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ほんの少しの世間話のつもりが、気がつけば、地上の危機やら救世主伝説やらの大袈裟な話に移行していた。するとタイミングよく、ロマリオのはとこであるミンファが休憩小屋に訪れた。イザベルとティエールが実のところ親戚であるという裏事情を聞かされている最中という偶然の一致。
精霊達にさえ捉えるのが難しいとされる『見えない神』が、この話題がこれ以上続かないように、ストップをかけたのだろうか。
「ロマリオお兄ちゃんの怪我の具合が心配だから、様子を見る意味でもサポートしたいって思ったんだけど。迷惑でしたか?」
「いやいや、ミンファちゃん。非常に助かるよ」
上官はササッと書類をしまい、ドアを開けて来客であるミンファに愛想良く対応。厳つい容姿に似合わず意外とフレンドリーなのが、彼ら『鉱石精霊』の特徴でもある。外見はゴツゴツとした岩のようでありながら、その内面には柔らかな光を放つ癒しの天然石をそれぞれ秘めているのだ。
ロマリオも上官と連携して、来客用のアイスティーをすぐテーブルに用意。やはり同じ鉱石精霊の魂がそうさせるのか、上官の特徴は自分の特徴でもあるのだろうとロマリオはため息を吐いた。そのため息の意味が、心の疲れから出るものなのかそれともホッとしたという合図なのかは、ロマリオ自身にも分からない。
「うわぁ! このアイスティー、貰ってもいいの? 私、ちょうど喉がカラカラだったの。思ったより、今日って日差しが強くなりそうなんだもの。ん……冷たくて美味しい」
「ミンファ……サポート役って、今日の仕事は精霊候補生であるイザベルさんの護衛だぞ。まだ女学生のお前に護衛のサポートは、重いのではないか?」
「うふふ。実はね、つい最近正式な魔法使いとしてギルドに登録したの。だから、女学生じゃなくてギルドの中級魔法使いなのよ! これでもギルド入会試験は、かなりの高成績だったんだから。ロマリオお兄ちゃんのこともよく知ってるし、サポーターとしては一番いいんじゃないかって。騎士団本部のお墨付きよっ」
イザベルに助けてもらった恩返しとして兵士としての護衛役を引き受けたロマリオだったが、怪我の後遺症などが心配されている段階。結局、気を利かせた精霊騎士団の上層部が、ギルドを介して最適なサポート役を呼んだのである。
それがまさか、まだ人間でいうところの十四歳くらいの少女にあたるはとこが登場するとは、ロマリオのお堅い頭では到底予測出来なかった。
ミンファが装備している淡い黄色の頭巾と焦げ茶色のボブヘアは、とてもマッチしていて魔法使いとしても割合優秀に見えるから不思議である。頭巾とお揃いの黄色いローブと大きなグリーンの鉱石がついた杖装備で、すぐにバトルに応戦できる状態のようだ。
「はははっ! 良かったじゃないか、ロマリオ。気心の知れた相手とコンビを組めば、憂鬱な気持ちも吹き飛ぶだろう」
「まぁ確かに、ミンファは親戚で幼少期からよく面倒を見てますし、妹みたいなものですから。気心は知れていますが……」
「それに彼女はデータ上、かなり優秀な成績の期待のルーキーだよ。あとは実践あるのみ、護衛される側のイザベルさんも女性が一人でも多い方が緊張も解れるはずだ。今日の任務、本番はこれからだぞ。しっかりな」
すっかり上官とはとこの勢いに押されてしまい、サポートを断ることすらできず、ミンファと一緒に任務場所へと向かうことになってしまった。
(あぁ……心配の種が増えてしまった! イザベルさんへの片想いの気持ちだって、自分の中でまだ折り合いがついていないのに。妹ポジションのはとこの面倒を見ながら今回の任務をしなくてはいけないなんてっ)
話の流れでつい、兵士休憩場所の小屋を出て任務先へ足を進めてしまったロマリオ。早朝よりもさらに日差しが強くなった屋外は、確かに怪我から回復したての身体には負担となる危険性も。上層部やギルドがサポート役を遣わしたのは、判断として合っているのだろう。隣でちょこちょこと嬉しそうについてくるミンファに複雑な気持ちを抱きつつも、ふとある違和感に気づく。
(そういえば、イザベルさんとティエール様もはとこくらいの血縁関係に当たるんだよな。もしお二人が、本来の関係に気づいたら……オレとミンファのように兄妹のような感覚になるのだろうか? それとも……?)
――それはおそらく、答えのない疑問。ロマリオとミンファは初めから血縁者として兄妹のように接しているが、イザベルとティエールは他人として出会っている。両者の関係を比較することなんて、もともと出来ないのだ。
「お仕事に遅れないようにしないとね、お兄ちゃん!」
「ああっ今日も一日、頑張ろう」
懐いてくるはとこの手前、情けない姿を見せるわけにはいかないと。今の瞬間くらいは、イザベルへの片想いの悩みを胸の奥にそっと仕舞い込むことにした。




