117/136
第百十五話 冬山の径
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
小春と黒猫…二人の飼い猫
町を離れると
道はすぐに細くなり
杉と松の影が折り重なった。
伊東祐兵と島津豊久は
近くの山へと足を向ける。
踏みしめる落ち葉は乾き
霜の名残が白く縁取っている。
風は冷たいが、刺すほどではない。
歩を進めるごとに、町の音は遠のいた。
「冬の山は、余計なものを削ぎますな」
豊久が低く言う。
「人の考えも、同じだ」
祐兵は前を見据えたまま応じる。
尾根に出ると、視界が開けた。
城下が小さく見え
川は銀の帯のようにうねっている。
足元では小春と黒猫が
慎重に石を選びながら進んだ。
二人は立ち止まり
しばし風を受ける。
何も語らずとも
同じ景色を同じ時間に見ることで
考えは静かに揃っていく。
帰り道
祐兵は一度だけ振り返った。
「また来よう。
雪が深くなる前に」
「ええ。
次は、違う径で」
山は何も語らない。
だが、歩いた者にだけ
確かな静けさを返してくれる。
二人と二匹は
その静けさを胸に
ゆっくりと町へ戻っていった。




