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Chapter9~10

●9 来訪者たち


「で」


 わたしは顔をあげた

 目の前には2人の男女。


「どうしてあなた方がそろってウチにいるんですか?」


 目の前にはチャコールのスーツをダンディーに着こなしたニケ部長のダグ、そして、ナルシアが見せてくれた写真にうつっていた、赤いライダースーツの女刑事がいた。


「そこで出会ってね。軽く自己紹介はしておいた」

「いや、そういうことではなく……」

「キミが来いって言ったからだよ」

「そうは言ってません。ホログラムは家にあると言ったんです」

「そうだったかな?まあ、固いことは言いっこなしだ。サーシャを助けるためには仲間は多いほうがいい」

「それは、そうですが……で、あなたはどうしたんですか?」

 女刑事は腕組みのまま、

「アンタ、なかなかのイケメンやね……。うちのアンドロイドもかなりなもんやけど、アンタの方がかっこええわ」

 と、表情を変えず、軽くポニーテールを揺らした。

「初対面ですよね?」

「ナルシアから、ゴーストレターもろたんや。ウチが動かんわけにはいかん」

「だったら、どうして普通にメールよこさないのです?」

「ふん、イケメンでも、やっぱりアンドロイドは単純やなあ。誘拐には極秘調査がデフォなんやで」

「表に派手なパトカーとまってますよ刑事さん」


 壁穴の向こうには、一台のパトカーが、大あくびの警官を乗せてとまっていた。


「まあ細かいことはええ。ところで、ウチを刑事さんて呼ぶのはなし。街中でそう呼ばれたら、素性ばれるさかいなあ」

「わかりました。で、なんとお呼びすれば?」

「せやな……」

 女刑事さんはリビングの天井をあおいだ。

「オーサカて……どうや?」

「それ、素性につながりますよ」

「アンタかしこい。……なら名前のサキで。本部には休暇の届け出すつもりやし、バレたらバレたときのことや」

「急に適当。まあいいですが、わかりました、サキさん」

「モルドー、サキ、ダグ……。なんだかギャングみたいだねえ」

 壁の鏡をみつけたダグが、のぞきこんでタイをちょいと直した。

「面白がらないでください。こちらはひとり娘が誘拐されて、一刻も早く居どころを見つけたいんです」

「もちろんわかってるさ。われわれはサーシャを助け出すために、ここに来たんだ。で、どうするんだね?ナルシアはいつ呼び出すの?」

 このひと、ナルシアに逢いたいだけなんじゃ……。

「心配せんでもええ。秘密は守るし、違法な手段にもある程度は目ぇつむる。非常事態やさかいな。遠慮せんとウチら頼ってんか」

 冷静な口調で言われて、信頼のパラメーターが上昇する。

「……いいでしょう」

 わたしはちょっとした抵抗を表現するため、ちょっぴりためいきをついてみせた。

 あれこれ言い争っている時間はなかった。

「とにかく時間がありません。今からわたしのやることを邪魔しないと誓ってくれますか」

「誓うとも!」「誓うわ」

 あ、二人とも、意外に素直だ。


 GDCにアクセスして命日をふたたび書きかえ、通知を待ってダウンロードを行うと、ホログラムをたちあげた。

 目の前に、生前と変わらないナルシアの胸から上が、立体視で表示された。

「あら、にぎやかだこと。あ、そこにいるのは店長さん?」

 スーツのポケットに左手をつっこんだポーズのダグが、アゴ髭の顔をくしゃっとさせて声をあげた。

「おお!ナルシア、久しぶりだね。覚えててくれてうれしいよ」

「こちらこそうれしいわ。店長も元気そうね」

「元気だとも。今はニケの役員なんだ。君の市場予測プログラム、覚えてるかい?今でもずっと使ってるよ。君がいてくれたら、とずっと思ってる。」

「それは私も嬉しい。偉くなったのね、おめでとう。……でも、どうしてここに?」

「モルドーに頼まれてね」

 ナルシア、それ、嘘です。

「あ、サキさん、ゴーストメール読んでくれたのね?」

 サキが腰に手をやった。

「そや。ナルシアの一大事やもん」

「ありがとう。死んだ私には何もできない。サーシャを助けてやってね」

「ウチをよう知ってるやろ。なんも心配いらんでナルシア」


「ナルシア、あのニケのシューズは、限定販売品で全国に二百五十足が送られたんだ。映像を見ると、二十六センチ以下なので、そのうちの百九件が該当する。すでに購入者には位置情報をもらうよう、偽メールを送ってある」

