る。
豊久は一度、大きく進んだが
次の目で見事に戻された。
「これは参った」
そう言って肩をすくめると
子どもたちが声を立てて笑った。
足元では、小春と黒猫が
盤の端に丸くなり
転がる賽を目で追っている。
勝ち負けが決まる頃
外はすっかり夜だった。
最後に上がったのは
いちばん小さな子だった。
「やった!」
跳ねる声に
祐兵と豊久は同時に頷いた。
「良い目だったな」
「今日は、これで大勝ちですな」
双六は畳まれ
灯は少し落とされる。
冬の夜は長い。
だが、この宵は
笑いと温もりで満たされていた。
それもまた
大切な日々の一つだった。




