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第百十九話 湯気のあと
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
鍋を片づけ
火を落とすと
夜気が一段と澄んだ。
伊東祐兵と島津豊久は
腹ごなしにと、戸を開け散策に出た。
月は高く
雪の名残が道の端で淡く光る。
歩みはゆるやか。
さきほどの鍋の温みが
まだ身体に残っている。
「食べ過ぎましたな」
豊久が小さく笑う。
「冬は、動いて帳尻を合わせる」
祐兵は前を見て答えた。
町外れまで来ると
人の気配は薄れ
川面が月を映していた。
足元では小春と黒猫が
影を追うように先を行く。
しばらく歩き
二人は橋の上で立ち止まる。
水の音が静かに響く。
「狩り、鍋、散歩。
この順が、ちょうど良いですな」
豊久が呟く。
「余計なことを考えずに済む」
祐兵が頷く。
風が吹き
袖が揺れた。
冷えはあるが、嫌ではない。
帰り道
歩幅は自然と揃っていた。
腹も、心も落ち着いた頃合いだ。
夜は深く
冬は静か。
二人と二匹は
その静けさを踏みしめるように
ゆっくりと家路についた。