「なるほどね。犯人なら返事しないわよね」

「そう。犯人なら、こんなときに位置情報を送るはずがないからね。明日までに、返事がない人間をあたってみるつもりだけど、百九人から何人にしぼれるか、まだわからない」

「マンホールはどうなの?」

「下水局の担当者にマルウェアを送ってブレットをハッキングした。……あのときの、ピーターさん、覚えてるかい?」

 ピーターさんとは、ハンドル名『ピーター・ラビット』ハッカー氏のことだった。

 ナルシアは一拍おいて、

「……覚えてるわ」

 と、それだけ言った。

「彼にも協力してもらってる。犯人たちが逃げこんだ可能性のあるマンホールを下水局のデータから彼に調べてもらったところ、三十か所を候補として警察に送っていることがわかった」

「ずいぶん多いのね」

 画面のむこうでナルシアが首をかしげる。

「そうなんだ、ピーターさんの話では、あとで偽装されたんじゃないかと」

「だとすると、かなり大きな相手ってことね」

「いずれにせよ、そのすべてを調べるのは大変だから、シューズの靴跡をさがすニセの懸賞ゲームをつくって配布したよ」

「それは名案!モルドーったら、ピーターみたいよ」

「実は、わたしの半分はハッカーチップだった」

 わたしは、ピーター氏から聞いた自分の秘密について説明した。

「……知らなかったわ」

「わたしもだよナルシア」

 ひと呼吸おいて、わたしはブレットを開いた。

「さっき、投稿先のページもつくっておいたから、足跡との検証もそのコミュニティーで行われている。まだ一致はしていないようだけど……いや」

 わたしはブレットを見せた。

「もう、見つかったみたいだ」

 横合いから、顔をのぞかせたダグが、わたしのブレットをのぞきこむ。

「本当だ。スレがどんどん伸びてるね」

「誰かが赤外写真をアップして、それについて議論がされているようです。今、大型モニタに転送します」

 みんなで大型のホロモニタを見る。コミュニティーに集まるユーザーのやりとりが、つぎつぎに表示された。

(やったー一致!)

(ホントだ!すげー!)

 一般人のレスは、一枚の赤外線映像に集中しているようだ。

 わたしはその中のひとつを大きく表示した。

 幹線道路のわきに、用水路とマンホールがあり、その周りにたくさんの足跡が、赤外線で白く撮影されていた。

(この写真の撮影場所は、X市のはずれです。ナンバー134の地下水路への分岐ドアの近くになります)

「ここからは百キロほど、あるな」と、女刑事さんが言った。

「そうだわ!」と、ナルシア。

「もしも地下に彼らのアジトがあるのなら、たくさん電力を消費してるんじゃないかしら」

 なるほど、たしかにそうかもしれない。

 基地になっている地下の特定のエリアだけ、きっと他の場所より多くの電力を消費しているはずだ。

 そして、それを調べることで、犯人たちの居場所、つまり、サーシャの居所を特定することが出来る。

「うん、この地図の場所のブロック電気使用量を、去年のものと比較してみれば、なにかわかるかもしれない」

「モルドー、いい考えよ」

 時間切れのアラーム音が鳴った。

 ナルシアは悲しそうにほほ笑んだ。

「残念だけど、今日はここまでね。ねえ、みんな、力を貸して!サーシャを助けて!」

 わたしたちは大きくうなづいた。

 ホログラムが消えた。

「ほなモルドー、さっそく下水道局のシステムで、電力量の記録を調べよか」

 サキは私の肩をぽん、と叩いた。

「もうやっています」

 わたしは、自分のブレットを見せた。

「区域別の電力消費データがありました」

「へえ、アンタ、下水局のアカウント、持ってるんか」

 画面をのぞきこんでいたサキがぽつりと言った。

「マルウェアを送って盗んだんです。このアカウントとパスには期限があるようですが、今は通りましたね。パスの変更は不可能ですし、下水局のアカウントって意外に強固です」

「そらええな。……ウチら警察のデータベース、JPSAの暗号はもう一年も変わってないわ」

「ニケもおなじようなもんだよ。でもまあ、テロ対策とか考えると、下水局の方が重要性が高いのかもしれないね」

「……アンタ、かしこい」

「どういたしまして」

 誉められたダグが、照れくさそうに笑った。

「おかしいですね。どこか特定の一か所だけ消費電力が多い、というのは、ないようです」

 わたしは首をかしげた。「消費電力が多いのは……五か所かな?」

 その場所を表示して、ホロモニターに送った。

 サキがその画面を注視した。

「ビンゴがひとつ、あとの四つは偽装工作か。この五か所は、さっきネットで足跡情報があった場所とは一致してるんか?」

 わたしは自分のブレットから情報を抜き出し、

「両方の座標を、地図で照合してみましょう」

 と、ふたたび大型のホロモニタに送った。

「どれどれ……一致はないけど……ひとつは電力消費の多い二か所と結構近いみたいだよ」と、ダグがつぶやいた。

 見ると、五か所のうち、北部の二か所のちょうど真ん中あたりに足跡情報の場所がかさなっている。


 整理するとこうなる。

 足跡情報の場所は地下への入り口だから、犯人たちはそこから地下に降りた後、電力消費の多い北部の二か所のうち、そのどちらかに向かった……。

「ウチらなら、どっちも虱潰しに捜索かけるけど、今回はそうもいかんな」

 ピロピロリン!

