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運命じゃない私の、新しい恋について  作者: 束原ミヤコ


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手紙鳥ウル



 オーウェンにきつく抱きしめられていたリリアは、軽くその服を引っ張った。


「オーウェン様、少し、苦しいです……」

「あ、あぁ、すまない。……君と共にいられることは、なんて貴重なんだろうと思ってしまって」

「私も同じです。……私たちもいつか、二人のように迷わずに、月へ登れるといいですね」

「……リリア、それは激しい口説き文句だ。死後も私と共にいたいという意味に聞こえる」

「あ……本当ですね。でも、もしオーウェン様がお嫌ではないのなら、あなたと共にいたいです。あなたの傍では、とても楽に呼吸ができます。世界が、鮮やかに見えるのです」


 オーウェンはリリアから手を離すと、まじまじとリリアの瞳を覗き込んだ。

 リリアは微笑む。素直に感情を伝えられるというのは、なんと貴重なことなのか。


 いつか唐突に命が終わってしまうかもしれない。

 最後の言葉も交わすことができなかった、アリル王女とリンデルのように。

 リンデルには大きな後悔が残ったのだろう。


 ここは二人の棺だ。残酷な世界から二人を守る、隠された場所。


「私も同じだ。君に、ずっと隣にいてほしい。強い愛で結ばれていると古の死者に認められるというのは、中々に誇らしいものだな。……リリア、いつか命が終わったら、私はここで、月のしるべのあるこの場所で待っている」

「はい。私も、あなたを待ちます。オーウェン様、でも……できるだけ長くあなたと人生を歩みたい。ずっと元気でいてくださいね」

「あぁ。君も」


 永久の誓いをするように、オーウェンはリリアの額に口づけた。

 リリアは微笑んで、それから、再びリリアを抱きしめようとしたオーウェンの胸を叩く。


「オーウェン様、ミミズクが……」


 祭壇の上で眠っているように見えたミミズクが、大きく羽を広げている。

 それは普通のミミズクよりももっと大きい。よくよく見ると、ミミズクの開かれた両目は不思議な青い光を放っている。リリアは手を伸ばしてミミズクに触れてみる。


 ふかふかと柔らかいが、体温を感じない。


『どこにとどけますか、どこにいきますか、なにをはこびますか、なんなりとおもうしつけください』


 ミミズクは、少女の声でそう話した。

 

「あなたは……話ができるの?」

『わたしはファズマ機械、てがみのとり、ウル。りんでるさまが、わたしをつくりました』

「すごい……! リンデルとアリル王女は、あなたに日記を運んでもらっていたのね。あぁ、なんて素敵なのかしら……!」


 リリアはミミズクを抱きあげた。赤子ほどの大きさのある鳥だが、かなり軽い。

 ミミズクはリリアの腕の中で大人しくしていた。

 ウルができる会話には、限りがあるのかもしれない。


「これが……二人を繋ぐもの。ファズマとは兵器ではないと、リンデルは書き残していた。彼女はこういった機械を作って、生活に役立てていたのだな」

『りんでるさまは、てんさい、です』

「ふふ、そうね、リンデルほど賢く強い魔女はいないわ」


 もちろんこの魔女とは、いい意味の魔女だ。

 尊敬と敬意をこめて、リリアはリンデルを魔女と呼んだ。


 リンデルとアリル王女の遺体や、持ち出すことが難しいほどの大量の財宝をこのままおいておくことはできない。

 だが、オーウェンとリリア二人では運び出すことは困難だ。


 一先ずは宿に向かい、ハーヴェイに連絡をするということになった。

 リリアとオーウェンはウルを連れて地下室から地上に向かう。


 長い時間、地下室で過ごしていたらしい。

 すっかり日が落ちて、夜空には月が輝いている。


 その月の光が、まるで一筋の道のように石の門から天上へとのびていた。


 リリアはウルを抱いて、オーウェンはその隣で月のしるべを見あげる。


 その白い月光の道を、リンデルとアリル王女が手を繋いでのぼっていく。

 その先に優し気な面立ちの美しい女性──王妃フィオナが、手を広げて待っているような、幻を見た気がした。


 丘から降りて、宿に向かう。丘の下で待たせていた馬車の御者は「やっと戻ってきましたね、心配しました」と言っていた。

 近くの街まで送ってもらい、宿に向かう。

 先に入浴をすませたリリアは、オーウェンがシャワーを浴びている間、ウルと話をしていた。


 ウルは自分のこと、リンデルのことは少し話せる。

 それから、何をするか、何を運ぶかを尋ねることができる。


 運びたい荷物をウルの首にかけて固定する。そうすると、ウルは荷物を運んでくれる。

 耐荷重は、交換日記三冊分まで。それよりも重い荷物は持ちあげて飛ぶことができない。


 リンデルはアリル王女と交換日記をするために、ウルをつくったようだ。

 

 ウルは何もない時は、目を閉じて眠っている。動力源であるファズマのエネルギーは、ウルを動かす程度なら半永久的に保たれる。


 これはファズマが、太陽光を吸ってエネルギーに変える性質がある鉱石だからだ。


 そんなことを戻ってきたオーウェンに説明すると、オーウェンは「君は恋人でもあり、優秀な協力者だな」と言ってリリアの頭を撫でた。


「太陽光を吸う鉱石、か。今もどこかに、その鉱石はあるのだろうか。もし見つけることができたら、王国の機械技術はもっと発展するのだろうな」

「兵器に……使われないでしょうか」

「それは使用する人の心がけしだいだろう。火薬も、使い道によってはとてもおそろしいものだ」

「そうですね。……私はハーヴェイ様を信じます。オーウェン様がハーヴェイ様を信頼しているように」

「それは少し、妬けるな」


 オーウェンはハーヴェイに手紙を書いた。

 何があったか、何をして欲しいのか、そしてオーウェンたちがこの街で待っていることを。


「ウル、これを運べるか? 昔と今では、風景も変わっている。だから難しいかもしれないな」

『できます。わかります。場所と人をおしえてください。ウルははこぶことができます』

「では……ハーヴェイ・ラファルに手紙を運んでくれ。場所は……」


 リリアは持ち物の中から小さなポーチを取り出して、紐を縫い付けた。

 それをウルの首からさげて、ポーチの中に手紙を入れる。

 ウルはどこか得意気に、大きく翼を広げた。

 それから、窓をあけてほしいと、リリアに頼んだ。リリアが窓をあけると、ウルは窓から夜空へと飛び立っていった。



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