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王太子との婚約破棄後に断罪される私を連れ出してくれたのは精霊様でした  作者: 星井ゆの花(星里有乃)
逆行転生編2

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01


 ――物語の場面は、現代精霊界に戻る。

 水鏡を介してティエール達にもたらされた情報、それはイザベルの転移先がアリアクロス暦1720年の秋であること。さらにそれが、逆行転生という禁呪だということだった。

 光の粒となって、水鏡をゲート代わりに過去へと流れ込んだイザベルの魂、キラキラと瞬く星のように命の輝きを空間内に漂わせ……やがて闇へと沈む。


「逆行転生、とは……現代の魔法ではあまり聞きなれない技術! もしや、我々はとんでもない禁呪に、手を出してしまったのではっ」

「それって、過去の世界ではイザベルさんが、ご先祖様自身に成り代わっちゃったってことでしょう? もし、万が一何かが起きて、歴史が変わってしまったらどうするの」

「ロマリオ、ミンファ、落ち着くのじゃ。長い精霊界の歴史において、時代の節目にはそのような儀式を行い、過去と現在の因果を調整していたと聞く。おそらく数百年ぶりの節目に、我々が当たってしまったのだろう。それに過去を大幅に変えることは、未来から子孫が訪れることを否定することになる。そのパラドックスが存在している限りは、大丈夫なのじゃよ」


 鉱石精霊の2人が同様の声を漏らすが、かなり昔の精霊界では時折行われていたということ。しばらくは変化を見守るしかない、という結論に至った。


「イザベルは、彼女自身のご先祖様の肉体に魂を宿すことで、過去の世界へとワープしたのか……。しかしだとすると、その肝心のご先祖様の魂は、イザベルが逆行転生した後にどうなってしまうのか」


 するとティエールが別視点から、『過去の時代のご先祖様に成り代わる』という現象の疑問点を指摘。


「そういえば、そうですよね。イザベルさんの魂が、ご先祖様の肉体に宿るとして。ご先祖様の魂そのものは、どこに滞在するのかしら。学校では逆行転生なんて禁呪について、学ぶ機会すら無いし」

「小妖精の中には、時を超える儀式のお供を行っていた子もいたらしいけど。私の周囲にはそのお仕事をしている子はいないの……多分、その禁呪は東方の国から伝承されたものだから。噂好きが小妖精の特徴なのに、あんまり役に立てなくてごめんなさい」


 魔法を専門的に勉強中のミンファも続いて疑問点を呟くと、小妖精リリアが情報不足を悔いて小さな羽根を畳んで謝った。


「いや、逆行転生という禁呪が、東方の国由来だと分かっただけでも、大きな進歩だよ。そうか、この水鏡は東の方の精霊界から、もらってきたものなのかも知れないね。どうりで見慣れない記号が、水鏡周囲の石に刻まれていると思ったよ。いや、これは記号では無いか……おそらく東の方の国で使用される【漢字】というものだ!」

「確かに……この水鏡が星を使う占星術盤をモチーフにしたものであるなら、ホロスコープ的な記号が周辺に刻まれていてもおかしく無いのに、見覚えのないものばかりだわ。つまり、この技術は西方の国の占星術ではなく、東方の国に伝わるいずれかに由来した星読み技術なのかも」

「そうだったのか……んっ……。オレの記憶違いでなければ、確かイザベルさんを窮地に追いやったとされる聖女ミーアスも、東方の国から流れてきた輩だったような気が。いや、杞憂であれば良いが、イザベルさんは過去の世界で無事なのだろうか」


 イザベルを追いやった元凶である聖女ミーアスも、逆行転生の禁呪に関する何らかの知識を持つ可能性があるとしたら……。不安要素となり得る情報だが、伝えたくとも既に過去へと旅立ったイザベルの魂は、瞼の裏に残像として残るばかりとなっている。ティエールをはじめとする儀式に立ち会った面々が、その余韻までも吸い込む水鏡を複雑な気持ちで見守っていると、ある変化が。


 水鏡が天窓から浴びた光を投影するかの如く、その光は次第に人間の姿を形作っていき……まるで召喚魔法のように一人の女性をこの場に喚び出した。


 ストンッ!

 空中から降りてきた女性は咄嗟に受け身の姿勢をとり、床に頭をぶつけないように身体を守る。


「だっ大丈夫ですかっ」

「お嬢さん、しっかり!」

「ん……うん。ここは、どこ?」


 イザベルと入れ替わるように突然現れた女性の身の安全を確保するため、慌ててティエール達は彼女に駆けつける。見覚えのある金髪、イザベルと似て非なる顔立ちの美しい娘は、一体何が起きたのか分からないと言った様子。彼女を動揺させないように、極力優しい口調でティエールがゆっくり説明をすることに。


「ここは精霊界のとある儀式場ですよ、本来ならば人間は訪れることすら叶わない場所ですが。儀式を行ったのは我々ですから、貴女の身はしっかりと守られるでしょう。身辺確認のため、お名前を聞かせてもらえますか?」

「私の名は、ララベル。ララベル・ホーネット。貴方こそ、姉の婚約者のオリヴァードではなくて? ううん……僅かに違うわ。貴方、どこかレイチェルお姉様に似ている。どう言うこと……意識が遠のく……」

「オリヴァードは、祖父の名前のはずですが……ララベル・ホーネット、まさか貴女はイザベルの先祖! はっ……いけない、早く手当を!」


 水鏡の術を用いて行われた逆行転生の時間軸は、別の時代ながら並行して同時に時が進んでいた。イザベルの魂が先祖に成り代わった瞬間に、ララベル・ホーネットという過去の時代の巫女が現代の精霊界にタイムワープしたという事実がその証拠。


 この時ようやく、自分達が過去と未来の砂時計を『同時に』ひっくり返してしまったことに、気づくのであった。


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* 2022年03月05日、長編版完結しました。ここまでお読み下さった皆様、ありがとうございました! 小説家になろう 勝手にランキング  i850177
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