 そのとき、わたしのブレットに、メール着信の通知がきた。

 わたしはそれを開いてみた。

「……みなさん、わかりましたよ」

 わたしに感情回路があったら、きっと大声で叫んでいただろう。

 メールの文面を表示して、わたしは目の前の二人に、微笑んでみせた。



●10 地下大爆発



 壁の酸素供給口から、酸素がシューと噴出してる。

 ボコボコという泡立つ音がして、水差しにつっこまれた電線が泡立ってる。

 もうひとつのコンセントには電源ケーブル、その先は被覆を剥いて、さっき腕に貼られた絆創膏のテープを使って、部屋のドアに貼りつけた。

 ドアを開くと、電線が接触するように細工したつもり。

(大量の酸素と電気分解された水素、あとはスパークがあれば、爆発するはず)

 すみにあった机を逆向きにして、そこに隠れるように工夫する。

 水素と酸素の爆発が、どんなものになるのか、ちょっと想像がつかない。

(あれから二時間だし、そろそろ、いいんじゃない?)

 ボクは心の準備をして、寝台の呼び出しボタンを押した。


 プー!


(どうしたの?あ、映像が)看護師さんの声だ。

(え?ど、どうしたの?)エンドアの声もする。

 もちろん、カメラはくつ下をかぶせて見えなくしてある。

「すぐ来て!大変!」

 ボクは机の中に身をひそめて叫んだ。

 まずは鼓膜が破れないよう耳をふさいで、あとはなんだっけ?

 そうだ、鼻からの気圧を抜くために口をあけるんだ。

 廊下を誰かがバタバタと走ってくる。

 ドアのむこうに着いて、開錠のボタンを押す。


 ジー、カチッ!

 ドアの開く音。

 電線の先どうしが接触する。

 バシッ!


 バアアアアアアアアアアアンンンン!!!!


 予想以上の、すごい衝撃が走る。

 机がどおっと押されて、ゴッッ!!!と、壁にぶちあたる。

 ボクは必死で衝撃に耐えた。

 いつのまにかぎゅっと閉じていた目をあけてみる。

 部屋中、もうもうとした白い煙が舞いあがってて、あたり一面なんにも見えない。

 ああ、早く動かなくちゃ!

 あまりの衝撃に身体が言うことをきかない。

 おまけに耳がキーンとなっていて、音がなんにも聞こえない。

 でも、ケガはしてないぽい。

 大丈夫!これなら逃げられる。

 ボクはなんとか立ちあがって入り口の方に裸足のまま、走り出す。

 廊下に、アンドロイドの看護師さんが倒れているのを見て、ボクはごめんね、とつぶやき……靴を借りることにした。


 廊下を走る。覚えている経路を逆にたどるんだ。

 たしか出て左、あのアンドロイドの人が来たのとは反対の方だ。

 そうこっち、この角は覚えてる。

 ここをもう一度左、で、ここからは階段。

 あっ!鉄の扉があった!開けてみる。

 ここだ!電気の機械がいっぱい並んでる部屋。

 この部屋の奥の、鉄のハシゴをあがるんだ。

 知らないうちに、ひたいに汗をいっぱいかいてる。

 急いで部屋の中にはいる。

 天井からぶら下がるいくつもの白い碍子と、太い電線。

 あれには、たぶん高圧の電気が流れているんだ。

 金網に囲まれている大きな機械は、変圧器だ。

 うん、ボクって偉い。

 連れてこられた時のことを、ちゃんと覚えてる。

 警報とかが鳴り響くかな、と思ってたけど、なんにも鳴らないからほっとする。

 ここって悪い基地だし、そういう警報設備は切ってあるのかも。

 ボクはその部屋の奥に走ってハシゴをのぼる。

 ここから登って下水道にでたんだっけか?ああ!このハッチだ!

 ハンドルをなんとか回して、開けようとしてみる。

……ダメだ!少しはもちあがるけど、すぐに戻されてしまう。

 ボクの力じゃ、とてもこの重さに勝てないんだ。

 でもここから逃げるしかない。

 もう一度トライ!こんどは肩で……ああやっぱりダメ。

 ハッチをあきらめたボクは、いそいでハシゴを降り、部屋の対角にある入り口に戻った。このままだと、すぐに追いつかれてしまう。

……たしか、鍵があったはず。

 見ると、鉄のドアにノブがあって、その下には、中から鍵がかけられるラッチがあった。

 やっぱりね!

 きっと、中で危険な作業をしているときに、間違って、入って来られないように、するためだ。

 外から鍵をまわされたら、それで終わりだけど、かけないよりはまし!

 ボクは急いでラッチをひねった。




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