第九十八話 正月明け
祐兵さんと豊久くん 登場人物紹介
祐兵さん…伊東祐兵。紆余曲折を経て、飫肥藩初代藩主になった。知略に優れ、学問を愛する。
豊久くん…島津豊久。島津氏家臣で、島津家久の息子。武芸一筋で、まっすぐな心を持つ。
正月の賑わいが過ぎ
町にいつもの静けさが戻った朝。
空気は冷たいが、どこか軽い。
伊東祐兵は袖をまくり
庭先で薪を割っていた。
乾いた音が、一定の調子で響く。
「休み明けは、身体を動かすに限るな」
島津豊久は頷き
割れた薪を整えて積み上げる。
「正月は心を整え、明けたら手を動かす。
良い区切りです」
庭の隅では
小春と黒猫が
積まれた薪の間を巡回するように歩いている。
仕事ぶりを見張っているつもりらしい。
薪割りを終えると
今度は畑へ出る。
凍った土を鋤で軽く起こし
冬野菜の様子を確かめる。
「寒さは厳しいが
根はしっかりしていますな」
「目に見えぬところで
皆、働いている」
昼には簡素な握り飯。
立ったまま食べ
すぐに次の用へ向かう。
「正月が終わったという実感が
ようやく湧いてきました」
「日常に戻る、それだけだ」
夕刻、道具を片づけ
二人は軽く息をついた。
「働くというのは
落ち着きますな」
「うむ。やるべきことがあるのは
ありがたい」
足元で小春が鳴き
黒猫が欠伸をする。
一日の終わりを告げる合図のようだった。
正月明けの仕事は
派手さはない。
だが確かに
新しい年を前へ進めていた。




